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zoom RSS 『夜行観覧車』/湊かなえ ◎

<<   作成日時 : 2011/09/26 16:58   >>

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たまたま図書館の予約の順番が同時期に回ってきたので、湊かなえさん続きです。
本作『夜行観覧車』は、『往復書簡』とはまた違った趣ですね。
家庭内殺人を巡る、2つの家族と1人の隣人の思いと行動。
「なぜ事件は起こったのか」というミステリーの常道が重視されてはいないのが、本作の肝だと思います。

坂の上にある高級住宅地・ひばりヶ丘。医者の夫を美人の妻が殴り殺し、自分がやったと自供する。犯行当時、長男は大阪の医大生で離れて暮らしており、長女は友人の家に泊まりに行っていて不在、次男はコンビニで買い物をしたあと失踪。
その医者一家・高橋家の向かいに住むのは、私立中学受験に失敗し荒れている娘を持つ遠藤家。遠藤家の隣には、ひばりヶ丘の昔からの住人でうるさ型の老婦人・小島さと子が住んでいる。
一戸建ての持ち家にこだわり、やっと手に入れた家で幸せな家庭を築いていこうと思っていた遠藤家の母・真弓だが、娘の彩花が荒れ狂うのをどうもできないでいる。何の問題もないエリート家族に見えていた高橋家に、こんな事件が起こって驚きや戸惑い、そしてひそかな優越感を持ってしまう遠藤家。
家庭内殺人が起こったことで、ひばりヶ丘の評判が落ちると怒りをあらわにする小島さと子。
高橋家の兄弟・遠藤家・小島さと子がそろって話を進める「観覧車」の章では、それぞれが「家族」というものについて、それぞれの思いを新たにする。
そして週刊誌の記事が「真相」という形で挿入される。が、それは真実ではない。

事件の起こった高橋家側と、たまたま傍観者であっても自分たちだって当事者になりかねなかった遠藤家が交互に、事件や事件の経緯について語り、野次馬でもあり町内の世話焼きでもある小島さと子のほぼ一人語りが隙間に入り込む。
しっかし、どの登場人物もホントに自己中心的で、イラッとするったらないんですよ!しかもその自己チュウっぷりに、心当たりがなくもない私としては、非常に抉られてしまうんですよ。
この作品には、そんなに「悪意の連鎖」とか「些細な感情の悪循環」というものはないんですが、なんていうか今までの湊さんの作品の中で、一番刺さりました。一番、心当たりがある。
子供の出来に一喜一憂し、ついその子供に当たってしまうこと。近所で起きたことに、野次馬根性が頭をもたげてしまうこと。ちょっと見栄を張って生活していること。周りをうらやみ、比べて僻んでしまうこと。
程度の差こそあれ、どれも私にもある感情だし、やってしまっていることだから。もしかしたら、ウチにだってこんなことが起こらないとは限らないんじゃないか。
そしてなにより、夫を殺してしまった高橋家の母の気持ちが、手に取るようにわかってしまったのだ、私は。私と似た立場(子持ちのパート主婦)である遠藤真弓は全く分からなかったみたいだけど。もちろん、私はそんな極端に走ることはないとは思うけど。・・・でも、わかるということはつまり、その可能性を私も持っているんじゃないか。
・・・怖ろしいなぁ!湊さんて、ホントに!

父親が被害者で、母親が加害者。そして失踪中の弟が真犯人なのではないか、という憶測もされる。家庭内殺人の場合、親族は被害者の家族なのか、加害者の家族なのか。
事件に関わりがあるというだけで、忌避され中傷されることの恐ろしさ。しかもそれをするのは、何の関係もない人間たちで。まるで、自分の憂さを晴らすかのようなその行為は、醜くてならない。
友達だから、本当は連絡を取りたくても、その大勢の中傷者たちを敵に回すのが怖くて、できない子供もいる。
関わり合いにならず、嵐を過ぎるのを待てば、何とか事態が好転するのではないか、と逃げる大人もいる。
コンプレックスに打ちのめされていた彩花が、高橋家の娘・比奈子に勝ち誇ったような態度をとるシーンの醜さ。だが、彩花の気持ちもわからなくもない。思春期のぐちゃぐちゃした感情、引っ越し、受験失敗、いろいろ整理できない状態のまま、だんだん追いつめられるような気持になってしまって、あんな行動をとってしまう。もちろん、許されるものではないのだけれど。

どの登場人物も、自己中心的で、だけどそれは頷ける感情であり、態度だ。ただ、それはないだろう?!と思ってしまったのが、高橋家長男・良幸の彼女。ほんのワンシーンしか出てこなかったけど、いやな女だなとか信じられないとか以前に、全然理解できない。え?殺人事件が怖い私のそばにいてくれないなんて!って…えぇ?!その殺人事件の家族ですけど。事件のこと調べようとしたらパソコンの電源抜いちゃうとか、ありえないだろ!自分のことしか考えてない…この子絶対良幸のことが好きなんじゃなくて、医者になる未来のある男だから捕まえておこうって考えてるだけ。しかもそんな行動で、自分が愛想つかされるとか、全然想像つかないんだ…。まっとうな大人(短大生だとまだ未成年かもしれないけど)とは思えないな。理解できない…。

しかし・・・、週刊誌による「真相」、驚きました。
え・・・そういうことにしちゃうんだ・・・。いや、でも、高橋家の子供たちが、これから先もひばりヶ丘で生活して行くためには、これぐらいの偽装は必要なのかもしれない。こんな偽装をしてもそれでも、彼らはいわれのない中傷を受けるだろう。
それをどう耐えていくか、という部分は語られていない。私としては、とても気になる。だって、もしかしたら私も、事件の関係者になってしまうかもしれない。絶対なりたくはないけど、もしかしたら。もちろん、物語の中で登場人物たちがとった対処法が、現実で有効かなんて、ケースバイケースなんだけど。それでも。
そういう意味で、安心できる終わり方ではないです、この物語。
これから先、遠藤家も高橋家も、小島さと子ですら、どうなるかわからない。明るい未来は、見えない。かといって未来が暗黒、というわけでもない。
ここから、描かれない人生が始まる。まだ、始まったばかりの、今までとはまた別の人生が。事件は終わっても、人生は続くから。家族としての。

(2011.09.25 読了)

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湊かなえ 双葉社発行年月:2010年06月 ページ数:331p サイズ:単行本 ISBN:97845


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夜行観覧車(湊かなえ)
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「夜行観覧車」湊かなえ
家庭内で起きた殺人事件を描く「夜行観覧車」。 この作家らしく、ドロドロの世界が展開される。    【送料無料】夜行観覧車 [ 湊かなえ ]価格:1,575円(税込、送料別) 娘を殺された教師が復讐する「告白」。 そして、同じくプールで少女が死ぬ「贖罪」。 「少女」も… ...続きを見る
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
本当にみんな自己中な人ばっかりでしたねぇ。読んでてイヤ〜な気分になりました。でも、たしかに自分の中にも存在する部分もあったりして、それはなかなか刺さるものがありました。

そして、長男の彼女の言動は「理解できない」それにつきましたね。なんというか、宇宙人を見てるようでした^^;
すずな
2011/09/27 12:59
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
思い当たる節が多すぎて…かなり抉られましたね〜。湊さんに、またまたやられてしまいました。

そして、そうなんですよ!あの長男の彼女は、確かに宇宙人ですよね(^_^;)。全然、理解できませんでした。
水無月・R
2011/09/27 22:24

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