『ゴールデンスランバー』/伊坂幸太郎 ○

・・・結構、消化不良なんですけど。いや、伊坂さんらしい、時系列の絡み合った緻密な、ある意味登場人物たちに都合がいいぐらいキッチリ組み立てられたストーリーで、読んでいて爽快なのですが。
明快な結末が用意されてなかったことが、ちょっと残念。でも、私の希望する「何故?の解明」まで書こうとすると、もう1冊は必要で上下巻になりそうです(笑)。
しかも、作品傾向が全然違った物に・・・。
2008年本屋大賞受賞作です~!
伊坂さん、おめでとうございます~♪


今年は伊坂幸太郎さんの作品をどんどん読んでいきたいと希望している、水無月・Rです。伊坂さんの作品は、ホントに面白いですからね!エンターテイメント性も高いし、とても意味が深い物語で、いろんなことを考えさせられる。

で、『ゴールデンスランバー』も、いろいろ考えさせられましたよね。ザッツ監視社会・・・。恐ろしいけど、もしかしたら、近未来ありえなくもないんじゃないかと・・・。ついね、全然別の傾向の作家さんの作品を思い出しちゃいました、福井晴敏さん・・・。公安や自衛隊特別諜報組織ダイス、国家や組織同士のメンツなんかを描いて、ぬるま湯な見せかけの平和に染まり切ってる我々に危機意識を提起する、あの作品傾向。作風なんかは全然違うんですけど、今回この作品で伊坂さんは「このまま、成り行きで行くと、危険じゃないか?」っていうことも、書いてくれた気がするんですよ。

首相が公選制である、パラレルワールド日本、そしてその中の仙台市。そこに巧妙な罠が仕掛けられる。
アメリカ・ケネディ大統領暗殺を思わせる「首相暗殺」。すぐに指名手配される犯人。まるでケネディ暗殺の犯人とされる、オズワルドのように。
しかし、それは濡れ衣である。犯人に濡れ衣を着せるために、長年にわたり、大々的に仕組まれる、罠。どこからが罠で、どこまでが偶然の産物で、何のためにそんな大がかりに、計画されたのか?

主人公・青柳(非常に普通な好青年)は、何者かにいつの間にか嵌められて、首相暗殺の犯人として追われることになる。
次々と現れる、出来すぎた、証言と証拠。犯人を追う警察側の、異常なまでの横暴。あからさまに仕組まれた、しかしあまりにも事件のバックにある存在が大きすぎるのだろうか、抗うことのできない展開。
その中で、青柳が過去の思い出をきっかけに、知恵と幸運を駆使して、逃亡する。青柳の逃亡を助ける人々は、彼を信じている。学生時代の元恋人、友人、後輩。会社の元同僚、通りすがりの連続殺人鬼、入院中の裏稼業男、整形外科医、元アイドル。
もし私が、青柳の昔の友人だったら。彼を信じて、彼のために動くことができただろうか・・・。

一つの事件を「事件の始まり(起こったこと)」「事件の視聴者(マスコミを通してだけ知る)」「事件から二十年後(過去の情報も含め論ずる)」「事件(当事者たちの視点での現在進行形の事実)」「事件から三ヶ月後(当事者のその後)」という5つの切り口で描いていく、しかも二十年後を現在進行形の前に持ってくるという、構成のうまさ。さすが伊坂さんですよねぇ。一応、事件の結末の予想はつく。だけど、本当のところ何が起こってたの?!という、読者の気持ちを引っ張る引っ張る。

私、青柳の頑張り「とにかく逃げるんだ!」を応援してました。ただ、相手が(多分)デカすぎる。誰(何)が、何のために、どれだけ多くの労力を使って、この事態(事件)を計画したのか、それがずーっと引っかかって、すごく居心地悪く読んでいました。なんか内蔵のどこかをつかまれて、引っこ抜かれそうな、そんな嫌~な感じが、ずっとしてました。実を言うと、そこのところが解明されなかったんで、ちょっと読後感はよくないです・・・。

だけど、「三ヶ月後」の章で青柳が自分を助けてくれた人たちに、ちょっとずつ自分の生存の印象を残していく、あれはよかったですね。「痴漢は死ね」とか「親指でボタンを押す」とか・・・。最後に「たいへんよくできました」のハンコをもらう。よかったね、青柳。頑張ったね・・・って。

