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zoom RSS 『おとぎのかけら 〜新釈西洋童話集〜』/千早茜 ◎

<<   作成日時 : 2010/11/04 22:18   >>

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イソップ童話などの原典は、結構オソロシイ。現代に伝わる「意地悪な継母」が実母だったり、「懲らしめられ改心した元悪者」は罰として惨殺されていたり。
それらを何重ものオブラートに包み、悲惨さに安心を上塗りして隠し、現代の西洋童話は流通している。
そんな童話達を、あえて現代日本を舞台にして大胆に翻案した、『おとぎのかけら 〜新釈西洋童話集〜』
千早茜さんに拾われ、再構築されたおとぎ話のかけら達は、どんなオソロシイ世界を繰り広げるのか。

醜くて、美しい。真っ暗ではなく仄暗く、危うさを孕んだ均衡が崩れるその一瞬。歪に狂ったものが、正気を取り戻したかと思えばまた、狂気の淵に沈みゆく様。
面白い、というよりは目が離せない感じ。
表紙は赤地に黒と銀のレース模様という、クラシックでちょっとエロティックな装丁なんですが、中身と来たら相当毒が効いています。

あとがきによると、千早さんは西洋童話が嫌いで、元ネタになる童話は編集さんにセレクトしてもらったのだそうですが、一般に流通する物語とは全く違った作品になってましたねぇ、それぞれ。
元の物語は、どれも有名で、多分誰でも知っているようなもの。加工の仕上がりとしては、「ダークファンタジー」というよりは「三面記事的な事件に暗い幻想を上手く練り込んだ」という感じですが、そのさじ加減が絶妙。

「迷子のきまり(ヘンゼルとグレーテル)」
母親から虐待を受けている幼い兄妹。母を殺した彼らの行く末は。
「鵺の森(みにくいアヒルの子)」」
かつて苛められていた同級生と再会した僕は、鵺の事を思い出させられる。
「カドミウム・レッド(白雪姫)」
若さと美しさに固執する叔父の妻。彼女の元で助手を務める私。
「金の指輪(シンデレラ)」
少年の日に別離した少女の金の指輪。この指輪に合う女性に、会いたい。
「凍りついた眼(マッチ売りの少女)」
体を売る少女を覗く私は、客のエスカレートする仕打ちに暗い興奮を抱くようになる。
「白梅虫(ハーメルンの笛吹き)」
梅の木から虫を追い払う鈴をくれた女。彼女を避け始めたとき、起こった出来事。
「アマリリス(いばら姫)」
おばあちゃんは幼子になって眠りの狭間を漂っている。眠ることで、現実から逃げている私。

「迷子のきまり」は、ぞっとしましたね。最近、本当に虐待(育児放棄も含む)のニュースが多いですから。現実にありうるかもしれない。幼い兄が行ったことは、もちろん正しくはないのだけど、彼らが生き残るためには、こうするしかなかった。事件発覚後の事まできちんと考えている兄が怖ろしい。だが何よりも怖いのは、この物語の後に、この兄妹に幸せが訪れるという保証が、全くないこと。

「カドミウム・レッド」の、叔父の妻・美智子先生の美への妄執を知っていて、更に美智子先生が叔父と自分への疑いを持っているのを感じつつも、否定も肯定もせずより惑わせる言動を取る主人公・わたしは、「白雪姫」ではなく「鏡」なのではないかと思いました。

救いがあったのは「金の指輪」と「アマリリス」ぐらいかしらん・・・。「金の指輪」のラストには、あはは!と爽快な気分になりましたね。発想の転換、気持ちの切り替え、大事ですなぁ。

なかなかに容赦ない翻案ぶりが、興味深かったです。
ドロ〜っとしているのに、ばっさりと斬り捨てられるような、妙な後味が、クセになりそうですね。ベースの物語を知っているから、さらに面白い。もしかしたら、元のおとぎ話の原典に潜む毒が変化して、滲み出して来たんじゃないか、そんな勘繰りまでしてしまいそう。

千早さんは初めて読む作家さんですが、デビューは2008年とのこと、作品数はまだ少ないのでしょうか?
こういう世界観は好きですねぇ。他の作品も読んでみようと思います。

(2010.11.03 読了)

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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは^^
とても官能的で、童話から出来たとは思えない雰囲気でしたよね。
でも、この作品は、千早さんが童話が嫌いだったからこそ出来た作品なのだと思います。
じゃないと、多分踏ん切りがつかないと思います^^;
出ている本は、この本と、デビュー作の「魚神」だけだと思います。こちらも良いですよ〜。ぜひぜひ。
苗坊
2010/11/05 00:59
あの童話をこんな風に!という驚きを楽しめました。ぞくぞくするような”毒”が堪らない作品でした。
「金の指輪」は他の作品と比べて、ちょっとニッコリできるラストでしたよね。だからなのか、とても印象に残る作品でした。
すずな
2010/11/05 12:47
>苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
なかなかに、大胆でしたもんねぇ。童話が官能的って(^_^;)。
『魚神』、今度図書館で予約入れてきますね♪

>すずなさん、ありがとうございます(^^)。
毒、ですよねぇ〜!
「金の指輪」も、途中まではどうなるんだろう・・・という微妙なドキドキ感があったんですが、「あはは!いいお話じゃん!」というラストが、よかったですよね〜!
水無月・R
2010/11/05 22:15
「ひとつの道を極める・・・」と怖い本かけてしまうのでしょうか・・・。
千早さんって怖そうですね。でも興味持ってしまいました。
まぁ、いろんなサイトで取り上げられていること。
で「http://birthday-energy.co.jp」なんてサイトで解説まで。人気出てきたんですね。

迷子のきまりは特に怖そうですね。
今度読んでみよ〜。
どくのすけ
2010/11/17 21:23
どくのすけさん、ありがとうございます。
私もこの作品が初めてなんですが、なかなか甘美な毒を含んでるなぁ・・・!と思いました。
「迷子のきまり」は、内容そのものも色々な意味で怖いんですけど、この後に兄妹に希望があるのか一切不明、という終わり方が怖かったです。
是非、お読みください。
水無月・R
2010/11/17 22:29
いい感じにアレンジされてましたね。現代の毒におきかえつつ、話の大筋はまとまっているし、なんともいい感じ(とは言えない読後感ですが)に仕上がっていたと思います。
「魚神」も続けて読んでみたいと思います。
たかこ
2010/12/30 18:05
たかこさん、ありがとうございます(^^)。
少し下世話で、だけどdark。
容赦のない醜さと美しさが、怖ろしかったですねぇ。
引っ越し先は、図書館が近いんで、お正月が明けたら行こうと思ってます。
水無月・R
2010/12/31 23:30

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