『廃帝綺譚』/宇月原晴明 ◎

イザナギ・イザナミ神の産みたもうた長子(だが子とは数えられていない)、「水蛭子(ひるこ)」。天皇家代々に伝わる「3種の神器」とは別に、天子を護る類なき秘宝として受け継がれてきたその「水蛭子~真床追衾(まことのおうふすま)~」の玉に包まれ、大海を漂い、怨念を浄化させた安徳天皇。その物語が、前作『安徳天皇漂海記』である。
宇月原晴明『廃帝綺譚』
『安徳天皇漂海記』の終焉部でマルコ・ポーロが南海の「水蛭子の島」から持ち帰った「水蛭子」の一部分が、元朝亡国、明の建国、そして明朝の没落を経る、第1部と、安徳天皇の弟宮、後鳥羽院が配流された隠岐でめぐり会った「水蛭子の大玉」と対をなすという「淡島の小珠」の物語である第2部から成る。

実を言うと、途中までは「前作には叶わずか」と感じていた。どうも、異朝(外国)の盛衰記には興味が持てなかったのである。『安徳天皇漂海記』では、いたいけな少年皇帝たち(南宋の流離帝と安徳帝)の、痛ましくも美しい交流が描かれていて、そこに心打たれていたのだが、今回、感情移入すべき存在が見つからず・・・(そんなことでいいのか、水無月・R)。
ところが、最終章で舞台は本朝(日本)へ戻り、「水蛭子」の玉の対をなす「淡島の小珠」が出てきたことで、俄然、惹き込まれた。院政の在位を追われ隠岐の島に配流された、後鳥羽院の物語が始まった。・・・まあ、後鳥羽院も感情移入すべき美しい存在かと言うと、そうでもないんだけど。安徳天皇の末弟であり、類希なる歌人であったこと、淡島の幻影の中に幼き安徳帝(兄宮)を見たという、そのことが物語を美しくしていたと感じます。

貴種流離譚、貴種の怨念とその浄化、諸行無常・盛者必衰、3種の神器と天皇家に伝わる別なる秘宝、人の生き死にや国の盛衰をを経てなお輝く水蛭子(混沌)の玉。その玉が蜜色に輝きひろがるとき、人は、やすらぎを得るのだろうか。

今回も、まともに書けそうもありません。文章の美しさ、文章から浮かび上がる情景の美しさ、儚さ。史実とファンタジーを織り交ぜ、違和感なく結びあう、物語構成。どれをとっても、素晴らしく、それを表現する言葉を持たない自分の至らなさに歯噛みするばかりです。ストーリーを追う事すら、今回は断念。

イザナギ・イザナミ神の長子「水蛭子」の次に、やはり子の例(たぐい)に入れられなかった「淡島」がいたという事。あるいは「水蛭子の肉の片が真床追衾となり、それが小珠を生み」、「淡島の小珠」となった事。知りませんでした。
その「淡島」が安徳帝の弟・後鳥羽院の元にもたらされ、長兄である安徳帝への思慕、二宮・三宮である兄たちへの想い、配流の際に植えつけられた猛り狂う海への恐怖をないまぜにした、夢とも現ともつかぬ光景を映し出す。
前作で武家の頭領であり、絶世の歌人としても描かれた源実朝の詠んだ、大海の歌。
それに対なすべき、稀世の歌人でもある後鳥羽院の絶唱。
物語は、蜜色の光に包まれ、巡りめぐって、浄化されていった。

廃帝たちに漂う哀調は、ひたすらに、美しく儚い。すべては、蜜色の光に、吸い込まれ、包まれ、安らぎたゆたう。

読み終わった時、蜜色のとろりとした液体が、とぷん・とぷんと寄せては返し、体の中を満たしていったかのような感がしました。

(2007.09.21 読了)

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著者:宇月原晴明出版社:中央公論新社サイズ:単行本ページ数:275p発行年月:2007年05月この著


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この記事へのコメント

エビノート
2007年09月21日 20:05
とても素敵なレビューですね。
読んでいたときの至福の時間を思い返すことが出来ました。
ありがとうございます。
異朝の物語は分からないところもあったんですけど(世界史には疎いので…)、
本朝の後鳥羽院の物語では実朝と後鳥羽院の響きあう二つの和歌がとても素敵でした。
2007年09月21日 20:40
エビノートさん、こんばんは(^^)。
TB&コメント、ありがとうございます。
いえいえ、ホントにとりとめのない拙い文章で、お恥ずかしい限りです(笑)。
日本史系や日本古典文学系の人は、きっと最後の後鳥羽院の物語に心打たれてしまうんでしょうね。
宇月原さんの、素晴しい筆力に、心から感激した作品でした。
june
2007年09月22日 00:03
本当に儚くて美しい物語でした。
後鳥羽院の話のひたすら美しくて端正で、じわっと心が温かいもので満たされるようなラストが印象的でした。
2007年09月22日 21:42
juneさん、こんばんは。
TB&コメント、ありがとうございます!
儚く、美しく、切なく痛々しい。けれど、どこか温かい。
蜜色、というその色も「ひとのこころ」を安らがせる気がしますね。
読んでいて、とても気持ち(心持ち)が良かったです。
雪芽
2007年09月22日 22:12
こんばんは!
異朝の辺りはおぼつかない足取りで読んでいましたが、最後の後鳥羽院で見事なまでに完結した物語の美しさに圧倒されました。
蜜色に照らされる世界、儚く美しく、とってもよかったですね~
2007年09月23日 00:07
雪芽さん、こんばんは。
TB&コメント、ありがとうございます。
読めてよかった!感無量!な作品でした。
このまま、この世界にはまっていきそうです♪
2007年09月27日 11:18
こんにちは。
エビノートさん同様、素敵なレビューにまだかの小説を読んでいるかのような印象を受けました。特に最後のあたりは素晴しい!です。

私は後鳥羽院よりも中国の帝王達のお話の方にはまり込んで読んでしまいました。前作同様、幻想的で哀しいお話に魅了されました。
2007年09月27日 22:23
すずなさん、こんばんは(^^)。
いや~、お恥ずかしいです。勢いで書いてますから、最後の方・・・(^_^;)。
宇月原さん、素晴しい作家さんですね~!
他の作品も読みたくなりました♪

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