『家守綺奇譚』/梨木香歩 ◎

湖で行方を断った親友の実家の管理を任された、物書きの私・綿貫征四郎。引っ越してすぐに、床の間の掛け軸の絵から親友・高堂があらわれる。高堂は、庭のサルスベリが私に懸想をしているという。そこから、私の植物にからむ物語が短編連作で始まる。

『家守綺譚』は、水無月・R好みの作品だ。
梨木香歩『りかさん』を読んだことがあるぐらいなのだが、こういう和の雰囲気は、いいですね。淡々と、でも優しい目線で、私の日々が描かれている。時代としては、明治後期ぐらいなのだろうか。緩やかな時の流れと、自然と調和した妖魔(というか、植物や動物の物の怪?幽界の存在?)の営みが、しみじみとした雰囲気の中で描かれている。

犬のゴローが秀逸。隣のおかみさんに好かれ、邪気を追い払い、霧や妖気から征四郎を守り導く力のある、不思議な犬である。「ここら辺りでは有名な仲裁犬」というのも、何だか面白い。最初は肉をとられまいとしていた征四郎だが、いつの間にかその存在を認め、共に暮らし始め、頼りにすらしている。

高堂の家で暮らすうちに、征四郎はもともとが飄々とした人間であったのを、更に徐々に脂気が抜けていっているように感じる。原稿取りに来る後輩・山内にまで、
~~綿貫さんは、だから、桜鬼なんぞに律儀に挨拶されるような境涯にあって、超然としているところが良いのですよ。~~
などと言われるのである。

征四郎は最終章の「葡萄」で、高堂の住まっている「水底の国」へたどり着き、そしてそこから出ることが出来た。高堂はそこで饗された葡萄を食べ、、水底から戻ってこれなくなったのだ、と気付く。
~~そうかこいつは葡萄を食べたのだ、と思った。と同時に、これで書ける、とも。~~
そして、征四郎が書いたのがこの『家守奇譚』であったわけだ。

様々な植物の名前が各章のタイトルになり、植物に関してあるいはそれから連想される動物や物の怪的な存在と私の交歓が描かれる。文章の美しさが、素晴らしい作品だと思う。旧仮名遣いまではいかないのだが、「~~かもしれぬ。」「~~とは言えまいか。」などという、ゆったりとした趣のある文章が、読んでいて、とても心地がよかった。

ゴローやサルスベリもよかったが、個人的には、何でも知っていて征四郎の助けになる隣のおかみさんと、数回しかでてこないが、原稿を取りに来て征四郎に高堂のことを書くよう勧める山内の、物の怪(あるいは幽界)と通じつつもシッカリと自分を維持しているような立ち位置が、気に入った。

(2007.3.21 読了)
家守綺譚
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著者:梨木香歩出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:155p発行年月:2004年01月この著者の新着


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この記事へのコメント

2007年04月15日 07:13
水無月・Rさんこんにちは。コメントいただいていたのにお返事が遅くなりすみませんでした<(_ _)>このお話、本当によいですよね。あれからもひまがあるとつい1話、また1話と読んでしまっています。そしてやっと新潮社発行の「yomyom」を手に入れて、『家守綺譚』のそのつづきを読むことができました!相変わらずよいですよ^^
またいつの日か続刊が出るのかな?それを信じて待ちたいと思います!楽しみです!!
2007年04月15日 23:43
まみみさん、TBありがとうございます!
『家守奇譚』の文章、素敵ですよね。
この続きがあるとの事、今度はどんな植物達が、征四郎を翻弄するのでしょう。続巻が出るのを楽しみにしたいです。
エビノート
2007年09月11日 21:42
作品に漂う雰囲気がとっても素敵で、ずっとずっと浸っていたい物語でした。
ちょっと前の日本では当たり前だったんだろうか?そんな想像をするだけで楽しいです。
犬のゴロー(名前思い出せました!)良いですよね~。
2007年09月11日 22:09
エビノートさん、こんばんは(^^)。
TB&コメント、ありがとうございます!
幽玄な雰囲気の高堂家で、征四郎さんと暮らしてみたいですね。だめなら、隣のおかみさんのところで下宿でもいいです~!
で、出来たら、あふるる物の怪たちと交流してみたいです。
香桑
2007年11月19日 21:30
水無月・Rさん、こんばんは。
この小説、京都の疎水も近いあたりが舞台になっていて、森見登美彦さんがよく舞台に選ぶエリアと重なるんです。
そう思うと、筍を届けてくれたタヌキは、「有頂天家族」に出てくるタヌキの先祖…?と想像が膨らんでしまいます。作風も何もかも違う両者なのですが。
掛け軸から庭の池に、しれっと餌を取りに出てくる鷺も、好きですよ。
2007年11月20日 21:31
香桑さん、こんばんは(^^)。
京都は、幽玄なストーリーによく使われますよね。憧れますねぇ~。
森見さんはまだ『夜は短し歩けよ乙女』しか読んでないんですが、すっごく面白かったので、他の作品も読みたいんですよね~。読みたい本のリストがどんどん長くなり、焦りと喜び半々の日々を送っております。
yoco
2015年05月14日 17:48
こんばんはー!
すっかり遅くなりましたが、水無月・Rさんも読まれてたのですね、この1冊。
そういえば、山内もよかったですね。なんというか、不思議な世界と現実の世界を結んでくれるような存在もまたこの小説の鍵ですよね。
なんとも不思議に印象的な世界観は、読んだ後もしばらく記憶に残りそうです。
2015年05月14日 18:08
yocoさん、ありがとうございます(^^)。
はい~、読んだのはかな~り前なんですけど、梨木作品の中でもかなり好きな方です。
幽玄の存在もいいのですが、そちらとこちらを結びつける山内やおかみさんみたいな人たちも、素敵だなぁと思います。
私は梨木さんの作品では『f植物園の巣穴』とか『村田エフェンディ滞土録』とかが好きです。

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