『七姫幻想』/森谷明子 ◎

先日読んだ『桜庭一樹の読書日記~少年になり、本を買うのだ~』で桜庭さんが紹介していた作品の中で、『妖櫻記』、の次に気になった作品です。森谷明子さん、全く知らない作家さんでした。
その森谷さんの『七姫幻想』、美しい作品でした~。七夕の織女の7つの呼び名を章の名にした、短編集です。
王朝ロマンかと思いきや、ロマンの味を持ちつつミステリー。おお、こういうの、いいですねぇ~

「ささがにの泉(蜘蛛姫)」「秋去衣(秋去姫)」「薫物合(薫姫)」「朝顔斎王(朝顔姫)」「梶葉襲(梶葉姫)」「百子淵(桃子姫)」「糸織草子(糸織姫)」
と時代を経て、天皇家にかかわりを持ち、時には皇妃までも利用し、それでも歴史の表に出てこないある一族の物語がつづられる。

その一族の「七夕」の姫にちなむ物語たち。どれをとっても素晴らしいです。古事記から、万葉集や古今和歌集、源氏物語など、様々な日本古典文学が織り込まれてますが、詳しくは知らなくても物語に惹き込まれます。
機織りや薬草術などに長けた姫の里(吉野の山奥らしい)から、さまざまな技に優れた女たちが都に上り、時代の天皇家と関わりを持ちつつ、里は密やかに、連綿と人々の暮らしが続いてゆく。
水をたたえる泉と機織りの姫君をモチーフに、美しい情景が浮かんできます。


私が一番気に入ったのは、「朝顔斎王」の章ですね。他の章は悲恋や悲劇の趣が強いのですが、この章だけは、さわやかにハッピーエンド。
源氏物語から時を少し下りた頃。朝顔斎王と呼ばれるようになった、伊勢の斎宮を降りた姫宮・娟子と源氏の中将・俊房の、不器用な初々しい恋と、娟子の身辺で起こる嫌がらせの数々。嫌がらせが頂点に達したとき、身を呈して娟子を救った少納言から、のちに明かされる真実。
現斎宮の、前斎宮への神の遣いとしての力の嫉妬。想う男性の心を得られない嫉妬。血縁や境遇の違いへの嫉妬。様々に絡んだ苦い思いは哀れだけれど、深窓の姫のはずが夜な夜な嫉妬をあらわにして徘徊するというのは、相当すごいマイナスパワーだわ~。
この物語は、源氏物語の「朝顔」の章にでてくる、源氏の君の従姉妹で斎宮になった「朝顔の君」をモチーフにしてるんですが、この姫宮、源氏の君に口説かれてなびかない唯一の女性です。源氏物語の女性の中では、一番好きですね。

「百子淵」も、良かったな。吉野の山奥にある里の一番の祭り、水都刃祭と水分祭。村人たちは星守のばばに従い、祭りを続けてきた。
ところが、祭りで成人した1人の少年の死から、祭りや村の起源に疑問をもった隼太が、星守のばばを問い詰め、村の祭りと歴史の真実を憶測する。流行病を封じるために、巫女姫と村を棄て、もとの村を水に沈めた、忌まわしいけれど、真実の歴史を。隼太は村を旅立つ。
美しげに飾った村の行事の、真実。村の歴史をいいように曲げて伝える、物語。見抜く聡明さを持ち、そこから飛び立つ少年。いいですね~、こういう感じ。暗い過去は重苦しいのだけれど、隼太の未来がそれを救ってくれる気がします。

謎解きがあったり、美しく描かれる物語に残酷な陰があったり、ただのきれいなだけの王朝絵巻ではないところが、素敵だと思いました。美しい情景が浮かび上がる、良い物語でした。

(2007.10.09 読了)
七姫幻想
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著者:森谷明子出版社:双葉社サイズ:単行本ページ数:339p発行年月:2006年02月この著者の新着


