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zoom RSS 『光』/三浦しをん ○

<<   作成日時 : 2009/05/18 22:39   >>

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この『光』は圧倒的な質量をもって、水無月・Rを打ちのめした。三浦しをんさんは、とてつもない作家さんだと思う。
『君はポラリス』で「ただならぬBLも悪くない」なんて思わせておいて、『風が強く吹いている』で「この人すげぇ!笑いのツボを押しまくりだよ!」と大ウケした上に走りの美しさに涙させられ、『三四郎はそれから門を出た』では「しをんさんと私、好みが似てるかも〜」なんて盛り上がったものである。
・・・この人は、どれだけ沢山の作風を持ってるのだろう。

『光』というタイトルと真逆に、陰惨な過去を持つ3人の秘密が、20年後に彼らを堕とす。あの津波さえなかったら。家族を、故郷を失うことがなかったら。それぞれ別に生きていた3人の歯車が、偶然と執着を持って噛み合って回りだし、取り返しのきかないところまで彼らを運び去る。いずれ、壊れることが見えている歯車。

島を脱出し、成長し、就職・結婚・・・と淡々と日々を過ごす、信之。利用できるものは何でも利用して女優の座にのし上がった、美花。父親からの虐待にあいながら、信之の親愛を追い求める、輔。
信之はファム・ファタル(宿命の女)である美花を守るために、島で一つ、そして20年後にまた一つ、命を消す。
容赦なく、それぞれを追いつめてゆく、現実と罪。
「私は殺してとは頼んでない」と主張する美花。
「露見してもいい、その時の妻の顔が見ものだ」と思う信之。

三人称でありながら、信之・輔・信之の妻の南海子の視点で、それぞれの出来事が語られる。1つの出来事も、見る者の立場や感情が変わることで、全く違った側面が出てくる。
淡々と語る信之のおかげで、思った以上にサラサラと読み進められ、逆にその感情の薄さに慄然とした。その信之が、美花のことだけは全てを失ってでも守らなくてはいけない、と狂ったようになる。その結果、輔は父親をアル中で殺し、信之の歓心を買えたと喜んだのも束の間、その信之から邪魔者として排除される。

ただ夫の庇護に甘んじる主婦・南海子。その世間と上手く馴染めない焦燥が、私自身と重なって苦しかった。夫の失踪に心を痛めるも、一番の心配は自分と娘の生活を維持できるかどうか。輔からの手紙で真実を知っても、そして信之が輔を殺したであろうことが予測できても、それが表沙汰にならなければいいと、息を潜めて受け入れる。
その醜さは、甘さは。私の中にも、あるのではないか。私も勤めにも出ず、夫と子供たちが出掛けた後の家で、夫の収入を算段して生活している。願わくば、波風の立たない平凡な毎日を、と。
もちろん、輔のような相手はいないけど。おまえは甘い、それを突き付けられたような気がする。

一夜にして津波で多くの命を失った島は、20年後、その爪痕を残らず隠して、緑に覆い尽くされていた。島を壊滅させた力は、暴力は、どこから来て、どこへ行くのか。
信之・輔・美花、そして南海子の「光」は、どこにあるのだろう。
望んでも得られず、求めるものからは拒絶され、どこにも希望はない。
それでも、生きてゆく。ただ、生きてゆく。
なんとも陰惨で、救いのない読後感・・・です。

(2009.05.18 読了)


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著者:三浦しをん出版社:集英社サイズ:単行本ページ数:297p発行年月:2008年11月この著者の新


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
黒さを凝縮したような内容で、息が詰まりましたね〜。誰にも共感は出来ないんですけど、一歩間違えば…という怖さがありました。
このあとどうなるかは想像するしかないんでしょうけど、椿には、どうか明るい光を求める生き方をして欲しいなぁ〜と思います。
エビノート
2009/05/19 21:56
エビノートさん、ありがとうございます(^^)。
何というか・・・一皮剥いたその下にドロリとした事実が隠れていて、いつそれが表出するか分からないという、陰惨なラストが、本当の重苦しかったですね。
椿には、島の緑や椿の花達のように、強い生命力をもって、生きてほしいですね。本当に。
水無月・R
2009/05/19 22:50
引き込まれて一気に読んでしまったんですけど、救いのない話でしたね・・。
感情のうすい信之が美花にだけ見せる狂ったような執着は、心が冷えました。あの津波から後は、彼の中で時間が止まってしまったのでしょうか。
南海子の醜さは他人ごとではない部分もありましたが、最後に自分の胸にしまってしまうのはやっぱり無理!
june
2009/11/22 13:40
juneさん、ありがとうございます(^^)。
なんとも、空恐ろしい物語でしたね。
南海子の醜さ、大なり小なり人が持つものではあるのですが、あからさまに描かれると、本当に・・・。
確かに、自分の胸にしまうのは・・・無理ですよねぇ・・・(^_^;)。
水無月・R
2009/11/22 23:05

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