それから、連続殺人鬼の「キルオ」こと三浦が、印象的でした。もちろん、殺人は、いけないこと。倫理に反してる、悪い奴のはずなんだけど。だけど、青柳を助けるために、情報をたどった末に、死んでしまう。しかも、死の直前まで、飄々として「俺に道徳を説かないで下さいよ。無駄だから」なんて言い。「政治家とか偉い人を動かすのは利権」「人間にとっての最大の武器は思い切り」とか、名言も残して。ちょっと、カッコイイよ、って思ってしまいました。

かっこいいといえば、青柳のお父さんも、いい味出してますね。変わり者のお父さん、でも、息子を絶対的に信用してる。そして「逃げ切れ」とエールを送る。最後に青柳生存を知らせる手紙を見て、泣きそうになるところも、すごく良かった。伊坂さんて、若者を描くのもうまいけど、妙にずれてる癖にかっこいい中年男性像がうまいな~と思います。

仙台市内にくまなくおかれる「セキュリティポッド」。これ、ホントにあったら怖いですねぇ。プライバシーも何もあったものじゃない。でも、「緊急時に必要」ともっともらしい理由を前面に押し立ててこられたら、黙認というかなし崩しで、反対もろくに上がらないまま、設置されてしまいそう。管理社会で監視社会だ・・・・。

(2008.03.27 読了)
ゴールデンスランバー
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A memory 著者:伊坂幸太郎出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:503p発行年月:2007年


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この記事へのコメント

エビノート
2008年03月28日 23:42
読み終わってみると面白かった、最高!と思えたんですが、読書中はハラハラし通しでした。
青柳と同じ立場に置かれたら…と想像しちゃって。最初は、青柳が犯人なんだ~と同じように報道に乗せられちゃってたのに(^_^;)
報道を鵜呑みに掏る怖さとか、監視社会の怖さとかリアリティありましたね。
まみみ
2008年03月29日 04:55
脇役にいたるまで、かっこいいキャラの多い作品でした。ま、いつも多いんですけど^^

フィクションだけど、それだけでは終わらない怖さがありました。今現在だって、どこかで着々と「こんな世界」の構築がはじまっているのかもしれない……とか考え始めると怖すぎて眠れなくなるので、あえて考えない方向で。
ってそれがヤバいんですね^^;
考えろ!考えろっ。(マクガイバー風に)
2008年03月29日 13:31
こんにちは。
読みながら、自分だったら・・・と想像してしまいましたね。でも、自分に置き換えるとかなり怖いお話でした。
伏線がいたるところに張ってあって、そういう意味でも緊張感のある読書になりました。いや、すっごく楽しませてもらったんですけどね(^^)
2008年03月29日 23:02
>エビノートさん、ありがとうございます。
あちこちの伏線の回収、意外なところでの思い出と絆、伊坂さんらしい、緻密な作りの物語でしたね。
だからこそ、リアリティのある「情報操作の濡れ衣・陰謀」が恐ろしかったです。

>まみみさん、ありがとうございます。
伊坂さんの描く、キャラの立った登場人物たちは、いつも魅力的ですよね。
そんな人たちが巻き込まれる、恐ろしい事態。普通の、一般民間人が、そんな大掛かりな事態にどこまで抵抗できるのか。胃のあたりが気持ち悪くなるぐらいのリアリティが、とても恐ろしかったです。

>すずなさん、ありがとうございます。
後ろ暗いことはなくても、自分だったらどうしようって、恐ろしい気持ちになりますよね。
そこを和らげる、登場人物達の暖かい信頼の深い絆が、とても素敵でした。
藍色
2008年03月30日 04:38
伏線と過去のカットバックが効果的に取り入れられていたり、人を喰ったような意外性(三浦、カッコよかった!)もあったりして、行間からは"伊坂エッセンス"が溢れていましたね。
人と人との繋がりに胸が熱くなりました。