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この記事へのコメント

june
2007年10月10日 00:15
この本、桜庭さんの本で紹介されてたんですね。大好きな本なのですが、歴史物はなんとなく勧めにくくて、布教できずにいました。桜庭さん効果でたくさんの人が読んでくれるといいなと思います。
水無月・Rさんは、源氏物語の中では「朝顔の君」がお好きなんですね。朝顔の君の凛とした姿勢、内面の葛藤に苦しみつつも打ち克つ様は、私も素敵だと思います。でも私には絶対できそうもないんで、好きというより憧れという感じです。
エビノート
2007年10月10日 00:42
表舞台には登場しないながら、ひっそりと続いてきた一族の歴史が壮大でしたね。
各話のミステリも良かったけれど、全体を眺めてみてもとても良い作品だったとおもいます。
時代を経るにつれて、一族の持つ神秘性が薄らいでゆくところも。淋しい気もしましたが、それも仕方のないことなんだろうなぁとしみじみをしてしまいました。
2007年10月10日 10:10
七夕の七姫を基にした素敵なお話でしたね。でも、悲しいお話が多いのがちょっと・・・でしたけど。
なので、余計に「朝顔斉王」のラストにほっとしつつ嬉しく感じました。私も一番好きなお話でした。
2007年10月10日 21:57
juneさん、TB&コメント、ありがとうございます!
桜庭さん好きな方なら、きっとこの本はツボですよね。
「朝顔の君」が一番好きなのは、やっぱり凛としたところです。いえ、私自身はかなりグダグダな人間なんで、真逆な人を好きになるんですよ(笑)。憧れると、目指さなきゃいけないですから…あはは。
2007年10月10日 22:04
エビノートさん、TB&コメント、ありがとうございました!
コメントいただいて、あ!と気が付きました。そうですね、時代を経るにつれ、神秘性幻想性がだんだん薄れていく・・・。
神話時代から、近世へ。物語のありかたの変遷も、この作品の壮大さを、形作っていたんですね~。
良いことに気付かせていただきました。
ありがとうございます♪
2007年10月10日 22:13
すずなさん、TB&コメント、ありがとうございます!
悲劇の美しさを存分に描いている、すばらしい作品でしたね。
その中で悲劇ではなく、幸せなラストを迎えられた「朝顔斎王」は、特に光って感じられました。
「末摘花」もいじらしい感じでいいですよね♪
やぎっちょ
2007年12月30日 22:26
水無月・Rさんこんばんは♪
今頃はだんなさまのご実家のコタツでみかんを食べていることでしょう(食べてない食べてない)。
勘違いしてこちらを先に借りてしまいました。でもひょっとすると「れんげのはら~」よりよかったかも。森谷さんの頭の中の深さを覗き込んでしまった気持ちになりました。深いですねぇ。これ一冊書くのにどのくらい史料なりを調べるんでしょうか。当然風俗も知らなくてはいけないわけだし。ちょっとびっくりしました。
「千年の黙」も楽しみです。(まだ借りてないけど)
2008年01月04日 22:34
やぎっちょさん、ありがとうございます♪
ダンナの実家・・・苦行でしたわ~(-_-;)。年に3泊で十分です、ホント(笑)。
さてさて、『七姫幻想』お気に召していただけたようで、良かったです~。七夕の織姫の7つの別の名をモチーフに、正史には現れない一族の連綿と続く物語、私もとても気に入っています。
香桑
2009年07月12日 23:51
こんばんは☆ 七夕には間に合いませんでしたが、こちらのほうも読みました。何とも言えない情感の漂う美しい短編集ですね。
私も「朝顔斎王」は好きですが、元斎王と年下の少年のじれったい愛だけではなく、二人の間を取り持ったのが清少納言というところに興奮しました。隠しキャラがいっぱい。笑
出来事があり、歴史が物語や伝説になり、やがて水底へと消えていく過程のように読むことができたと思います。
2009年07月13日 23:36
香桑さん、ありがとうございます(^^)。
清少納言が出てくるあたり、おお!と思いましたね~♪
幻想的な七夕姫たちの物語、とても美しかったです。
静かに始まり、波乱を含みつつも、静かに終わってゆく・・・。後世の人々には、伝説として語られながら。
美しくて、素敵な物語でした。

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