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zoom RSS 『不時着する流星たち』/小川洋子 〇

<<   作成日時 : 2017/07/30 18:03   >>

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一つ一つ、違った趣を持つ10編の短編集。
小川洋子さんの描く、現実と少しずれているかのような世界に生きる人々の、優しく静かな、あるいは微妙な不穏さを孕んだ物語集『不時着する流星たち』は、心穏やかな読み心地でした。

「誘拐の女王」
母の再婚で新しい姉が出来た。彼女は誘拐されたことがあると言い、その当時の冒険話をしてくれる。
「散歩同盟会長への手紙」
入院生活施設のような場所で、散歩にいそしむ男性。
「カタツムリの結婚式」
国際空港で、同志に出会った少女。彼女は与えられた任務に気付く。
「臨時実験補助員」
23年前、とある実験の補助員として知り合った2人の女性。再会。
「測量」
祖父が歩いて歩数を計測する。かつて所有していたという土地。
「手違い」
「お見送り幼児」である姪と共に来た公園で。
「肉詰めピーマンとマットレス」
留学している息子の元を訪れた母。言葉の通じない国で、彼女が得たものとは。
「若草クラブ」
若草物語を演じた4人の少女たち。エイミーを演じた少女のこだわり。
「さあ、いい子だ、おいで」
文鳥を飼い始めた夫婦。熱狂は続かず、飼育放棄に至る。
「十三人きょうだい」
十三人兄弟の末っ子であるサー叔父さん。祖母の葬儀の日、彼は。

現実から、一歩だけ外れたような浮遊感。
空にあって輝きながら落ちてくる流星が不時着したその場所は、生き易い場所だろうか。
流星が、不時着したのちも生き続けるために、この物語たちはあるのかもしれません。

「手違い」が、好きです。
ちょっとこだわりの強い、〈お見送り幼児〉の姪。彼女の写真を撮った裕福な家のシッターは、湖で転んで靴を濡らす。シッターに手渡されたのは、死者のために編まれた靴。彼女の足にぴったりと合うその靴。ということは・・・?ちょっと不穏な感じが、とてもいいですね。色々な想像が膨らみます。
「肉詰めピーマンとマットレス」の、母のために丁寧な観光案内や言葉の手引書を作る息子の優しさも、素敵。
息子の留学先の言葉が分からない母親が、一生懸命市場で買い物をして、彼のために肉詰めピーマンを作る。作ってから「冷蔵庫に冷凍室がない」という事実に気付き、言葉の通じない大家におすそ分けをして、とても喜ばれる。
この親子の、ゆっくりとした温かい愛情の交流、それが大家さんにも伝わったようで、私もなんだかうれしくなりました。

「さあ、いい子だ、おいで」の、文鳥を絶賛していた夫婦がだんだんその鳴き声に飽き、嫌がるようになり、世話を放棄していく様子は、読んでいてつらかった。爪が長くなった時点で、『愛玩動物専門店』へ連れて行ってやればよかったのに…。そうしたら、そこの店員と話をする機会も出来ただろうに…。子供のいない夫婦の、倦怠感がだんだん募っていき、小さな生き物を粗略に扱う様子が、とてもつらかった。彼らに子供がいて、こんな扱いにならなかったことを、ひっそりと喜ばなければならないのでしょうか。最後に妻が持ってきてしまったベビーカーは、本当に空だったのだろうか・・・と思うと、ちょっとぞっとします。

「十三人きょうだい」のサー叔父さんは、果たして「本当に」存在してたのでしょうか。
祖母は「一人も死なせなかった」と言ったけれど…。十三番は永久欠番だから。祖母の葬儀の日、三輪車を漕いで、サー叔父さんは行ってしまったから。
きっと主人公は、サー叔父さんへの思いを胸に、生き続けるのでしょう。例え、誰もサー叔父さんのことをわからなくても。それでいいのかもしれません。

静かなやさしさと、ちょっとしたスパイスと不穏さ、〈人〉という存在の愛おしいいびつさが溢れる、素敵な物語たちでした。

(2017.07.29 読了)

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タイトル (本文) ブログ名/日時
「不時着する流星たち」小川洋子 感想 
どれも小川さんらしい内容ばかりで、今回も非常に楽しく読ませて頂きました。 ...続きを見る
ポコアポコヤ
2017/07/31 10:45

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは!暑いですねー。

>爪が長くなった時点で、『愛玩動物専門店』へ連れて行ってやればよかったのに…。そうしたら、そこの店員と話をする機会も出来ただろうに…。

これ、思いつかなかったのですが、確かにそうですね。ちょっと教えてあげたかったなあ・・・。

小川さんの小説は、ちょっと背筋が、ひやっとする効果もあるので、夏に読むのもよいですね^^

どれもそれぞれ味のある短編集でした。
latifa
2017/07/31 10:43
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
あんなに素晴らしいと絶賛していたのに、飽きたら顧みなくなってしまう…、という人間の心の移り変わりの早さが、怖かったです。

確かに、小川さんの作品は、ちょっとひんやりしてますね♪夏にいい、かもしれませんねぇ(^^)。
水無月・R
2017/07/31 22:15

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