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zoom RSS 『玉磨き』/三崎亜記 ◎

<<   作成日時 : 2013/07/05 16:09   >>

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三崎亜記さんの描く世界は、現代日本に似ているけど、明らかに世界の構成ルールが違う。町が意志を持っているかのようだったり、人や場所が消失することに穢れの意味を持たせ、追及されないようにコントロールされていたり。その世界の物語は何か、うすら寒いものを感じるのに、そこはかとない郷愁を覚えるのだ。
本作『玉磨き』も、そういった我々には不条理だけど、物語世界では当たり前の日常としてとらえれていることが、描かれていく。

多分、ほとんどの三崎作品は、共通した一つの世界を様々な立場の人や現象から描いていったものなんだと思っています。
ううう・・・「設定ノートを見せてください、三崎さん〜!!」って、毎回書いてますが、ホントにどんな世界なんだろう。

政府は、何かを隠している。
何かの実験が行われ、失敗が隠蔽され、影響だけが一般に流出してしまう。でも、その影響を追及しようとすると、ジャーナリズムによる思想や言論の巧妙なコントロールによって、触れてはならない穢れとして、風化させる方向へとそらされてしまう。
失った人々や場所を思うことを、やんわりと抑え込まれるのは、どんなにか怖ろしいことだろう。
なのに、唯々諾々とそれを受け入れてしまう、この世界の人々。だけど、私たちの世界だって、そうじゃないだろうか?
私だって、何となく流されて、受け入れていることは、いくらでもある。
そんな心許なさがあらわになる、作品です。

ルポライターの「私」が、二十年の歳月をかけて取材してきた多種多様な物事の中から、6つの「仕事」についての記録。
どれもが、実利をもたらしているかどうかも不明な、不思議な仕事である。
ひたすら先祖伝来の玉を磨き続ける職業。通勤のための観覧車を運用する会社。「古川」という姓がもてはやされそして忌避された時代。失われた「ガミ追い」を現代流によみがえらせたグループ。社会との関わりを持たない引きこもりの人々が作り継いでいく、部品。海に沈んだ町の商店街組合。

「歩行技師」「象さんすべり台」「海に沈んだ町」「下り451列車消失事件」、他にも多分私が気が付いていない三崎作品共通キーワードが、あちこちに出てきていると思います。
つながりがあると気付く度に、不安になります。
淋しくて、温かくて、美しくて、ひんやりしていて。
三崎さんの作品世界は、もしかしたら私たちのすぐそばにあるんじゃないかって、そんな気がしてきます。それほどリアルに感じるのに、異質。
コントロールされることに慣れて従ってしまう事への怖ろしさと、ひっそりとそれに抗う人々への愛おしさ。
どちらも存在するから、この世界は救いがある。そう感じました。

6つの「仕事の物語」(「古川世代」は微妙に違うような気もするけど)は、どれも「なんのために?」と思ってしまうような、我々からしてみたら「無駄」でしかない仕事。
だけど物語を読むうちに、とある人々にとっては必要不可欠なもので、失われていくものを少しでも留め置くための静かな祈りの儀式のようなものだと感じ始めてしまう。
「玉磨き」の玉に宿るのは、魂だろうか、妖異だろうか、想いだろうか。
「只見通観株式会社」の社長の目指すものは、そして利用者の思いは。
「古川世代」の興亡から、世界は何をコントロールしようとしているのだろう。
現代の「ガミ追い」が、また消えゆく。
巧みな「分業」で作り上げられた部品の仕上がりの、変哲なさという異質。
今は海の底にある「新坂町商店街組合」が、ひそかに抵抗しているものは。
どれもが、痛ましい別離と静かに消えゆく運命を静かに受け入れる密やかさに満ちていたと感じます。

「ガミ追い」が好きかな。かつて地域を揚げてガミを「追って」いたガミ追いたち。一度は廃れたその「追い」を現代の実情に合った形で再構築し、再興させた人物。だけど、ガミの「崩れ」は予想以上のもので、それに巻き込まれたであろうリーダーは死亡し、また「ガミ追い」の術は失われた。儚いその再興は結局、何を生んだのだろうか。「ガミ」を追う(負う)者がいなくなると、また世界の変質に加速がかかってしまうのではないだろうか。そう思うと、切なくなる。
その切なさが、良かった。

(2013.07.04 読了)

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三崎亜記 幻冬舎発行年月:2013年02月 ページ数:239p サイズ:単行本 ISBN:97843


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玉磨き(三崎亜記)
三崎ワールド全開! そんな感じの短編集。というか、連作集と言った方がいいのかな。ルポライターとして20年目の節目を向かえた「私」が取材してまとめた、という形になっているんですよね。なので、それぞれのお話にある繋がりと言えば、「私」が取材したということのみなんだけど。 ...続きを見る
Bookworm
2013/07/06 12:40

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
あいかわらず、不思議な世界でしたね〜。本当に「設定ノート」を覗いてみたいですよね(笑)
私は「ガミ追い」も良かったけれど、「玉磨き」「只見通観株式会社」が好きでした。通勤観覧車にちょっと乗ってみたいなぁとも思ったんですが、朝の慌ただしい時間にそれが出来るかな、という不安も大きいです(笑)
すずな
2013/07/06 12:50
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
三崎さんの作品世界は、リアルなのに何かが絶対的にずれているので、読んでていつもぞわぞわします。
「只見通観株式会社」の通勤観覧車、私には観光や娯楽なら乗れますが、通勤は無理ですねぇ。
いわゆる「いらち」な私でございます(笑)。
水無月・R
2013/07/06 22:32

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