『クレィドゥ・ザ・スカイ』/森博嗣 ◎

~~ここにあるのは、
  空気、
  二機の飛行機。
  そして、見つめあう目だ。~~
 (本文より引用)
記憶が欠如というよりかすれている、〈キルドレ〉の「僕」。
僕はいったい誰なのか。そんなことは、どうでもいい。ただ、無性に空を飛びたい。なのに・・・。
<キルドレ>は、永遠の子供・・・だったはずだが。

森博嗣さんの「スカイ・クロラ」シリーズ。『スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』『ダウン・ツ・ヘヴン』『フラッタ・リンツ・ライフ』に続く、第5作目でありシリーズ最終巻となる、『クレィドゥ・ザ・スカイ』

空でしか、現実感を持つことができない〈キルドレ〉の「僕」は病院を脱走し、なじみの娼婦と共に逃避行に出る。自分には曖昧な記憶しかない。日常生活の行動には支障はないが、人の名やその姿が、自分の名前までも出てこない。しかしそれに疑問をたいして持たず、だが戦闘機で空に上がりたいという気持ちはなくならず、とある人物に連絡を取り、会いに行く。
その途中で、何度も幻覚を見る。幻覚に現れるのは、かつての上官「草薙」。草薙に殺されるという幻覚すら見、そしてそれを幸せに感じる。
会いに行ったのは、「キルドレ」研究者の相良。彼女が病院を訪ねてくれ、注射をしてくれたから、曖昧に沈んだ記憶や感覚から抜け出し脱走することができたのだ。記憶は時に薄ぼんやりと、時に深い闇の中へと浮き沈みする。
相良に伴われ、心理学の医者の元を訪問した帰りに尾行され、相良の飛行機でアジトへ逃げる。そのアジトは何に対抗しているのか、翌朝攻撃を受ける。
アジトにあった戦闘機「散香」で4機を撃墜した「僕」は、相良を説得しようとするが相良は言う。「あなたはキルドレに戻った」と。相良の希望により、僕は相良を銃殺する。

そして、僕はまた、戦いのさなかへ、送りこまれるのだ。
「カンナミ・ユーヒチ」として。

えぇぇぇぇ~!?ちょっと待て!
いつから「僕」は函南になったんだ~!だって、相良と面識があるのは栗田のはず。輸血を大量に受けて、もしかして〈キルドレ〉じゃなくなったかも、という状況にあったのは栗田だ。大体、函南は『ダウン・ツ・ヘヴン』の時に、草薙と知り合った少年飛行士だったはずだ・・・。
もしかしたら「函南」とは、〈キルドレ〉の背後にある組織(或いは国家そのもの?)が作った、器(うつわ)の名前では?記憶が曖昧になった〈キルドレ〉を再生し、もう一度戦いの世界へ送り込むための、コードネームなのではないか・・・?
そうなると、〈キルドレ〉の発生原因「遺伝子操作薬の副作用」というのも陰謀じみた、茶番なのだろうか。政治的に時々必要となる「他国(?)との戦争」を演じさせるための異質な存在「死なない子供」を作るための。永遠の子供が戦争をする。一般人とはかかわりのない、ショーのような世界の戦争。そのための。

だから、〈キルドレ〉は空で戦い、ダンスし続けることを望む。それすらも、刷り込まれた希望なのか?
私は、そうであっては欲しくない。例え、「キルドレ」が作られた存在だとしても、彼らの空への憧憬と焦燥は、作られたものではなく、彼らのものであってほしい。

〈キルドレ〉が空でしか、自分を認識できないのは、「ひと」は空に居続けることができないから。
冷たい空気を鋭利に切り裂く、戦闘機。コックピットの中の孤独な〈キルドレ〉が、相手を見つけて戦闘~ダンス~をする。それこそが、彼らの生の実感。
そこにあるのは、透明で儚く、不確かな自己。一瞬にしか存在できないはずの「若さ」を持ち続ける、美しくも異質な、哀しい存在。〈キルドレ〉。

今回の表紙は、鈍く黄金色に染まった雲の海。さざ波のような雲が遠くに見える。上下は暗い雲に覆われているが、雲の海は光り輝いている。暖かい光景のようだけれど、突き放されるような感じを受ける。
しかい、そこが〈キルドレ〉達の居場所なのだとしたら。
〈キルドレ〉達が、翼をもがれる日が来ないことを、私は、切に願う。
例え、それが彼らが作られた存在だとしても。
彼らは、美しい。「ひと」から切り離され、現実感まで削ぎ落とされた存在。
彼らは、そこにいるがよい。
醜い「大人」を切り捨てればよいのだ。
・・・現実には、それはできないのだろうけれど。
彼らの心は、きっとそこにある。


うう~む。どうしてもこの「スカイ・クロラ」シリーズは感傷的になってしまう。
私は、〈キルドレ〉が好きなのだ。
彼らは、美しい。
結局、第1作目を読んだ時の疑問は解明されていない。
でも、それでいいと思っている。
この世界に、きっちりとした答えを求めたくない。
その答えはきっと、〈キルドレ〉を切り裂いてしまうから。
だから。このままでいい。
私はこのシリーズを読めて、よかったと思う。それだけだ。

(2008.04.14 読了)
クレィドゥ・ザ・スカイ
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著者:森博嗣出版社:中央公論新社サイズ:単行本ページ数:313p発行年月:2007年06月この著者の


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