『カルトローレ』/長野まゆみ ◎

ははぁ~。これは、好みが分かれるなぁ~。私は、かなりこういうの好きだけど・・・。
作中にも出てくる複雑なクロシェ編み(鉤針編み)のように張り巡らされた設定。そして回収されることのない伏線。すべては、読者の気持ち次第で。
そんな、不思議な浮遊感のある世界を描いた、長野まゆみ『カルトローレ』
感想やあらすじを語るのは、すごく難しい。

主人公の私・タフィは《船》出身者で、製本組合の奨学金を受けた適応化プログラム対象者である。《船》は、数百年前に地上を離れ、7年前に航行不能となるまで地上とかかわりを持たず、ずっと上空を航行し独自の文化をはぐくんでいた。地上に降りたタフィが《船》の航海日誌の「解読」というより、糊づけされパイ生地の様になったそれを「調査」する場所を求めて訪れた、きび色の沙(すな)の広がる自治区・タッシル。漂白され、果てしなく広く、さらさらと流れゆく時間と事実。そこで出会った、自治区の管理局職員・コリドー、水探しの一族の年少のワタ、政府の?工作員ではないかと思われる記憶を失った男・エルジン。自然発火した航海日誌から芽生えた不思議な植物。曖昧な、《船》での記憶。記憶に登場する白髪の旅人。変装の得意なハイムーン卿。重ねて現れる、工作員らしき人物。
絡み合い、ほどけ、また絡み合う事実と不確かな記憶。

そして、航行不能になった《船》以外に、「船」が存在するのではという、信憑性のある憶測。それを求めるのは、政府なのか、《船》出身者なのか。航海士たる一族のコリドーの6本目の指。エルジンは、《船》の取り換え子なのか。そしてエルジンと取り換えられたのは、タフィなのか。刺青の図案職人は、取り換え子の父なのか。タフィの模様認識能力の高さと、タフィの夢の中に現れる船の図案室。際限なく繰り広げられ、纏めあげられることのない、物語の伏線と図案と。

これは「遠未来系」・・・なのかな。
《船》は現世との関係を拒否し上空を漂う存在であったが、原因が明らかにされていない(もしかしたら、一部の《船》の一族にはわかっているのかも)理由で、航行不能になり、現世界との融合を余儀なくされる。箱舟として役割を喪ったのである。地球を棄て、宇宙空間に活路を求め、だが、結局は、地上に戻った人々の数百年。適応のために、訓練を受け、なじみつつも、違和感を抱え。タフィが出会うその地上の人々も、様々な種族がいて、お互い干渉しあい、また関わりを持たず。

ううむ・・・物語の内容が絡み合い過ぎ、濃すぎて、私ごときでは語れない。
しかも、色々なことが、暗喩され・仄めかされ・秘密にされ・明らかにされ・・・。そして、全てが回収されないままに、読者に委ねられる。
物語のこの後の展開を妄想するもよし、それぞれの人や事象の関係に思いをはせるもよし、事細かなデティールにこだわるもよし。

長野さんの描く幻想世界は、捉え所がない。いろんな意味を内包し、そして外に発信する。受け取り方は千差万別で。どのようにでも受け取れるから、私は自分の好きなように、妄想を走らせる。丁寧に綴られる文章から浮かび上がる、美しい情景。線が細く、揺らぎが多いのに、芯のしっかりしている登場人物たち。
奇妙な透明感をもち、あっさりと乾燥している、人物・光景・設定。いつの間にか沙が零れ落ちるように、読み手の手のひらから遠ざかる物語。けれど、脳裏にはしっかりと刻まれる物語。

うう~む。また感傷的な文章になってしまった。
読み返してみたら、何が何だか、全然分からないぞ・・・。
でもね、ホントにこの物語は、どう語っていいのか分からないのです。会話文が「」で括られてないから、どれが誰のセリフか、深読みしなきゃいけなかったり、個性あふれる登場人物達が淡々とし過ぎていたり、あちこちに示唆される伏線が全く回収されず読者の想像に委ねられてたり、読んでて疲れます。だけど、何度でも読み返してみたい気持ちになる。今回、この作品は購入してもよいのでは、とまで(経済力が全くないので、基本は図書館派な水無月・R)思ったのである。

ちなみに。今作は、長野まゆみさんの作家生活20周年記念作品だそうだ。
そっか~、長野さんを読み始めて、20年ぐらい経つのだな、私も。長野さんの描く世界に魅了され、物語に彷徨い。きっとこれからも、「感想が難しい」だの「いかようにも解釈できる」だの言いながら、長野さんの作品世界を漂うのだろう。

あ、そうそう。ハイムーン卿の家政婦・メルレットがいい味出してます。珍しく、普通の「ヒト」で、妙に存在感がある。編み物が得意で、編目記号が読みとれ、不思議な編み設計図をもっていて、それを一生懸命編むのだけれど・・・。普通の人は《船》や政府に関われない、違う次元なのだと、そんなイメージを持ちました。

それと。
タフィが託された航海日誌は109冊。東洋の煩悩の数は百八。つまり109冊のうち真実の航海日誌は1冊で、残り108はフェイクなのではというコリドーの読み、なんだか空恐ろしいですね。その航海日誌すら、繊維にしか根付かない不思議なつる植物・シイスの苗床となる。すべてはぐるぐる回って、元の場所へ還ってくる。少しずつ形を変えながら・・・。そんなイメージだけが浮かぶのです。・・・輪廻転生?いや、違うな。どう表現したらいいのか分からない。なんだか捉え所のない、不確かな印象。でも私には、それが不愉快どころか、心地よい。

(2008.07.04 読了)
カルトローレ
楽天ブックス
著者:長野まゆみ出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:299p発行年月:2008年04月この著者の新

楽天市場 by ウェブリブログ



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

エビノート
2008年10月08日 21:49
こんばんは。
そう!長野まゆみさんの作品って感想書くのが難しいんです(って、長野さんのものばかりじゃなく、いつも難しい難しいと思ってるんですが 汗)
作品の、文章のあわいに漂う雰囲気がとっても素敵なんですよね。書かれていない部分まで想像が膨らむというか、そのあたりを言葉にして表すのが難しい。だけど、読んでいるときはその雰囲気を味わうだけで心地よいというか。う~ん、うまくいえません
2008年10月08日 22:25
エビノートさん、ありがとうございます(^^)。
そうなんですよね~、難しいですよね~。
長野さんの世界は、美しくて、捉え所がなくて、でもイメージはどんどん膨らんでいって、とても文章にまとめられません。
文章から、風の香りや、陽の光の煌めきが立ち上ってくる感じがしますね。
私は、そんな長野さんの作品が、大好きです。

この記事へのトラックバック

  • カルトローレ 〔長野 まゆみ〕

    Excerpt: カルトローレ長野 まゆみ新潮社 2008-04売り上げランキング : 90489おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ 作家生活20周年の新境地が、白い世界に拓.. Weblog: まったり読書日記 racked: 2008-10-08 21:44