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zoom RSS 『雨月物語』/岩井志麻子 ○

<<   作成日時 : 2010/07/26 22:14   >>

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上田秋成は、父は不明で4歳の時に母と別れ、紙油商家・嶋屋の養子となった。
この『雨月物語』は、その秋成を養子に出した母が妖異となり果ててまでも、思いを込めて語り尽くした、魔の物語である。
岩井志麻子さんの手にかかると、上田秋成の母はこんなにも怖ろしく、そして読者を闇の世界に惹きつけてやまない語り手になるのですねぇ。
もちろん、舞台は岡山・・・。

水無月・Rが学生時代に一番まじめに取り組んだ文学が、上田秋成の『雨月物語』。
未だに魅力を感じ、ついつい『雨月物語』に絡む小説となると、普段読まない作家さんでも手に取ってしまう。
今回は『ぼっけえ、きょうてえ』で、女の怨みの深さをこれでもかと見せつけてくれた岩井志麻子さんですから、期待は大きかったですねぇ。
上田秋成の『雨月物語』は男の目線で描かれてるので、男尊女卑や女性登場人物の造形の浅さが少々気になるところもあったので。もちろん、怪異譚としての完成度は非常に高いと思うんですけどね。

秋成の母が自分の見聞きして来た怪異譚を伝えるこの物語は、秋成の描いた雨月物語とベースは同じものながら、妾(わたし)という語り手の「女性の視線」によって、女の怨念を色濃く描き出していて、なんとも恐ろしいものでした。
特に「夢応の鯉魚」における、僧侶に殺された元遊女の鯉女(こいおんな)の淡々とした、白々しくも「魚になった」経験を語る僧侶の物語は、ひたひたと恐ろしい。しかも、鯉女は自分が「湖の物の怪」であることに自由を感じている。怨みを忘れたかのような、鯉女の「自由を得た」という言葉が、怖ろしい。

また「吉備津の釜」の磯良の母の嫉妬も、醜いものだけれど身近な気がして、違った意味で恐ろしい。貞女よ賢い女よ、出来た果報者よと周りにもてはやされても、それでも尚、実の娘に嫉妬し、嫉妬することに苦しみ、怨み惑う気持ち。執念深い嫉妬心と、母として自慢に思う気持ちが綯い交ぜになって、矛盾する己の心を引き裂くその姿に、ひっそりと共感を抱いてしまうのは、私自身の中にもそういった闇があるからなのだろうと思うと、本当に恐ろしい。

上記以外にも、崇徳院と西行の語りあう「白峰」、ひたすらに約束を待ち続ける者の「菊花の契」、妻を想い慟哭する「浅茅が宿」、関白秀次の怨念「仏法僧」、蛇と男の愛憎を描く「蛇性の淫」、妄執のみを頼みに存在し続けた「青頭巾」、それぞれが妾の見てきた、別の側面を語っている。女の目から見れば、かような確執や恨み妬みが存在し、呪詛の声、祈り伏す声もそれぞれに、違ってくるものだと、気づかされる。

ただ一つ、小さな金銭の精霊の語る「貧富論」のみは、妾の視線ではなく、秋成の描いたように語られ、そしてその後〈物語の精霊〉として母が現れる。

秋成の母がみた、怪異の物語。秋成の枕辺に立ち〈物語の精霊なのだ〉と名乗って語ったこの物語達。秋成の『雨月』とはまた違った世界を、彼に語り、そして「母上」と呼ばれ、〈あちら〉へと旅立って行ったその終末。
怖ろしくもあさましく、そして悲しくも情念の深い、母としての原始的な感情が、とても印象的でした。

(2010.07.25 読了)

雨月物語
光文社
岩井 志麻子

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