『真夜中の五分前~Side-B~』/本多孝好 ○

Side-AとSide-Bで一つの恋の両面を描いた作品、とあり、興味をそそられていた作品です。
〔Side-Aは僕側から見たら恋愛だから、Side-Bはかすみ側から見た話かな?〕という予想と反して、物語は2年後に進んでいます。しかも、かすみはすでにいない人(水穂と同じく死者)として、登場します。
Side-Aは普通に乗り越える恋愛を描きSide-Bは喪失・再生・そして永遠の喪失を描きつつ、ややミステリー色(謎解きと言うよりは心理描写的なもの)を帯びています。

『真夜中の5分前~Side-B~』では、やっと結びあった僕とかすみの想いが、海外での列車事故により引き裂かれ、微妙な疑心暗鬼が生まれたところから始まる。
結婚したゆかりと、スペイン旅行に出たかすみは、列車事故のたった一人の犠牲者となり、死亡する。かすみへの想いを1年半抱き続けていた。そこへ、ゆかりの夫から「生き残ったのは、本当にゆかりなのだろうか」という相談が持ちかけられ、僕は揺れ始める。
かすみの死、仕事を変え、淡々と生き続ける、僕。ゆかりの、告白。

ある日、かすみを想いつつ水穂を思い出し、水穂の記憶をたどろうと訪れた喫茶店で、水穂の墓参りを思い立ち、出発する、僕。墓の前で、もし水穂が生きていたらとその水穂と出会ったらこう聞くだろうと思う。
~~「なあ、今の君に今の僕はどんなふうに見える?」~~ (本文より引用)
と。そのシーンで、急に、胸がつまった。
主人公・僕と、水無月・Rが。驚いた。その一瞬、私は、主人公とシンクロしたのだ。
もちろん、私は恋人を亡くしたことはない。だが、非常な現実感として、胸に迫ってくるものがあった。
~~自分自身を哀れむことの愚かさを僕は初めて自分に許していた。~~ (本文より引用)
私は、自分を哀れむことにためらいがない、弱い人間である。だからこそ、「僕」の今まで築いてきた堅固な心が崩れたその瞬間に、とても心打たれた。心が崩れることにすら、芯を喪わない、その強さに。

「生き残ったゆかり」は、ゆかりの記憶とかすみの記憶や実感の両方を持っていた。目を覚ました瞬間、目の前にいた人物が「ゆかり」と自分を呼んだから、「ゆかり」になったのだと。ゆかりとかすみは、自分たちすら違いを見つけることの出来ない双生児。お互いに日々のことや思いを報告し合っていたが故に、事故の混乱で自己を見失い、呼ばれるがままに「ゆかり」となった。
人によってはこの事象を、「かすみの打算」あるいは「生き残ってしまったかすみの、尾崎(ゆかりの夫)への同情とまだ残っていた恋情」で、〈僕〉に対する不誠実ととるかもしれない。
けれど、私は「ゆかりとかすみ自己を混乱したまま覚醒させられ、第一声で確定づけられてしまった悲しい存在」ととりたい。でなければ、このSide-Bで誰も救われない。もし、何かが悪いとするなら、子供のころ、どちらがどちらかも判らなくなるほどお互いを取り換えまくったこと、そしてそれを親までが見抜けなかったこと、その事(でも誰かが悪いわけではない)に、私は昏い苦しさを感じる。

物語の最後に〈僕〉は、~~今も1日の最後の5分間だけ、かすみのことを思う。水穂のことを思う。そのとき、そこにいた自分のことを思う。 (本文より引用)
その5分間は、1日のうちのたった二百八十八分の一。
時計を5分遅らせる習慣を失うことなく水穂を想い、取り返すことが出来たかもしれないのに永遠に失ってしまった、かすみを想う。
水穂の喪失。恋愛感情の再生。かすみの喪失。「ゆかり」の告白によるかすみの再生、そして永遠の喪失。
そして〈僕〉は、それでも、生き続ける。残りの1日の二百八十八分の二百八十七を、今の僕と今愛する人に使って。

読了して、なんだか非常に感傷的な気持ちになってしまいました。ミステリーでありつつ、タネはもう分かってて、謎解きと言うよりは、すべての登場人物の心の揺れを、端的に描いているこの作品は、すごいと思いました。

そんな感傷的な感想から全然外れちゃうんですけど、〈僕〉の下でアルバイトする漫画家志望の青年、結構気に入りました。まったくの脇役なんですけどね。初めて会った人でストーリーを作ってしまうという、面白さ。しかも〈僕〉を称して「自分の未来すら知っている占い師」と言う、見抜く力がすごい。「その占い師が自分でも予想しなかった恋に落ち、自分の知っている未来とは違う道を歩き出す」というストーリーを思いつく。うわ~、この青年の描いたこの漫画(ストーリー)、読んでみたいなぁ・・・。

(2007.10.15 読了)
真夜中の五分前(sideーB)
楽天ブックス
著者:本多孝好出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:171p発行年月:2004年10月この著者の新着


楽天市場 by ウェブリブログ



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック