『裏庭』/梨木香歩 ○

~理論社ライブラリー・本をめぐる10代の冒険~ の中の一冊なわけで、どっちかって言うと中高生向けでしょうか?
いえ、大人にもちゃんと読み応えのある、しっかりとしたストーリーの物語でした。
ただ・・・なんだろう。つかみづらかった。たぶんそれは、「自分に向き合う」というメッセージが怖かったから・・・。
私には、照美のような潔さがない。
[もっと自分をもって、もっとシッカリして、もっと他者に優しく、もっと・・・。]
思うことはできても実行できない自分の弱さが暴きたてられるような気がして、ちょっとつらい作品でした。

6年前、双子の弟を亡くした、照美。それ以来、仕事の忙しい両親とうまく関われずにいる。友達の祖父から、近所のバーンズ屋敷の不思議を聞き、その庭に迷い込む。
照美の母、さっちゃんは子供のころ、母にあまり優しくされたことがなかった。
バーンズ一族は、1世代に1人、『裏庭』の世話をするものが現れるという。屋敷の姉妹の妹・レイチェルはその、世話をする者であり、かなり強力な能力があった。が、あまりに裏庭と引き合いすぎ、レイチェルは早世する。
レイチェルの姉、レベッカはバーンズ屋敷の処遇を検討するため来日し、旧友の夏夜と行動する。
照美は、迷い込んだ「裏庭」の世界で、色々なモノたちとめぐりあう。案内人のスナッフ、音読みの婆、必ず2人組のコロウプたち、片子のコロウプ・テナシ、一つ目の竜、マボロシ、幻の王女。3つの藩をなす世界、地下でつながる根の国、遠くそびえるクォーツァス。それは、照美自身の様々な問題を象徴していたり、ひとの心のありようを指し示していたり。つまり、裏庭とは個々の内面世界であり、さらに個々を繋ぐ広がった精神世界でもある、のだと思われる。

あ~、難しいぞ。なんだか全然文章にならない。現実世界の物語と、照美=テルミィの「裏庭」での探索物語が、エピソード毎に交互に出てくる。裏庭での物語が、色々と象徴的すぎて、あてはめて考えるのがしんどくなってしまった。これを中高生に、というのはなかなかにハードな気がするけど、逆にあの年代だからこそ、するっとその世界に入り込めるのかな。
大人たちの中で、ままならない思いをする子供、というのにも共感できるだろうし。

梨木香歩さんは、お気に入りの作家さんです。美しく、優しい雰囲気の文章を書く方ですよね。
ただ…今回はどうしても、照美の悲しい気持ちや心の闇などが苦しく押し寄せてきて、そして私自身の弱さがあまりにも露わになり、辛くなってしまって、ちょっと・・・。

でも、最後に照美が現実世界に戻ってきて、「妙さんから」と言って母親を抱きしめた後、その心臓の音を、
~~これは礼砲の音。新しい国を造り出す、力強いエネルギーの、確実な響き。
   忘れないでおこう。~~ (本文より引用)

と感じ取ったとき、ああ、梨木さんらしいなぁ、良かった・・・。と、安堵しました。
レイチェルの「裏庭」世界の崩壊を告げ、促す礼砲は、また新たに命を生み出す音なのだと。
全ての人の営み、命の営みは連綿と続く。
悲しいことも、美しいことも。それでこそ、世界なのだ。

そう、告げられたような気がしました。


最後の章で、レイチェルと丈次が、新しい「裏庭」に入っていくところが描かれていた。光り輝く、庭へ。そこにいたのは「銀の手」。銀の手は、テルミィと旅をした片子のテナシ。すべての庭はつながっていて、独立していて、生まれ変わり、受け継がれていく。美しいイメージが光り輝く世界へ広がっていく、そんな印象を受け、すがすがしい気持ちで読み終えました。

(2007.09.25 読了)

よくお邪魔させていただいている、「おいしい本箱Diary」ERIさんが、とても素晴らしいレビューを書いていらっしゃいます。私が怖くて書けなかったことや、気がつかなかったことなど・・・深いです。
ERIさんの『裏庭』のレビュー
そして、上記のレビューに大変興味深いコメントがついて、別記事でそのやり取りや他の方のコメントの深い洞察が紹介されています。
『裏庭』に寄せて
是非、皆様にもご覧いただきたいので、ERIさんのご承諾を得て、こちらに直接リンクを貼りました。ERIさんのレビューとコメントする皆さんの深い洞察をお楽しみください。


裏庭
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新潮文庫 著者:梨木香歩出版社:新潮社サイズ:文庫ページ数:412p発行年月:2001年01月この著


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この記事へのコメント

2007年09月26日 02:37
こんばんは。丁寧なコメントを頂いて恐縮です。梨木さんは、繊細でいて、非常に骨太なバックボーン・・思想や教養の、確固たる背骨をお持ちだと思うのです。その世界と対峙し、会話する姿勢が、凛としていて素敵だと惚れ惚れします。この裏庭は、水無月・Rさんがおっしゃるように、自分の影の部分・・無意識に眠る闇の領域に踏み込む要素が大きいですよね。そこに旅すること・・それは、自分を知るために、どうしても必要な営み。照美と一緒に、私達は自分の心を旅するのかもしれません。リンクは、どうぞ貼ってください。よろしくお願いします。
2007年09月26日 23:26
ERIさん、こんばんは(^^)。
早速リンクを貼らせていただきました!
ありがとうございます。

ERIさんのレビューを読んで、この作品は、時間をおいて再読してみようと思いました。私自身の弱さを弱さとして受け入れ、そして少しでも自分と向かい合うこと、少し怖いのですが、その時が来たら出来るのかもしれない、という気がしてきました。
梨木さんの文章には、揺るぎのない優しさ・勁さ・そして知の魅力があると感じますね。
これからもっと、いろんな作品を読んでみたい作家さんです♪
やぎっちょ
2007年09月27日 10:10
水無月・Rさん
こんにちは~♪
同じく、梨木さん好きだけど今回は~のくだりが賛成です。水無月・Rさんにコメントもらって自分の感想読み返してみましたが、なんだか内容がいまいちよく思い出せない。。。
ERIさんみたいに深く考えてないしなぁ。水無月・Rさんも向き合いながら読んでいるわけで、結局うひゃひゃと読んでるお気楽者は自分だけだったりして♪♪でもって「覚えてない」とか言い出すし。。。うーむ★
june
2007年09月27日 21:03
裏庭での出来事があまりにも象徴的で、暗喩に富んでいて、私も読んでいてしんどかったです。でもそれを抜きにしてもしんどい・・という印象だったのですが、水無月・Rさんの記事を読んで、それは、「自分に向き合う」というメッセージが怖かったからだというのに気付きました。そうなんですよね、それから目をそらそうとして読むから辛かったんですよね。なんかこう、私の言いたかったことが全てここに書いてあって、考えたくなったらここに読みにくることにします。
2007年09月27日 21:49
>やぎっちょさん。
TB&コメント、ありがとうございます。
自分の弱さ、甘さに向き合うことって、難しいです。『裏庭』は、再読したいと思います。その時、違う感想が生まれるかもしれないな、と思ってます。

>juneさん。
TB&コメント、ありがとうございます。
いや~、そんなにお褒め頂だいちゃうと、水無月・R、調子にのっちゃいますから(^_^;)。
作品として素晴しいと思うんですが(ただ、裏庭世界は)、迫るものが結構つらかったですね。

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