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zoom RSS 『太陽の庭』/宮木あや子 ◎

<<   作成日時 : 2010/06/21 21:26   >>

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かつて私は『雨の塔』を読み、その儚い美しさに、息苦しいまでの孤独に、とても心を打たれた。
本作『太陽の庭』は、その『雨の塔』と同じ世界に存在する、別の物語である。
源氏物語の現代版のような物語が、宮木あや子さんによって語り始められる。
だが、次第に物語は、違ったものに変わっていく・・・。

ホント、最初は「まんま源氏物語じゃん!」て思いました。
高貴な絶対的天上人・永代由継(えいだいよしつぐ)、由継の溺愛した正夫人でない寵姫・織枝の子供・駒也(織枝は由継の女たちに恨まれて死亡)、織枝にそっくりで由継に迎えられた鞠絵、正夫人の子供の和琴(わごん)と葵。
駒也は鞠絵に憧れを抱き・・・、子供たちの間には由継の後継を争う、生死をかけた熾烈な争いがあり・・・。
永代の子供たちは戸籍を持たず、永代の広大な屋敷・永代院は住所表示を持たず、ネット地図ではその所在地は塗りつぶされている。
この情報社会において、検索不可能な一族とその所在。
神として崇められ、日本の政治・経済界の拠りどころである、「永代院」の当主の神性とは。

「野薔薇」
駒也が語る、永代院の日々。父への裏切りと、父から託された未来。
「すみれ」
永代院から、「島流し」の女子学校へと追われた葵。そこで出会った都子という娘と、自分の侍女・美弥子。
「ウツボカズラ」
夜の植物園で〈白い子供〉と出会った和琴は、〈西の家〉で時の流れぬ不思議な日々を過ごすことになる。
「太陽の庭」
二十年ほど前の資料から「永代院」の名を発見した編集者・柿生が「永代院」を調べ始める。
「聖母」
庶民たちが「永代院」を襲撃した日、使用人の栄子は先々代由継の意志に想いを馳せる。襲撃が収まった後、西の家に向かった栄子は〈白い女〉の最期を見届ける。

『雨の塔』の「島流し」女子大学の元々の存在理由と、途中で変容した存在価値。こんな背景であっても、あの世界の美しさや悲しさは、少しも薄れない。
そして、生々しく迫りくる「永代院」の事情もまた、悲哀を帯びてくる。ファンタジーとは違う生臭さを感じる、という意味では、幻想性の高かった前半から後半部分は随分と変わってしまっているが、こういうのも悪くない。滅びゆくものの哀しさが、じわじわと忍び寄ってくる感じ、というのだろうか。

長く存続し〈西の家〉に選ばれし当主がいることにより、「上の階級」の世界で拠りどころとなっていた一族。
「上の階級」の拠りどころ、それは「日本という国」の弱いところでもある。何かしらに縋らずには生き延びられない国民性、のようなものを感じてしまう。
暴徒が迫りくる中、まだ子供のような当代・由継は、〈永代院を頼っている人々が、国を支え発展させてきた。拠りどころを失った彼らはどうやって生きていくのか〉と、問いかける。
実際、物語が終わる時、永代院3代に仕えてきた栄子はこう祈るのだ。
―――神を信じることもならず、神を失ってしまった私たちに、どうか祝福を。 (本文より引用)
だが、その祈りをささげるべき相手は、もういない。神性を失った「この国」は、どこへ流れてゆくのか・・・。
もちろん、それは物語の中の「この国」なのだけれど。

