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zoom RSS 『誰に見しょとて』/菅浩江 ◎

<<   作成日時 : 2017/06/27 22:50   >>

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東京湾に浮かぶメガフロート・通称「プリン」。その中にある美容に関する様々を体験できるサロン。
そこから始まる、美容と医療の複合企業・〈コスメディック・ビッキー〉の物語は、時に古代の化粧についてのエピソードを挟みつつ、発展していく。
菅浩江さん、久しぶりだな〜、と思ったらなんと6年ぶりでした(笑)。
美容と医療SFが見事に融合した『誰に見しょとて』、身を装うことについて、色々と考えさせられました。
もっと、菅さんの作品を読もうっと。

人は、〈美しくなるため〉に〈自分の望む姿を得るため〉に、どこまで手をかけ、発展することが出来るのか。それは、利己的な欲なのか、人類という種族発展への衝動なのか・・・。

全てを読み終え、このレビューを書こうと色々思い返していて、はたと気付いたことがあります。
登場人物たちの中での賛否は両論あるのですが、物語そのものはビッキーのやり方を否定もしてないけど、肯定もしてないんですよ・・・。人類の進化を賛美したり、それに酔っているわけではなく、淡々とその過程を描いている。
なのに、読んでいて、世界がこういう風に発展して、いろんな人々がそれに対して様々な反応をしてることを、しっくりと受け入れられる。菅さんの筆力の凄み…ですね。

素肌改善プログラム、脱ぎ着ができる人工皮膚、アンチエイジング、人工鰓(えら)をつける身体改造、人を落ち着かせる香りのコントロール、身体改造についての考え方の差異、簡易な全身クレンジング・・・。
章が進むにつれ、ビッキーが目指すところが見えなくなり、不穏な空気を感じてしまいます。
美しい素肌を持ち、神秘的な存在感を放つ、ビッキーのイメージモデル・山田リル。
彼女の姿を少しずつ明らかにしながら進む物語は、ビッキーの社長・山田キク(リルの母)、ビッキーの社員たち、リルに憧れる人々、ビッキーの方針に疑問を感じる者たち、多くの人たちの思いを大きくかき混ぜながら、恐ろしいスピードで進化していく。
美しさを求める人々に、自分の体を変えて新しい存在になりたい人々、若返りを望む人々、様々な人々の欲望を叶え、香りの根底に〈人間が安心できる香り=人の皮脂の香り〉を混ぜ込み香りが混ざった時の不快感をなくすという技術によって、様々な企業に影響力を持ち、世界各地にメガフロートを建設するコングロマリットに成長した、ビッキー。
理想を叶える頼もしさ正しさの陰に、魂胆を探してしまう自分は、心が美しくないなぁ…なんて思いながら物語を読み進めていました。

後半事故に逢い、そのおかげで「感覚が鋭敏になり全身アンテナ状態」になった山田リルが向かったのは、軌道エレベータ上の宇宙開発ステーション。
最終章で、今までに登場した人々のその後、時折織り込まれていた古代の化粧のエピソードの人々のその後が交錯しながら、リルの宇宙への希望が語られる。
全ては山田キクの計画だったのか、リルの意思だったのか?その辺はSFでありながらも、ミステリーですね。

一番好きな章は「求道に幸あれ」
天分を磨き上げてこその自信を信奉するアスリート・勢津子と、全身改造を施す努力をしてこその自信だと確信しているモデル・茉那の、全く正反対なのにそれぞれがビッキーによってベストを目指し、お互いを直接的に知らないのに認め合っているような、そんな在り方が、とてもいいと思いました。

時折、物語の中に差し挟まれる、古代の化粧についてのエピソードが、物語をうまくフォローしてたと思います。
化粧の発生、当時の人々のとらえ方、そして巫女たちが「他者の感じられないものを感じ取る力」の源として体に入れ墨を入れていたこと、蛭子と卑弥呼との関連性…。
日本古代神話やそれに関連する民俗伝承的なことが大好きな私には、このちょっとしたエピソードが、とても輝いて見えました。すべては著者・菅さんの推測なのだけれど、きっとこうだったのだと、こういったエピソードがあって、化粧することは人に力を与え、世界を広げたのだと、とてもしっくりきました。
このエピソードの数々あっての、『誰に見しょとて』だった…と、私は思います。

実は。
読了してもなお、〈化粧すること〉〈人体改造をすること〉〈こういった人類の進化〉などに真っ直ぐ向き合えなず、手放しで誉め称えられない自分を、頭が固いと反省するべきなのか、自らの価値観を大事にするべきだと思うべきなのか、とても迷っています。
考えさせられるなぁ…。

(2017.06.26 読了)

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