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zoom RSS 『先生のお庭番』/朝井まかて ○

<<   作成日時 : 2014/04/09 16:40   >>

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うう〜ん、なんか複雑・・・。
主人公・熊吉(コマキ)の様々な経験や成長、日本の自然の美しさの描写、シーボルトと日本人たちの交流などは、良かったんですけどね。その点は、さすが朝井まかてさんだなぁ、って思うんですよ。
だけど、どうも、シーボルトの真の素性とか駆け引きとか、そういった面はちょっと…って感じてしまったんですよねぇ。
とは言え、事実だし…。
最後の救いは、シーボルトの娘・以祢との邂逅があり、熊吉が心温かく物語を終えられたこと。
『先生のお庭番』である熊吉からみた、あの時代と長崎出島でのシーボルトとその周辺の人々を生き生きと描いた物語です。

シーボルトが日本の自然を愛した、というような話は聞いた覚えがあるんですが、ここまで熱心に日本の植物をヨーロッパへ送り出そうとしてたとは、知らなかったですね。

熊吉はシーボルトの熱意にこたえて、試行錯誤して7か月もの航行に耐えうる仕組みを考案し、何度でもバタビア経由のヨーロッパへの船に乗せる。最初はいくら送っても、ほぼ枯れてしまったものが、何度かのチャレンジを経て、多少なりとも生きたまま届けられるようになった。
ヨーロッパへ送り出す植物を集めては出荷の準備をし、館の植物・薬草園の世話をし、先生の門下生とも交流を持ち、熊吉の取っての日々が穏やかに充実して過ぎていく。
同じ館に暮らす先生の妻・お滝、黒人の使用人・おるそんの姿も生き生きと描かれ、欠けることのない幸福を思わせる日々であったが、先生の帰国が決まった時からその日常は少しずつ陰りを見せ始める。
禁制の日本の地図持ち出しの嫌疑をかけられ、シーボルト本人以上に関係者すべてに厳しい取調べが入り、最終的にシーボルトは国外追放となってしまう。
それから数十年が過ぎ、大阪で植木商として暮らす熊吉の元へ、以祢がシーボルトの出版した日本の花についての図鑑を持って訪れる。その本に書かれた紫陽花の学名は「オタクサ」であった。それは、シーボルトが愛した妻・お滝からとった名であった。

日本の自然の美に心を寄せ慈しむシーボルト、日本の植物をヨーロッパに送り出そうと尽力してたんですね。だけど、そのシーボルトにとって、自然とは闘い捻じ伏せ支配するものであって、日本人に共通する共生感がなかったと判ったあたりの、熊吉の心情を思うと、とても胸が痛みました。
シーボルトは単なる商館医ではなく、日本を探るという密命を持って訪れたものであったこと。日本を離れたくないと言いながら、実は帰還願いを阿蘭陀本国に送っていたこと。それでも、熊吉は「先生はやぱんを思ってくれている」と信じ、彼のために地図を隠して送ろうと細工までした。
シーボルトは、それに報いたのかどうか。定かではないけれど、ペリーに軍事開国を迫らぬよう進言したとも言われている。
熊吉は、最後まで、先生に対する希望を密かに抱いていたけれど。それが、切なかったです。

自然描写(特に植物)の美しさ、イキイキと描かれる長崎屋出島の人々の様子、様々な困難を一つずつ乗り越えて成長する熊吉の真っ直ぐさ、とても心地よい物語でした。
その中で、シーボルト来日の真の目的が判明してしまったことは、とても切なかったです。
シーボルトは、本当は日本や日本人を、どう思っていたのでしょうね。深く愛するものでもあったし、本国(と言っても本当はドイツ人なのだけど)から命じられて調べ尽くさねばならない対象でもあったし・・・。

日本の植生の多種多様さが、ヨーロッパでは珍重されるものだとは、知らなかったですね。ガーデニングが盛んで、とにかく膨大な種類の植物あるイメージがあったのですが、それも海外から(もちろん日本からも)のいろいろな植物の輸入による、品種の拡大があったからなのですねぇ。

物語の終章に熊吉は、紫陽花を「したたかで、しぶとい花」と評していました。
確かに、見た目のたおやかさ(雨に濡れて楚々と咲いている美しさ)だけではなく、花期が長く枯れ残る姿を思うと、まさにそのとおり。
そして、この物語もそういった感覚が、ひたひたと寄ってきました。
熊吉の園丁としての穏やかな日々、シーボルトの嫌疑以降の周辺の人々に訪れた困難、そして最後に訪れた邂逅の優しさ。
したたかで、しぶとく、それでいて美しい思い出が、描かれていたと感じます。

(2014.04.08 読了)

先生のお庭番 [ 朝井まかて ]
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先生のお庭番(朝井まかて)
デビュー作「実さえ花さえ」(文庫化時に改題『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』)でハマってから、新刊を首を長ぁ〜〜くして待っている作家さんの一人。今回は江戸末期の出島を舞台にした、シーボルトに仕えた若き庭師の物語。今作品も、一行目からすーっと入り込めて、そのまま一気読みでした。 ...続きを見る
Bookworm
2014/04/10 12:45

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ヨーロッパに植物をどうにかして送りたいと言う熱意が胸を打ちましたし、成功したときは本当に嬉しかったです。
その熊吉の思いと対照的はシーボルトの正体は切なかったです。でも、シーボルトが日本で出会った人々を愛し、植物を愛していたのは本当のことだったと思いたいです・・・。
すずな
2014/04/10 12:55
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
お茶の種を送るのに成功した時や日本から送り出した植物がヨーロッパへ無事届くようになった時は、熊吉と一緒になって喜び、シーボルトが愛した自然の美しさに共感し、とても心地よかったのですが・・・。
シーボルトが国からの密命を帯びていたのは確かだけれど、日本の文化や自然に心を動かされていたのは、きっと本心からだったと、私もそう思いたいです。
水無月・R
2014/04/10 23:08

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