いくつか、日本神話からのモチーフのようなものが出てきている。
〈白い女〉が長い年月をかけて産む〈白い子供〉は〈蛭子(ひるこ)〉だろうと思う。イザナミ・イザナギが最初に産んだ不具の神子、その蛭子が指名する次代の由継であれば、神性を持つことが出来る、ということではないかと。
そして、栄子が見た〈白い女〉が自分の脚の間に松明を押しつけて焼く、というシーンも日本神話にあったように思う。もう、神は生まれない、「この国」はもう、神を得ることはできない、ということを象徴していたのだろう。
もちろん、西の家があったのは島根県。つまり出雲大社のあたりであろうと思う。出雲になら、悠久の時の流れぬ〈西の家〉があってもおかしくはないのではないか。
そして、××県として、県名を伏せられた〈島流し〉の女子学校は、〈西の家〉かあるいは伊勢近辺にあったのではないか。伊勢は、皇女が〈斎宮〉として一定期間、神のものとして仕える場所であるし。

ところで、『雨の塔』の終わりの辺りで、外の世界で大きな変動があったように描かれていたと思う。もしかしたらそれは、『太陽の庭』の永代院の崩落を指すのかもしれない。
それと確か、『雨の塔』で〈螺旋階段から落ちて死んだ子がいる〉という話が出てきた気がするんだけど、それは「永代葵は大津都子に螺旋階段から突き落とされた」という柿生の友人上原の調べ上げた事実のことではないか。
そうやって、お互いに響き合う物語は、美しい。

実は私には、『雨の塔』と『太陽の庭』でも語られなかったことで、とても気になっているところがある。
永代院の娘たちが〈贄(にえ)〉として〈西の家〉に出されていた、という部分である。
〈西の家〉の神性の効果をより上げるための表現、という取り方もできるが、そこに何かの物語を感じたのだ。
いつか、〈贄〉の娘達の物語を、読みたい。

(2010.06.16 読了)

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タイトル (本文) ブログ名/日時
太陽の庭(宮木あや子)
先に読んだ「雨の塔」のリンク作品。・・・とは言っても、別に「雨の塔」を読んでなくても大丈夫な感じですね。まぁ、読んでた方が、より理解できるっていうか、楽しめるのかな、とは思いますが・・・。 ...続きを見る
Bookworm
2010/06/22 12:34
太陽の庭 / 宮木あや子
あの「雨の塔」の外側の話。雨の塔では、資産家の娘、財界の大物の妾の子、有名人の子、どこか訳ありの金持ちの女の子たちだけが入学できる全寮制の学校が舞台だった。でも、どうしてそういう女の子たちが存在するのか?それがメインとなったのがこの「太陽の庭」。 ...続きを見る
たかこの記憶領域
2010/06/22 20:14
「太陽の庭」宮木あや子
太陽の庭クチコミを見る ...続きを見る
本のある生活
2010/06/23 14:55
『太陽の庭』 by 宮木あや子
最古の長編小説『源氏物語』にしても軍記ものである『平家物語』にしても、いや神話や民話、伝説に至るまで 人間はいつでも己の取り巻く現実を様々な言葉をつむいで「物語」に仕立ててきた。 それは幸せな時間、大切な人との会話、または悲痛な思いや別れなど自分の体験し得る物語だけではない。 時には自分の到底手の届かない富みや栄誉、地位名声を憧れと羨望の目をもって夢物語のように描き、 時にはそれらに嫉妬と憎悪の目をもってそれらを誹謗や中傷の的として世に暴露する。 ...続きを見る
■空蝉草紙■
2010/06/23 19:27
太陽の庭 宮木あや子
太陽の庭 (集英社文庫)著者:宮木 あや子集英社(2013-02-20)販売元:Amazon.co.jp 一般人には存在を知られず、政財界からは「神」と崇められている、永代院。地図に載らない広大な屋敷に、 ... ...続きを見る
苗坊の徒然日記
2013/05/16 23:25
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BOOKESTEEM
2016/05/08 08:41

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
あ〜たしかに「源氏物語」ですね〜!

