『でかい月だな』/水森サトリ ○

第十九回「小説すばる新人賞」受賞作。思春期の焦燥、混乱、一途さを描いた、力作ですね~。若さゆえの頑なさや、周りを気遣わない行動、或いは気遣い方が間違っている行動、そして、大人にも子供にもなりきれない、違和感。それを端的に表現した「やつら」。たしかに、あのころ、世界は違和感に満ちていた。

主人公・ユキのリアル感が遠ざかり、また満ち始める。そういう物語だったのだと思います。
いきなり冒頭で、友達に蹴落とされ、九死に一生を得、透明な魚が空中を泳ぐという幻視をし、段々にズレていく世界。

『でかい月だな』そう言って、友達の綾瀬は、ユキを蹴落とした。体が回復し、中2をダブったユキの周りで、「やさしさブーム」が起きる。何かが違う。みんな、どうしたんだ。ここのところ見続ける「やつら」から逃げ、誰かを助けなければならない夢と、ユキの現実がシンクロしていく。
みんな「やつら」に乗っ取られる。
~~最後まで残るのは、幸せになりたくないやつさ~~ (本文より引用) 
なぜ、ぼく(ユキ)は幸せになりたくないのだろう。

錬金術など言いながらも、現実的な天才少年・中川。元いじめられっ子で邪眼の持ち主と称する・かごめ。そして、ぼく。誰が、最後まで正気を保ち続けられるのか。その正気は、正しいのか。
かごめの解釈「宇宙の果てで進化しすぎた意識体が、地球に影響を与えている」のは、本当なのか。中川の言う「(ユキが蹴落とされた)去年の事件で、夏休み前はみな緊張しているだけ」なのか。

ユキを蹴落とした綾瀬の真意。それは永遠なんてないというトラウマから、ならば自らの手で壊して、その一瞬を自分の手に入れたいという、矛盾。だから、大切に思っていた友達を、蹴落とした。でも、我に帰って泣きながら救助を求め、「何故そうしたかわからない」と繰り返した。
ユキが「綾瀬に会うまでは」と、怒りも恨みも一時保留していた、本当の理由。そこまでの敵意を綾瀬に持たれていたことを知るのが、怖かったから。

そんな二人が「やつら」の起こす現象のピークで、再会する。一生をかけて償うという、綾瀬の覚悟は中学生とは思えないほどの強さ。
それを受けて、「一生をかけて、花火の尺玉を買い続け、一緒にバーベキューをしよう」と、宣言する、ユキ。
~~たがいに別々のことを考える。それでもいい。一緒に笑うだけでいい。~~ (本文より引用)

そして「やつら」通過の≪満潮≫。世界は溶け、月と自分だけが覚めている世界。月は、自分は、世界は、なんて孤独なのだろう。その孤独を知ることで、ユキは現実を取り戻していくのだと思った。孤独を知らない、子供の世界から、一歩ずつ、大人の世界へ。失うものも多いけれど、人は嫌でも成長せねばならない。

思春期を通り越してきたからこそ描ける、あの頃の物語。
そのリアルな違和感に圧倒されて、少々の物語の強引さや不足は、気にしないことにした。気になる点がない訳ではないけど。水森サトリという作家のデビュー作でもありますし。
現実的な中川説も、かごめのオカルト説も、どちらもユキにとっては本当で、あの頃の「世界が多重に感じられる感覚」をよく描いていたと思う。

う~~~ん。
なんか、やたらお高く澄ました文章になってしまった。私らしくないねぇ~(笑)。

(2007.12.07 読了)

でかい月だな

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この記事へのコメント

june
2007年12月10日 22:43
SFっぽい展開にとまどったんですが、
>現実的な中川説も、かごめのオカルト説も、どちらもユキにとっては本当
って、そうかもしれません。月と自分だけが覚めてる世界から孤独を知って大人になっていく。そう思うとあのシーンがまた別のものに思えてきました。あのシーンよくわからなかったんですけど、今はわかるような気がしてきました。
2007年12月10日 23:13
juneさん、ありがとうございます。
あのシーンの解釈は、私個人の思い込みですが、そういって頂けると、ウレシイです。
この本が、中学生向けの推薦図書になっていたとのこと、イイですね~。「あの頃の焦燥」真っ最中の中学生は、この物語から何を読み取るのでしょうか。知りたいなぁ。
2007年12月12日 01:54
こんばんは♪
大人になるって、大変なことなんですよねえ。
過ぎてしまうと忘れてしまいそうな、あの感覚を、よく書いてあったと思います。
月と、孤独。どうしても、その二つは結びついてしまいますよね・・。
2007年12月12日 21:56
ERIさん、ありがとうございます。
この作品は「あの頃の違和感」を端的に描いていたので、本当にビックリしました。
夜、たった一人で月と対峙したユキは、何かを得て何かを失って、成長したのかな、なんて思っています。
まみみ
2007年12月13日 22:27
この作品、中学生向けの推薦図書になっていたんですね。知りませんでした~。こんな難解な作品をよくぞ……と思いますが、かえって同年代の方がするっと納得できるのかもしれませんね。
2007年12月13日 23:23
まみみさん、ありがとうございます。
通り過ぎてしまった我々と、今「その時」にいる中学生とでは、違った感想を持つかもしれないですね。
どんなふうに感じるんだろう。「透明の魚の泳ぐやつらがいる世界」をリアルとして感じてしまったりするのかしら。

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