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zoom RSS 『五人姉妹』/菅浩江 ○

<<   作成日時 : 2011/02/07 11:50   >>

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菅浩江さんの描く、美しくて切なくて、淋しい優しさに彩られた、いつか訪れるかもしれない未来の世界。
〈ひと〉と〈機械〉の狭間を漂い、人工知能と融合し、〈自分〉を探して喜びと悲しみを経験する〈もの〉たち。
表題作『五人姉妹』を含む9編、それぞれの世界が孤独と共に広がっていきます。

菅さんの物語って、安定しているなぁ。いい意味で、意外な展開で裏切られる事がないというか。
色々なバリエーションで語られる、美しいけれどどこか淋しい未来は、安心して身をゆだねることが出来ると思う。
科学が発達したその未来で、〈ひと〉と〈機械〉はより高度な関係を持つ。発展した未来にあるのは、優しさなのか、孤独なのか。

「五人姉妹」
試験例として成長型人工臓器を取りつけている、製薬会社社長令嬢。彼女のクローンである4人の姉妹との会見。
「ホールド・ミー・タイト」
電脳世界で現実の恋を紛らわせようとしても、やはり現実で抱きしめて欲しい・・・。
「KAIGOの夜」
介護されるロボットが開発された。その取材に行った青年二人。実は人類は滅亡していて。
「お代は見てのお帰り」
大道芸で道を踏み外した父母を持つ科学者が、息子を連れて「博物館惑星」を訪れる。
「夜を駆けるドギー」
電子犬を飼う子供たちの間で流れる噂、その真実と解決。モニター越しもいいけど、直接会う方がもっといい。
「秋祭り」
高度に機械化された農業に、豊穣の神はいるのか。試験管ベビーの自分の存在は。
「賤の小田巻」
大衆演劇スターの父が、AIターミナルに入った。跡を継がなかった息子への当てつけなのか。
「箱の中の猫」
箱の中の猫は、生きているのか、死んでいるのか。時間と空間が切り離された恋人との通信。
「子供の領分」
記憶喪失の僕は、人の役に立ちたいと願う。それを貫いたとき、子供の時代は終わった。

『永遠の森』の続編である「お代は見てのお帰り」、自分の父母に対するわだかまりを解ききることは出来ないまでも、息子の行動を認め、自分の中の頑なさを少し譲ることが出来るようになった主人公・バートにちょっとほっとした。あまりにもガチガチで、何だか息苦しかったから。

一番良かったのは「五人姉妹」。父の会社の研究した成長型人工臓器の為に、実は健康であった臓器と実験的に取り換えられた葉那子。彼女の万が一の為に造られた、クローンの姉妹。彼女たちに共通する、父の優しい思い出と、それに繋がるトーストの食べ方。無事に成長し、穏やかに引退し、クローン姉妹の誰よりも長生きし、最期を迎えた葉那子の心の底にあったのは、やはり父への敬愛の思いだった。
クローンの姉妹たちも色々で、だけどどの姉妹たちにも穏やかに面会し、静かに年を重ねていった葉那子の強さには、目を見張るものがある。穏やかな心の持ち主にしか、出来そうにないことだと思う。

ちょっと困ったな、と思ったのが「秋祭り」。主人公・絵衣子の希望がどこにあるのか判った時、「神に選ばれたかったなんて」と思ってしまって。試験管ベビーとしていくつかの受精卵から選別されたとき、「子供」が欲しかった両親は「私」を欲しかったわけじゃない、でもどこかで「神が私を選んだから」と思いたかったなんて。それを不遜だとは思わないけど、自分の価値を神に求めるは違うと思うのだ。自分の価値、自分の生がある意味は、自分で生きてみることでしか見えてこないと思う。だから、主人公よりも、一緒にプラントをめぐった少年の方が潔くていい、って思ってしまった。

「KAIGOの夜」には驚いた。「大患」の後、衰退しつつある人類を看取った介護ロボットの為に、「介護されるロボット」を開発する「中枢」の自己欺瞞と狂気。人類が滅亡したのち、庇護し見守るべき存在を失った「中枢」とロボットたちの「KAIGO」とは「悔悟」なのだと気付いた時の、大きな悲しさ。大勢ロボットがいるけれど、予測できる未来の孤独さ。共に在るべき「人類」を失った彼らには多分、孤独しか残されないのだと思うと、切なくなった。

どの物語にも、いつか訪れるかもしれない未来という薄いヴェールの向こうに、美しくて淋しい世界が広がっている。
多分、どの世界にも私の寿命ではたどり着けないだろうけど、もしその世界に生きることになったら、美し過ぎて孤独すぎて、私は息が出来なくなってしまうかもしれないなぁ・・・と思った。

(2011.02.05 読了)

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