前半と後半の雰囲気がガラリと変わってしまって、前半の雰囲気が好きだっただけに私的にはちょっとがっかり;;;な読書となってしまいました。永代院が滅びてしまうのも哀しい…。もっとこの世界を満喫したかったな〜と思いました。ということで、シリーズ化してくれないもんでしょうか…難しいかな^^;
すずな
2010/06/22 12:49
こんばんは。
今回の話は、長い歴史を感じました。
それにしても、息がつまりそうなはかなく脆い世界の中強さを感じるのは、宮木さんならではですね。
もっとこの世界をひろげて欲しいなぁと思います。
たかこ
2010/06/22 20:19
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
〈神〉がいなくなった以上、この世界は変わってしまうのでしょうけど、その神が失われたその後の世界が変わっていく様子、というのは読んでみたいですよね。
或いはもっと以前の話とか。
宮木さんは幅広い年代の物語を描ける方だから、ちょっと期待…したくなりますね♪
水無月・R
2010/06/22 21:14
たかこさん、ありがとうございます(^^)。
永代院は和琴で六十六代目、というような表現があったと思うんですが、気の遠くなるような長い年月を積み重ねてきたその永代院が、終焉を迎えるという物語、とても宮木さんらしいと思います。
こういう世界観は、すごくいいですね。
水無月・R
2010/06/22 21:28
「雨の塔」とこの「太陽の庭」のような世界のお話、好きです。こういう世界観を作り上げることができるってすごいですよね
私も「雨の塔」のラストは永代院の時代の終わりかなと思いました。
宮木さんには、またこういう世界観のものを書いてほしいです!
june
2010/06/23 14:54
相変わらずやってくれますよね、宮木さん!
それにもまけず実際の地まで予測してしまう水無月Rさんもすごい(笑)
何者かに縋らずには生きられない日本人。
全くもって・・・ですね。
それでも私は日本人が好きです。そんな日本人だからこそ愛おしくなります♪
空蝉
2010/06/23 19:25
juneさん、ありがとうございます(^^)。
美しくて哀しくて、淋しく澄んでいる感じが、とてもいい物語でした。
こういう世界は、いいですね。
シリーズ化は難しいかもしれないですが、宮木さんのこういう世界観の物語、また読みたいです♪
水無月・R
2010/06/23 21:52
空蝉さん、ありがとうございます(^^)。
いやぁ、学生時代ちょっと日本神話をかじったことがあるので、つい(笑)。
・・・そうなんですよねぇ。日本人は精神的な拠りどころが欲しい民族で、そこが結構弱点だったりするんですが、でも、愛おしい。
そういう土壌で育ってきた自分、でもありますもんね(^_^;)。
水無月・R
2010/06/23 21:58
こんばんは^^
確かに源氏物語のようですねー。そういえば頭の中で妄想していた登場人物たちはみんな着物を着てました^^
美しく切ない話でしたねぇ。宮木さんの世界観が好きです。
苗坊
2013/05/16 23:26
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
古(いにしへ)の空気漂う感じでしたね。
でも、その空気がどんどん薄れてゆき、生々しくも狂おしい現実が押し寄せてきたとき、「この国」は怖ろしいまでの、寄る辺なき人々の住む世界になった…という気がしました。
切なくて、狂おしくて、さびしい。
宮木ワールド全開でした。
水無月・R
2013/05/27 22:51
水無月さん、こんにちは〜^^
日本神話云々の話、言われてみれば意識して書かれていそうですね。奥深い…
読み終わってからも神様なんていなくても生きていける、という気持ちと、ずっといてほしかったという気持ちとが、行きつ戻りつしています。

確かに岬の学校と永代院を舞台としている2冊が出ているなら西の島が舞台の本が出てもおかしくない・・!と私も出てくれたらいいなぁというのに1票です。
yoco
2016/05/08 08:40
yocoさん、ありがとうございます(^^)。
〈神〉がいなくても、きっと現代の世界(この物語の世界)は回っていくのだと思います。
でも、〈神〉がいた時代とは一線を画した、何かぎごちなさが残るような気がします。

そろそろ、宮木さんに『雨の塔』『太陽の庭』に続く物語を書いていただけたら嬉しいなぁ…と思う今日この頃です。
水無月・R
2016/05/08 10:44

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