『秋の花火』/篠田節子 ○

哀愁の漂う、やわらかな短編集でした。読後に漂う、暖かな寂しさが印象的。寂しいけれど、つらくない。悲しくはない。

<あらすじ>
女にモテず、仕事も出来ず「殿下」呼ばわりされる、作家志望の私。お見合い相手にデート中に逃げられ、仕方なく一人で訪れた遊園地で、ひょんなことから女子高生と観覧車に乗る。観覧車は頂上に来たところで停まってしまう。実は女子高生は、堅物すぎてつまらないと言われる35歳の図書館員。喘息の発作を起こした彼女を救うため、夜中に鉄枠つたって、救助を求めに行く。 ――「観覧車」
ロシアから来日した天才ピアニストが舞台にあがると、彼女の過去の闇が渦巻く。ピアノのため、祖国を、アイデンティーを、人間の尊厳を捨て、KGB高官の養女となった彼女を取り囲む。その闇を恐れるが故に、彼女は一人で舞台に上がれないのだ。それを垣間見た、代役の日本人ピアニスト。――「ソリスト」
義母の介護から一時だけ解放された主婦が、男と出会う。2度目まではプラトニックな関係だったが、義母の退院、夫の無理解などから、3度目に体の関係を持つ。4度目、男と別れる。暖房用の灯油が切れ、ぼけていたはずの義母から男との別れを「辛いね切ないね」と言われ、すべてが臨界点を越えてしまった。 ――「灯油の尽きるとき」
アフガニスタンに潜入取材しようと、国境越えを図る、作家と写真家。連れて来られたのはタリバンの隠れ家だという。そこで日本語を通訳するブルカをかぶった女と出会う。女は2人を逃がしてくれ、日本に戻った2人はアフガニスタンのドキュメンタリーを出版する。すると、潜入を斡旋してくれたゲストハウスの女主人から、「アフガン潜入は真っ赤なうそ。口止め料を払え」とのメールが来る。村ぐるみのヤラセだったのだ・・・。 ――「戦争の鴨たち」
かつて、絶大な指導力を持った指揮者は、酒が祟って体が不自由になる。往時は女性に見境なく手をだし、音楽家としては尊敬されつつも、人間性は軽蔑されていた、その指揮者が不自由になってなお、女性に不埒な欲望を抱き、行動に移す。が、ひとたび指揮を始めれば、音楽に力強い命を吹き込む。そんな、指揮者がひっそりと死んだ。教え子達は追悼に秋の花火を催す。――「秋の花火」

篠田節子が、こんなにも、哀切な文章を書く人だとは知りませんでした。どの章も、読んでいて、じんわりと寂しさが押し寄せてくる。タイトルの『秋の花火』の章の、そこはかとないうら寂しさ、老いて不自由な体を持ってしても、生命力と欲望は尽きることなく・・・という、それが、寂しいと感じる。

一番気に入ったのは「ソリスト」。切々と迫ってくる、音楽へのプライドと闇へのおだやかな恐怖。胸に低く重く響く物語でした。
「灯油の尽きるとき」は、いずれは我が身かもとリアルな部分がありすぎ、共感するのが怖くて出来ませんでした。
「戦争の鴨たち」は、とんでもないオチに首がガクンとなりました・・・。いや、だけどそれがよかったのかも。下手に感傷的になりすぎる物語を、最後に引き上げ、しかも女主人の抜け目なさで締めくくるとは、なかなかにすごい展開ですから。

(2007.6.29 読了)
秋の花火
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著者:篠田節子出版社:文藝春秋サイズ:単行本ページ数:309p発行年月:2004年07月この著者の新


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