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zoom RSS 『海炭市叙景』/佐藤泰志 ○

<<   作成日時 : 2012/08/01 17:47   >>

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新聞の書評で絶賛されていた作品。
普段私が、わぁわぁ言いながら読んでるエンターテイメント系とは全く違う方向の作品だというのは判っていたけれど、それでも何故か心惹かれて、ひっそりと〈読みたい本リスト〉入りしてました。
若くして自死したという佐藤泰志さんは、死後20年を経て再評価されるようになったそうです。
本作『海炭市叙景』の文庫化は、そのきっかけだったとのこと。
映画化もされてるんですね。

海炭市という、架空の町の冬から夏にかけて、様々な人々の生活が、淡々と描かれていきます。
炭鉱が閉山し、造船所が縮小する。寒さ厳しい北の小さな地方都市の閉塞感、町の人々の「首都」に対する憧れや僻みや複雑な感情。それでも、町の人々は、生きづらさを抱えながらも、海炭市で生活し続けていく。
貧困、家族関係の歪み、職場でのやりきれない思い、新しく生まれいずる命への喜び、ささやかな幸福。

炭鉱や造船は衰退したけれど、新市街と呼ばれる地域には新しい店や施設ができ、デパートも誘致される。ただ、画一化された新市街には、夢と希望と、その裏側に消えていく地方色への切ない思いが隠されているように感じました。
色々な問題を抱えた人々が、それでも海炭市で生きていくさまは、「普通の人々」の力強さを丁寧に描いていて、とても好感が持てました。18の章それぞれの登場人物たちの書き分けが、しっかりと出来ていて、とても読みやすかったです。

「まだ若い廃墟」の兄妹に、やりきれなさを覚えて始まる物語。いくつもの人生の一部が描かれる。
孫の生誕を待ち望む、路面電車の運転手の物語には、明るさと若い命の未来への希望が感じ取れる。
墓地公園の管理事務所に勤める若い女の、思い切りのよさ。首都に行きたいと願う空港レストランに勤める少女の、夢と現実。別荘に滞在する青年の、ささやかな避暑暮らしの日々と諦観「しずかな若者」で、物語は終わる。
単行本の解説によると、作者の自死がなければ、この後また物語は冬へと廻りゆく構想だったそうです。
解説にもありましたが、ここで終わる予定ではなかった物語だけれど、ここで終わることは想像力を刺激されますね。
こののち、海炭市とそこに暮らす人々の生活は、どう続いていくのだろうか?何が変わり、何が変わらず、平穏と衰退とを静かに織り込みながら・・・?

海炭市のモデルとなった函館市は、実は私の生まれた町でもあります。といっても、父の転勤の一環で住んでいただけなので、生後2年ほどで函館を離れていて、記憶はほとんどないのですが。
ただ、学生の時訪れたことがあります。路面電車にも乗りました。静かな、地方都市でした。夏の日差しが美しい街だな、と思った記憶があります。当時は衰退とか物寂しいとか、思うこともなかったですね。
ウィキペディアで少々佐藤さんのことを調べたのですが、佐藤さんも函館で生まれ、大学進学で上京した後、また函館に戻って、この物語の構想を得、再び上京して執筆したのだそうです。

登場人物たちそれぞれの生活に、問題や喜びや悲しみがあり、とても身近に感じられる。ささやかな問題、ささやかな喜び。のちに取り返しがつかなくなるかもしれない問題もあるけれど、それでも、突き抜けるようなくっきりとした希望ではないけれど、日常は続いていくという確実な継続性への希望があるような気がします。
読み終えて、あの夏の日差しの美しかった町を、思い出しました。

(2012.08.01 読了)

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海炭市叙景 (小学館文庫)著者:佐藤 泰志小学館(2010-10-06)販売元:Amazon.co.jpクチコミを見る 海に囲まれた地方都市「海炭市」に生きる「普通のひとびと」たちが織りなす十八の人生。炭 ... ...続きを見る
苗坊の徒然日記
2012/08/01 22:08

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
あら、函館生まれなのですか!道産子なんですね。なんで言ってくれなかったんですか〜!ナカマじゃないですか〜!…なんて^m^
と言いつつも私も函館は1度しか行ったことがありません…
20年前の作品だとは思えませんでした。文章が厳しくも温かく感じました。
出てくる人たちの境遇は辛いですけど、それでも必死さが伝わってきて胸が苦しくなりました。
映画も気になります。
苗坊
2012/08/01 22:10
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
えへ、そうなんです、道産子なんです〜。お仲間ですね♪
といっても、2歳ぐらいまでしかいなかったんで、あまり偉そうなことは言えませんが(笑)。
市井の人々の、何気ない苦しさや寂しさ、そしてささやかな喜びなどが、丁寧に描かれていましたね。
この後、海炭市の人々のささやかな暮らしがどうなるのか、静かな物語を想像すると、胸に迫るものがあります。喜びも悲しみも、後悔も、海炭市にいつか積もる雪のように、静かに重なっていくのだろうな、と思います。
水無月・R
2012/08/01 22:29

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