『湿地帯』/宮尾登美子 ○

昭和37年、女流新人賞をとった宮尾登美子さんが高知新聞の依頼により連載小説を書いた。それを2007年に単行本化したのが、この『湿地帯』。舞台は、当時の高知県。
少女時代に3年半だけ、高知県に在住した水無月・Rですが、さすがにこの時代のことは知りません。ですが、知っている町名、市内の地形、建物の所在、男女の気風など、とても懐かしい想いで読みました。

国立の衛生研究所で薬務技官をしていた小杉に、高知県庁の薬事課長の辞令が下りた。高知へ赴任する際のバスの乗り継ぎで出会った、不思議な影のある女に心ひかれる。高知駅に降り立った小杉の前に現れた奇妙な女・明神瑞代。瑞代は翌朝、青酸カリを服用した死体となって発見される。
小杉は県内の薬局業者組合の会合に呼ばれ、薬の県内適正価格決定に助力して欲しいと依頼されるが、県庁からそれを指導するのはおかしいと思っているうちに、不思議な女・邑井晃子に再会し、更に惹かれてゆく。姉の死に不審を抱く瑞代の妹・笛子との調査により、薬局業者組合の幹部が卸業者からリベートを得ていることが浮かび上がる。そして、晃子の夫が青酸カリで死亡する。
その晃子を実家に送り、自分も父の癌を見舞うため宇和島に戻った小杉は、婚約者に結婚できないことを告げ、晃子を迎えに行くが、晃子は青酸カリで自殺を図った後であった。

うう~む。なんかねぇ、晃子が瑞代にかかわったその流れは、とってつけたような感じがありますよ。小杉と晃子の許されぬ愛情を、あの時代の倫理に則って何とか決着つけるとしたら、こんな風にしかならないかなぁ。晃子との恋愛(結ばれぬが故に密やかに燃え上がる恋情)は、ストーリーに絡みはあるけど、なんか重要なのかな~という気がする。
というのも、私はこの物語を「薬事業者と小杉の対決」あるいは「県内の薬事事情に納得がいかない小杉の追及物語」と受け取ってたからなんですが。
小杉と晃子の秘めたる思い、確かに物語としていいのですが、薬事事情とあまりに接点がないから、木に竹を接いだかのような違和感が・・・。

私は、明神瑞代の死亡は、絶対薬局業者の陰謀だと思ってましたよ。それが・・・ねぇ。まさに無駄死にって感じがするのですよ。いや、瑞代が死なないと、物語は展開しないんだけどさ。死んでしまった事情はあまりに浮かばれない・・・。まあ、陰謀だと思い込むからこそ、妹の笛子が調査に乗り出し、それに絡んで色々な事実が出てくるわけだけど、可哀想に姉の死とは全く関係のない事実がほとんどで、小杉の薬価調査のほうに必要な情報ばかり。

なんだか、2つのストーリーを無理やりくっつけたって感じがしなくもない。
宮尾さんは『陽暉楼』や『仁淀川』など、きめ細かな設定や人物描写などが、際立って素晴らしい作家さんなんですが、今回はちょっと足りない感じがしますね・・・。水無月・R的はちきん作家さんなんですけどね~。

ただ、高知という「山岳と太平洋に囲まれ、他との交流が少ない、閉塞的な土地柄」の息苦しさは、ひしひしと伝わってきました。その辺の描写はすごいと思いますね。物語の中でたしか~都市の人口は30万ぐらいがいい、それより少ないと口さがない噂が発生しやすい~的な言葉があったのですが、高知はまさにそんな感じなのでしょう。(今は30万を超えていると思いますが)

(2008.06.29 読了)
湿地帯
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著者:宮尾登美子出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:350p発行年月:2007年08月この著者の新


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