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zoom RSS 『死者のための音楽』/山白朝子 ◎

<<   作成日時 : 2016/06/02 19:56   >>

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『エムブリヲ奇譚』で、生と死の影が付き纏う仄暗い耽美を存分に味わった山白朝子さんの短編集、『死者のための音楽』
7つの物語は、彼岸と此岸の狭間をたゆたいながら、私を別世界に連れて行きました。

「長い旅のはじまり」
身に覚えのない懐胎で生まれた男の子は、知らぬはずの経を読み、知らぬ土地のことを語る。別の者がその経を唱える。巡り巡る。廻り廻る。
「井戸をおりる」
若き頃を語る父。彼らが日の下に出ることは、ないだろう。
「黄金工場」
命あるものを黄金に変える廃液を流す工場。だが、工場は閉鎖することに。
「未完の像」
木の中から、本物と見まごうばかりの像を彫り出す少女。彼女の未完の仏像。
「鬼物語」
桜の花が赤く染まるとき、村に訪れるのは、鬼。
「鳥とファフロッキーズ現象について」
助けてくれた父娘を守ろうとする、不思議な黒い鳥。
「死者のための音楽」
耳の不自由な母が、子供の頃聞いた音楽。

どの物語も、語り終わるとまた最初に戻ってくるようで、巡り廻る物語の中で迷子になってしまいそうでした。
そしてその幻想的な描写の中で、物語の輪郭も読んでいる私自身もだんだん滲んで混ざり合ってしまうようで、怖ろしかったです。

一番好きなのは「未完の像」ですね。
夏目漱石『夢十夜』に、運慶が無造作に木を彫ると見事な仏像が出てくるのを見ていた見物人が「あれは木の中にある仏像を彫り出しているだけだ」という、というのがあるのですが、それに似ていてより美しい話だと思いました。何人もの人を殺した少女は「捕まる前に仏像を彫りたい」という。仏師の弟子は、そんな彼女に仏像を彫る際の決まりごと〈儀軌〉を教えてやる。彫っては棄てを繰り返す少女は言う。
〜〜頭の中にいる仏様を、木の中から連れてこようとすると、あんたが言ってた通りの姿で現れようとする。もしかすると好きに彫ればいいというものではないのかもしれない。確かに、私ごときがわがままに彫って仏様が生まれるのなら仏師なんていらないよな。かといって、儀軌とやらだけを律儀に守っても仏様は現れちゃくれないと思う。儀軌ってやつは、たんなる表面であって、ことの本質ではないみたいだからな〜〜(本文より引用)
そんな彼女が、命を削ってまで彫り出し始めた如来像。だが、彼女は完成を目の前に倒れ、儚くなってしまう。
少女を助け、一部始終を見守っていた仏師の弟子は、未完の像を手元に置いたままにしている。
本当に美しく正しいものは、もともとの製作者でなくては、完成できない。
少女の情熱と孤独が沁みる、美しく切ない物語でした。

「黄金工場」の工場は、何をしてる工場だったんでしょうね、本当は。危険物を処理して無害なものに変えている、っていう表向きだけど、廃液があんなドロドロとしたものだとすると・・・?
そして廃液に浸かった「生き物」は、中まで全て黄金に変わってしまう。変わるのは「命あるもの」だけ。
等価交換という事なんでしょうかね。でも、命と黄金は等価なのかしら・・・と思ったら最後が怖ろしいことに。工場が閉鎖されることになり、かつて黄金になったものがだんだん元に戻ってしまうという…うわぁ。お母さんが集めてきて、潰して黄金の塊に変えた物は皆、元にもど・・・うへぇ(T_T)。
この後、この母子はどうなっちゃうんでしょうねぇ。いずれ、見つかっちゃいますよ、アレ…。

どの物語も、仄暗さと後ろめたさと透明感が混然一体となって、不思議なほど読後感はよかったです(「黄金工場」「鬼物語」ですら)。
短編なので、一つずつは軽く、すらすら読め、耽美や幻想感はちょっと物足りないかな…という気もしなくもないのですが、もっとこんな物語を読んでみたいという中毒症状が(笑)。
ジャンルとしては〈怪談〉になるはずですが、私的には単に怖いだけではなく、美しいがゆえに怖ろしく、怖ろしいがゆえに恐ろしいという、大変魅力的な物語たちでした。

(2016.06.01 読了)

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死者のための音楽 山白朝子
山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)著者:山白 朝子メディアファクトリー(2007-11-14)販売元:Amazon.co.jpクチコミを見る 「長い旅のはじまり」川に溺れた娘を抱えた母親が和尚 ... ...続きを見る
苗坊の徒然日記
2016/06/04 01:40
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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
お返事が遅くなってしまってすみません。
そしてさらにこの作品をもう漠然としか覚えていなくて二重にすみません^^;
グロテスクな作品もありましたけどどこか幻想的で美しくて。山白さんはこういう作品を書くのが上手いなと思います。まあ、乙一さんですが^m^
怪談やホラーというくくりが近いのでしょうがそれだけではない切なさや温かさもある作品でした。
苗坊
2016/06/04 01:42
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
単行本として出たのは大分前だったのですねぇ。最近になって山白作品のことを知ったので・・・(^_^;)。
山白さんは怪談雑誌『幽』から出られた方ですから、一応怪談なんでしょうけど、幻想的で淋しくて怖ろしくて、とても余韻のある作品だと思います。
こういう感じの作品が大好きなので、山白さんの名義の作品を、たくさん書いていってほしいです♪
水無月・R
2016/06/04 21:27
読みながら、ひぇ〜〜っとなる作品ばかりでしたが、読後感は怖さやグロさよりもじんわり沁みる様な感じが不思議な作品でした。
とはいえ、「黄金工場」のラストはちょっとね(^-^;どうなったのかなぁと想像するだけで…;;;
すずな
2016/06/05 06:29
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
そうそう!むずむず、ざわざわ、うへぇ〜って感じなんですよね(笑)。
でも、何故か読み終わった後、しみじみとした味わいがありました。
「黄金工場」で元に戻っちゃうものは・・・あんまりですよねぇ(^_^;)。
水無月・R
2016/06/05 19:46

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