『その日のまえに』/重松清 △

タイトルから、わかってたはずだ。なのに、読み始めて、後悔した。
水無月・Rは、難病もの・余命もの(いわゆる病死もの)が苦手である。
「さあさあ、泣いてください。感動的でしょう。涙なくしては読めないでしょう?」的な展開が・・・。
しかも苦手と言いつつ冷静にそれを流せるわけではなく、涙ぐんでしまうところが、非常に屈辱なのだ。
『その日のまえに』は、まさにそんな展開で、しかも予想通り涙を流してしまった。ダメじゃん、私。
たぶんね、物語としては、いい構成だったし、静かながらもとても情感が迫る描き方をされてたから、他の方が読めば、◎評価がついたんじゃないかな・・・。この△評価は単に、私がこのジャンル(?)が苦手だというだけです。

重松清さんは、今まで何作か読んだことがあります。その時は、特に刻みつけられるような印象はなかったので、油断してました。
一つ一つ独立した話かと思えば、最終話ですべてが一つにまとまる。余命宣告され、わずかな残りの命を生き抜くことの、非情さ。家族や知人友人、やりたかったことへの未練。そして、その未練を昇華して全うする命。
その未練が、つまされるわけですよ。つい、自分が余命少ない身になってしまったら、と考えて。

水無月・Rは、今までも大病なく丈夫に過ごしてきた人間だから、あまり自分の死を実感できない。けれど、そういう物語を読むと、ついそこへ自分を流しこんで、呆然としてしまう。自分は、全然準備できてない。準備なんて出来そうにない。自分や、残された人に直面する勇気が、ない。
物語の余命宣告された人々は、苦しみもがきつつも、最後には安らかに死を迎える。その周りの人々もまた。
・・・私には、出来ない、きっと。未練が、多すぎる。

「その日のまえに」「その日」「その日の後に」と、1組の夫婦の物語が最後を締める。イラストレーターの夫。夫を支えてきた妻。その妻が、病におかされる。死ぬ日(大切な人を喪う日)を「その日」と定義し、「その前」に昔住んでいた土地を訪ねる。変わってしまった、その街。でもそれでよかったのだ。そして迎える「その日」。数ヵ月後「その日の後に」、妻からの手紙を受け取る夫。君は、もういない。でも、ここにいる。
「その日のまえに」が、一番涙ぐんだかな。残り少ない命が、残される命を思うその時。残される命が残り少ない命を思うその時。世界は、静かにゆっくりと、お互いの心に沈殿する。そんな印象を受けた。

たまたま、「その日のまえに」~「その日の後に」を、総合病院の待合で読んでしまった。ただの子供の皮膚科受診(全く生命にかかわることもナイもの)だったのだけど。読みながら涙ぐんでしまった自分を、情けなく思った。この待合には、リアルでこの物語のように、死に直面している人もいるかもしれない。その人たちに、申し訳ない。その人たちに共感したわけじゃなく、物語に感動したわけじゃなく、ただ自分に置き換えて、あまりの自分の未練の深さが苦しかったからだ。

ああ・・・やっぱり私は病死ものが苦手だ。感情移入すると苦しい。けれど冷静に物語だからと流せない。
私にとって、物語は物語でしかなく、現実はきっとそんなに綺麗なものじゃない。きっと私は、未練がましく生にしがみ付く、醜い姿をさらすだろう。そう思うと、もっと苦しい。だから、苦手だ。

(2008.04.28 読了)
その日のまえに
楽天ブックス
著者:重松清出版社:文藝春秋サイズ:単行本ページ数:292p発行年月:2005年08月この著者の新着


楽天市場 by ウェブリブログ



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

じゅずじ
2008年05月11日 12:37
これは、泣きました。
オレの場合はリアルだったんで、その頃の思い出がジワジワと。

コメント、TBありがとうございました。
2008年05月11日 22:03
じゅずじさん、ありがとうございます。
じゅずじさんの記事を読んで、なんだか申し訳ない気持ちになりました。
リアルに体験した方には、本当染みてくる物語だったでしょうね。
らぶほん
2008年05月17日 17:37
こんにちは。
重松さんの作品には、泣かされることもたびたびあります。
この手の作品が苦手だという気持ちも、とてもよくわかります。
死を扱った作品はたくさんありますが、重松さんには「あざとさ」が少ないので読めるのかもしれません。
2008年05月18日 22:30
らぶほんさん、ありがとうございます。
そうですね、この作品には「あざとさ」が少ない。だから、苦手だ苦手だと言いつつ、読めたのでしょう。
静かに降り積もる思い出と、今でも喪った命を想う気持ち。真摯な思いを描いていると感じました。
2008年11月08日 15:52
こんにちは。
私は逆に思いっきり感情を爆発?させたい時に、この手の本を読みます。なので泣けなかったらガックリ;;;しちゃいます~^^;
自分の「その日」を宣告されたら・・・と思いながら読んでしまいましたね。私は淡々と「その日」への準備を始めるような気がします。ただ、老いた母にどう告げるかということは、かなり悩むでしょうけど・・・。
2008年11月08日 22:40
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
遺される者、遺して逝く者・・・双方の切ない、でもさりげない覚悟が描かれていましたね。
でも・・・やっぱり病死ものは、苦手です。自分と物語の距離の置き方を見失いやすいので・・・。
latifa
2016年11月27日 12:51
こんにちは!水無月さん
随分古い小説に今更ですがコメントしてしまいました。
私も病死ものとか、凄く苦手なのです。
いやー、、、それにしても、この小説は重かったです。
結構涙出ちゃいました。
自分だったら・・と、やっぱり読みながら考えてしまいます。
2016年11月27日 14:39
latefaさん、ありがとうございます(^^)。
内容はややうろ覚えながら、「私病死もの苦手なんだよなぁ」と痛感した作品だったことを思い出しました。
この作品を読んでから8年ほど経って、環境や色々なことが変わりましたが、「死」に対して何の準備も出来ていないし未練たらたらだしで、相変わらずな自分が情けないですね・・・。

この記事へのトラックバック

  • 【その日のまえに】 重松 清著

    Excerpt: この本を読むのには、勇気がいった。 13年前… 1993年5月5日 こどもの日。 荒川の「トイザらス」へ行く。 帰り、妻は腰が痛いと車の中で大騒ぎ。 …これが終わりへの始まりだった.. Weblog: じゅずじの旦那 racked: 2008-05-10 21:48
  • その日のまえに(重松清)

    Excerpt: 重松作品って情に訴えてきてボロボロと泣いてしまうのが多いので、読めない時はちょっと読めないんですよね。読みながら気力を使い果すことも多いし。でも、時々むっしょーに読みたくなる。ということで、なんとなし.. Weblog: Bookworm racked: 2008-11-08 15:45
  • 小説「その日のまえに」ネタバレ感想 重松 清

    Excerpt: 今まで読んだ重松作品の中で、最も重い気持ちになる内容だったけれど・・・ Weblog: ポコアポコヤ racked: 2016-11-27 12:49