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zoom RSS 『虐殺器官』/伊藤計劃 ◎

<<   作成日時 : 2017/05/04 08:18   >>

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これがデビュー作だというのだから、とにかく凄い。
しかし残念ながら、著者伊藤計劃さんはもう、お亡くなりになっている。惜しい。本当に、惜しい。
以前読んだ『ハーモニー』では、衝撃のラストに愕然とさせられましたが、本作『虐殺器官』のラストには驚きはしなかったものの、非常に苦い思いをさせられました。
それでも、読めてよかった。この苦い思いは、私が失ってはいけないもの。そう思えた、すごい作品です。

9.11以降、監視及び管理社会へと移行した先進国世界は、それを抑止力としてテロを防ぐことに成功した。だが、それ以外の各地では大量虐殺を伴う内戦が頻発し、しかもその陰に必ずと言っていいほど、一人のアメリカ人・ジョン・ポールの存在が見え隠れしていた。そのジョン・ポールを追う、米情報軍特殊部隊のクラヴィス・シェパード大尉の一人称で、物語は進んでいく。
シェパード大尉は、暗殺を主な任務とする部隊に所属し、様々な作戦で成功を上げている優秀な軍人であるが、ジョン・ポール追跡に関しては、上部からの情報開示の遅さなどから、未だ成功することなく数年を超していた。
ジョンを追ってプラハに入った大尉は、彼の恋人である女性をマークしていた際、ジョンとその仲間たちに捕獲されてしまい、ジョンの操る大量虐殺の手法を聞かされる。
〈人間の残虐性を引き出し大量虐殺を発生させる〉のは「言葉」だという。直接的に引き起こすものではなく、また一定の単語でもなく、どの言語にも存在させうる「文法」が無意識を誘導し、その機運を高め、そして状況が飽和した瞬間に、その国や地域の指導者も「どうして」かわからないままに内乱が勃発し、虐殺が始まるのだ、と。

〈大量虐殺の引き金となる具体的な言葉・文法〉については、結局作中で明言されることはなく、自分の中で「こんな感じなのだろうか、それとも?」というぼんやりしたイメージしか浮かばなかったのですが、それぐらいの理解度で問題なく読めました。
その程度の理解度でも、そんな「文法」が存在し、人間の中にそれによって起動される残虐性がある、ということへのリアリティが、恐ろしいほど感じられました。

ストーリーを全部追うと、収拾がつかなくなるのは目に見えてるので、あとはいくつか、自分が気に入ったり、気になった部分についてだけ書くことにします。

2020年代と思われるこの世界の、科学技術の進歩の仕方が凄いです。生体組織、すごいな・・・!機器の表面を覆い、空気摩擦までも制御し、内部を守り、廃棄モードに切り替えれば組織は壊死し土に戻る・・・エコだなぁ(笑)。
他の技術にしても、非常な進歩を遂げた技術でありながら、突飛なものはなくて「なるほどこういうものがあったら便利だなあ、スゴイよなぁ、あり得るよなぁ」と思えるものばかり。伊藤さんという人は、本当に頭がいい人だったんだ、ということが如実にわかりますね。

シェパード大尉が頻繁に見る、〈死者の国の夢〉。あまた渡り歩いてきた戦場の死者たちの風景や、自分が暗殺にかかわった人物やその背景へのわだかまり、植物状態になった母の延命処置の終了に同意したことで「母を殺した」という罪の意識、全てがないまぜになって夢に現れるその光景は、妙に明るく乾いていて、いつの間にかシェパード自身も〈死者の仲間入り〉をしている。
そこに私は、シェパード自身の「罪の意識からの逃避」を見ました。どんなにカウンセリングを受けても、作戦前に心理抑制をかけられていても、〈人を殺す〉という行為のストレスから逃れられるものではなくて、シェパードの内部に溜まり続け醗酵し、爆発を起こす前のガス抜きのような乾いた夢を見ている…のだろうと。逃避でしかないその夢は、グロテスクだけれど、妙に寂しくて悲しく思えました。

ジョン・ポールが「虐殺の器官」を起動させるその理由。おぞましいことだと思いながらも、理解は出来てしまいました。ただし、その思考の論理は間違っていると思うし、納得は絶対に出来ませんがね、もちろん。
だけど、シェパード大尉は、ジョンから得たそのコントロール法を使って、世界への復讐の引き金を引いてしまった。そしてその理由も、理解は出来ても、納得はいかない。
大雑把に言えば、2人とも「理由の根底には愛がある」のだと思いました。
ただ、その愛は狂っている。
狂った愛の暴走とはいかに怖ろしいものか…なんて言葉では表現しきれないほどの、様々な感情が生まれて、そして物語のストーリーに対しては急激な諦めのような感情が生まれたラストでした。
そもそも、「愛」の基準をどこに置くのか、「正しい」とはどういうことなのか・・・、そういったことも突き付けられたように思います。
苦かった・・・です。

もっと、伊藤計劃さんの作品が読みたかったな・・・と思います。
長編小説は、円城塔さんが書き継いだ『屍者の帝国』を残すのみ(ゲームのノベライズを除く)。残念ですが、どんな物語なのだろうと楽しみでもあります。

(2017.05.02 読了)

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