TBはまだ不調で反映されませんが、見捨てずに来て下さって、とってもうれしかったです。
こちらからTBさせていただきますね。
お手数ですが、また折を見てTB試していただけると助かります(汗)。
じゅずじ
2008年03月30日 08:40
小さな嘘はバレやすいけど、大きな嘘は…怖いですね。
報道されていることへの信憑性、それを見ている人間心理がうまく描写できてて楽しかったです。
2008年03月30日 23:05
>藍色さん、ありがとうございます。
伊坂さんが描く「人と人との絆」には、胸をうたれますよねぇ。クールなのに、アツい感じがとてもよいですね。
TBの件、ホントうまくいきませんねぇ…。
ウェブリブログ、どうしてそんなにTBの調子が悪いんだ・・・(T_T)。

>じゅずじさん、ありがとうございます。
当事者じゃない人は、報道から判断するしかない・・・実は、恐ろしいことなんですね。
娯楽作品でありつつ、問題提起もある、すごい作品でした!
2008年03月31日 22:02
ゴールデンスランバー、私はけっこう好きです♪『魔王』に続いてこの手のがなんだか好きみたいですよね、伊坂氏。でもたまには『砂漠』みたいのをまた書いて欲しいです。
2008年03月31日 22:44
空蝉さん、ありがとうございます(^^)。
『ゴールデンスランバー』は、伊坂さんらしい、時間の流れが絡み合って、いろんな伏線がしっかり回収される、緻密な構成でした。
こういう作品を描ける伊坂さんって、本当にスゴイですよね!

『魔王』はまだ未読ですが、心して読みますね!
june
2008年04月04日 14:55
緻密な構成もキャラも楽しくて、伊坂さんの世界を堪能しました。
でも、結構考えさせられる重いものもありましたよね。青柳君を追い詰める「ザッツ監視社会」を作っちゃったのは、私たちの無関心?って思うと、これではいけないって思うんですが、相手があまりに大きいと諦めた方が楽っていうか・・。でも考えろマクガイバー!です。(ぜひ「魔王」を)
2008年04月04日 23:33
juneさん、ありがとうございます(^^)。
伊坂さんらしい、スゴイ構成の物語で、本当にドキドキしながら読みました。
だから、最後に青柳が逃げ切ったのと、たぶん20年後の筆者は青柳だろうと推察できる部分に、胸をなでおろしました。
おお~、やはり『魔王』なんですね!急いで、図書館の予約をしなくては!
june
2008年04月07日 21:37
20年後の筆者は誰なんだろう・・って思ってたんですが、青柳って推察できるんですね。気がつかなかったなぁ・・。そう思うとなんだかほっとしますね!
2008年04月07日 21:55
juneさん、こんばんは~。
青柳しか知りえないエピソードが幾つかあったんですよ(^^)。ショッピングモールでヤンキーな青年たちにかけられた言葉とか。
もしかしたら、まだ逃げ続けてるのかも知れないけど、20年逃げ続けられるというのは、きっと青柳に味方する人がたくさんいるということだと思います。つまり、理不尽な国家的な?罠に対抗する手段はきっとある、ってことですね!ちょっと安心です。
2008年04月12日 22:18
水無月・Rさんはじめまして。
昨年末に『ゴールデン・スランバー』読みました。監視社会などの近未来をスリリングに描いて、本屋大賞に相応しい作品だと思います。
伊坂さんの作品は『チルドレン』が一番好きですが、ほかのも結構読みました。
読書は今の私にとって、ブログと並んで最大の趣味です。
またお邪魔させていただきます。
2008年04月12日 22:34
薫の君さん、はじめまして。
コメントありがとうございます!
伊坂さんの本屋大賞受賞は、一読者として嬉しい限りですね。ぜひこの勢いで、素晴らしい作品を発表し続けて頂きたい、そしてどんどんそれを堪能したいと思う気持ちでいっぱいです。

私の読書ブログなど、よその皆様に比べると情けない限りなんですが、是非またいらしてください!
TB&コメント、大歓迎です。
こちらこそ、よろしくお願いします。
雪芽
2008年05月08日 20:31
こんばんは~
見事な伏線と回収、構成の巧さ、爽快感さえある逃走劇ですが、背景となっているものを考えると怖いですね。自分なら逃げ切れる自信ありません。
最後の伏線回収はどれもこれもじ~んとなりました。
2008年05月08日 21:30
雪芽さん、ありがとうございます(^^)。
最後の章は、泣きました。
20年後が先に来てたので、青柳の無事は判ってたけど、逃げるのに必死なだけじゃなく、それぞれ絆のあった人たちへ、ちょっとした合図を残していくところが、すごく良かったです。

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