『フラッタ・リンツ・ライフ』/森博嗣 ◎

~~なにも欲しくない。
   誰のためでもない。
   誰も褒めてはくれない。
   ただ、飛び続けたい。
   僕が僕であり続けたい。
   生きているかぎり。~~
   (本文より引用)
永遠の子供、〈キルドレ〉。空で戦闘機を駆っている時だけしか、自分の存在を確実に感じられない。「僕」は、何のために、空を飛ぶのか。何故、僕たちは空を飛びたいのか。

森博嗣さんの「スカイ・クロラ」シリーズ。『スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』『ダウン・ツ・ヘヴン』に続く、第4作目である、『フラッタ・リンツ・ライフ』
今回、視点が草薙水素(クサナギ・スイト)から栗田ジンロウに移り、〈キルドレ〉の別の面も見えてくる。栗田は指揮官となった草薙の部下として、同じ基地にいる。空でしか、自分の存在を確実視できないのは、キルドレの習性なのか。

目の前に突きつけられる、果てしない孤独感。空を舞う時だけが、キルドレたちのリアル。栗田も草薙も土岐野も、空で闘う「ダンス」でしか、生を実感できない。
その「戦争」は政治と結びつき、コントロールされている。戦うのは、一般人と切り離された「戦争請負会社」の者たち。もちろん〈キルドレ〉ではない者もいるが、直接戦いに身を投じるのは、ほぼ〈キルドレ〉達。

草薙と同郷の相良亜緒衣(サガラ・アオイ)は〈大人〉である。戦死した同僚・本庄の家族だという。しかし、本当は〈キルドレ〉研究者。〈キルドレ〉が〈キルドレ〉でなくなる方法に気づき、そのせいで国家的組織に追われている。そして、相良は栗田に告げる。
「草薙は、もう〈キルドレ〉ではない・・・」と。

〈キルドレ〉発生の原因となった薬は、多くの人が「年を取らずに生き続けること」に否定的であったため、封印された。だが、相良の気づいた対処法をもってすれば・・・世の中に大混乱が起こるだろう。相良の意図は「普通の人間になりたい〈キルドレ〉のための治療法」であったにもかかわらず。

草薙の母が死亡し、その葬式に護衛として付いていくことになった栗田は、草薙から「もう〈キルドレ〉ではない」「もう空は飛べない」と告げられる。草薙の戦闘飛行技術に心酔していた栗田には、甚大なショックだった。原因は、草薙の「妊娠」。〈キルドレ〉ではない者との子供ができたことが理由だという。
つまり、「子供」ではなくなったから、〈キルドレ〉でい続けられない、と。

そして、相良に襲撃される草薙をガードしようとして、栗田は怪我を負い、入院をする。一旦一線を退き、戦闘機の開発施設に閉じ込められる日々。やっと大々的作戦に参加できることになるが、その戦場で出会った敵は、かつて伝説のエースといわれ、他社へ移ったティーチャ。ティーチャとの戦いで壊れた飛行機で、地上に落下し、大けがを負って、また病院に・・・。
そして、「僕」は自分がだれかもわからなくなる。

エピローグで、栗田の、記憶が無くなってしまった・・・。
草薙はもはや、〈キルドレ〉ではない。
栗田は2回にわたる手術・入院で、他者の輸血を受けたのでは…?
もしかすると・・・栗田も〈キルドレ〉ではなくなっているのではないか。
最後のページを読み終えたとき、胸が重くなった。
〈キルドレ〉はその適性故に空を飛び戦いたがるのではないと、私は思う。
「永遠に子供である」から、「永遠にいることはできない空」に執着するのではないだろうか。
「ひと」は、絶えず変化しながら生きていく。〈キルドレ〉は変化できない。したいとも思わない。
何故なら、空に在り続けたいから。

それを奪われた草薙は、徐々に消耗している。
そして、栗田も…?

今回の表紙は、鈍い青に染まる雲の上空。雲が立ち塞がることはないが、僅かな不安をそそるような。
〈キルドレ〉達の未来は、雲の上にあるのだろうか。〈キルドレ〉達が、翼をもがれる日が来ないことを、私は願う。
彼らは透明で、不確かで、現実感が欠如している。自己の浮遊感。絶えることのない不安。冷たく、鋭利な刃で切りつけられるような孤独。はるか遠く、儚い存在。
どれもが、美しい。

(2008.04.07 読了)
フラッタ・リンツ・ライフ
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著者:森博嗣出版社:中央公論新社サイズ:単行本ページ数:294p発行年月:2006年06月この著者の


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