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zoom RSS 『手のひらの幻獣』/三崎亜記 ◎

<<   作成日時 : 2017/02/16 18:18   >>

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いやもう、毎度言ってることですが、「世界設定のノートが見たい作家さん」1ですよ〜、三崎亜記さんッッ!!
私たちの暮らす、現代日本に似て非なる〈この国〉。世界の構成ルールが多分、全く違うのだろうと思います。「街は生きていて」「不条理に失われる人や思いが常にあり」「精神的な能力が飛躍的に上昇している」この世界。
数々の三崎作品は、たぶん、全部一つの世界の物語。本作『手のひらの幻獣』で語られるのは、〈表出〉という能力を持つ人々と、それを利用しようとする当局との攻防の物語。

「研究所」「遊園地」の2つの中編で構成されています。
どちらも、『バスジャック』「動物園」『廃墟建築士』「図書館」に出てきた〈表出〉能力者の日野原柚月を主人公に、〈表出〉という能力を民間利用している業界と、軍事利用をするために組織に組み込もうと暗躍する当局との戦いが描かれています。
〈表出〉の方法や理論が事細かに説明され、まるで存在する能力のように感じてしまいます。表出をすることによって「自分の内側を損傷する」というリスクがあるという、表裏一体の能力であるというのも、リアリティがある。
三崎さんってすごいなぁ。もっともっと、三崎さんの中にある世界の物語を読んでいきたいです。…すごく難しいけど(^^;)。悲しいかな、たぶんどんなに読み続けても、三崎作品世界の構成ルールを完全に理解できないような気がするけど。それでも。

柚月の会社の社長の圧倒的な能力値の高さ、人間味の薄さが、ちょっと怖かったです。
伝説の表出実体〈ナナイロ・ウツツオボエ〉との対決で、お互いに存分に力を放出しあい、昇華されたラストには、ちょっと背筋が寒くなりました。
そののちの「遊園地」のたくや君が誰なのかは、かなり最初の方に予測がついたので、なんだかほっとしました。
「遊園地」といえば、「かつてあった遊園地の夢を見る」というエピソードのある物語もありましたねぇ。ホント、三崎作品て、つながってる。

三崎作品の登場人物の過去はたいてい、後悔に満ちている。〈この国〉が負けた、〈あの戦争〉。そのために、どれだけの犠牲が払われたのか。後悔する人々がいる一方、人を利用し踏みにじることに何の躊躇も覚えない人もいる。或いは、間違っているのではと迷いながらも、非道を行う人々もいて。
でも、人も事象も多面性を持っているのだから、ただ一つの正義はなく。
揺らぐ価値観と、読んでいる私の〈自分の存在すら危ぶまれる〉心許なさ。そんな不安が膨らみながらも、人々の抱く「傷」と、それでも〈忌避される喪失〉を忘れることが出来ず真摯に生きる人々のひたむきさに、励まされる心地すらします。
強くて、優しくて、やりきれないほど切ない。三崎作品から溢れ漂う〈郷愁〉はいつも、私を感傷的にしてしまいます。

表出能力で出せるのは、動物だけじゃないんですね〜。「天蓋」という外部からの表出波を完治するレーダーバリアー、しかもそれを複数人で接ぎ広げることもできると。
更に上級者は、無機物や創造生物も表出できる。「ナナイロ・ウツツオボエ」の威厳ある強力な姿。「ナギサヒトモドキ」のシンクロする動き。
それを操る能力の高い表出者の巻き込まれた「遊園地」の事件の真相、本当にぞっとしました。軍事利用のための、極秘人体実験。その暴走を止めるために、柚月とたくや君が失ったもの。彼女たちにとって、それを失ったことは幸せだったのかどうか…分かりませんね。
ただ、これから、新しい旅が始まったことは確かで。彼女たちの未来が、困難を伴おうとも、温かいものであることを願いながら、読了しました。

(2017.02.10 読了)

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三崎亜記 集英社発行年月:2015年03月26日 予約締切日:2015年03月24日 ページ数:26


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タイトル (本文) ブログ名/日時
その生き物たちを巡る人間たち
小説「手のひらの幻獣」を読みました。 ...続きを見る
笑う社会人の生活
2017/02/17 18:13
手のひらの幻獣(三崎亜記)
刊行済みの短編集「バスジャック」に収められた「動物園」と、「廃墟建築士」に収められた「図書館」に登場した日野原柚月を主人公にした中編2編。 ...続きを見る
Bookworm
2017/02/20 12:49

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
三崎ワールドを堪能できた1冊でしたね。
私も三崎作品をもっともっと読みたい!と思いますが、その全てを理解できるのかと言われると、ちょっと自信が・・・^_^;

感傷的になるという、水無月・Rさんの言葉に大きく頷いてしまいました。その気持ち分かります。
切なく、やるせない気持ちになりましたが、最後はちょっとホッとできて、あぁ良かったなぁと思えました。
すずな
2017/02/20 13:01
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
三崎ワールドの精緻さときたら、私たちが気が付かないだけで、どこかに実在してるのではないか…という気すらしてきますね。
でも、その世界は〈心がむき出しになる〉世界かもしれないですね。

秘密裡だけれど、大きな戦いが終わり、歩き出す二人の姿を見たときは、ほっとしました。
水無月・R
2017/02/20 18:41

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