『深泥丘奇談』/綾辻行人 ◎

―――これは、すごいわ。
じわじわと忍び寄り、いつの間にか入れ換わっている異界。激しい眩暈に見舞われた主人公の作家が今いるのは、昔から知っているの「深泥丘」なのか?
綾辻行人さんの本業は、本格ミステリですが、こちら『深泥丘奇談』は怪奇幻想譚といった趣。
その妖しい世界は、水無月・Rの心をガッチリ掴んでしまいました・・・!!

すみません、今年のベスト3に入りそうな勢いの作品なんで、すっごく、感傷的な長文になりそうです。ここから先、水無月・Rの感傷にお付き合いいただける、心の広~い方だけ、読み進めてください・・・。

発売当時の書評から、すごく気になっていたのですが、先日読んだ『ダ・ヴィンチ2008年7月号』(図書館で借りてるのでリアルタイムからかなり遅れている(笑))に装丁とか色々すごく凝ってるという記事が載ってまして。
『眼球綺譚』も読んだことだし、とっとと「深泥丘」の世界に突入しないと!・・・と思ったので、あります。

しかし・・・ホント、イイよこの作品。
基本的に「異界もの」が好きなのですよ、水無月・Rは。彼岸と此岸が接近したり忍び寄って来たりするような、そういう作品が大好きで。だからこの、いつの間にか異界と入れ替わっているのではないか、という曖昧な現実の浮遊感と不安感が、もうすっごく響くのです。しんしんと忍び寄る恐怖。いつの間にか怖くなる、妖しく美しい世界。
ぎゃぁぁ~ッ!怖い怖い怖い~ッ!(←でもすごく好き!)

何かを暗喩するかのような、ズレた事象。幼いころから住んでいるのに、憶えのない慣習や因習。しかも出身地の違う妻は、それを常識のように語る。
何かが、違う。違うのは、自分の記憶なのか。それとも、今いるココが違う世界なのか。

「咲谷由伊」来タ~ッ!『眼球綺譚』の各話に出没し、主人公ではないのに物語の舵を切っていく存在であった、咲谷由伊が看護師として登場ですよ。恐怖の焦点は実は主人公の作家・私ではなく、咲谷看護師にあるのではないか・・・。なんていう勘ぐりをしてしまいます。

「顔」
検査入院した病院の、ベッドの下から聞こえてくる「ちち・・ちちっ・・ちちち。」という不気味な音。私と深泥丘病院の出会い。
「丘の向こう」
病院裏手の丘の先にあるQ電鉄如呂塚線に珍しいものが来る、と見に行った私。列車とも生物とも知れない邪悪なものが駆け抜けてゆく。
「長びく雨」
長雨は良くない。幼いころの写真。巨大な鳥類が現れ、鉄橋の下に吊るされるものは。
「悪霊憑き」
病院の医師に誘われ、憑きもの落としの現場に立ち会う私。悪霊憑きの女性が死亡した理由。
「サムザムシ」
虫歯の治療痕が痛む。深泥丘病院で、妻の実家のある島での歯科治療法を思い出す私。
「開けるな」
妻の土産の発掘セットから出てきた、古びた鍵。病院の地下にそれに合う錠前がある。
「六山の夜」
起源の曖昧な大文字焼き。六山になった今年、浮かび上がった図形。見ナケレバ、見テハイケナイ・・・。
「深泥丘魔術団」
病院のレクレーションのマジックショーで、切り離されていく私。
「声」
夜な夜な、「ぎゅあぁぁ・・・っ!」と奇声を発するのは、サルなのか、フクロウなのか。それとも、あの「巨鳥」なのか。

眼帯の左右、眼鏡をかけているかの違いしかない、同じ顔の3人の石倉医師。
どの診療科にも現れる、咲谷看護師。
壁に浮き奇声を発する人面、胃カメラに映る体内の人面瘡。
不吉な地下通路に、いわく付きの屋上。
――― 深泥丘病院には、不穏な雰囲気が漂っている。
「*****」と称され、発音することのできない、水妖の憑きもの。
妻の実家の猫目島にあった咲谷歯科。
巨鳥は幻視だったのか。
幼いころから、深泥丘を知っていたはずの自分の記憶は、どうなってしまったのか。

毎章、不可思議な体験を重ねる私なのだが、何故か記憶は曖昧で、霞がかってゆく。かなり強烈な事に出会って、気を失って終わってしまう章もあるのだが、「何か怖ろしいことがあった…のだと思う」という印象だけしか残っていないらしい。

文章から浮かび上がるのは、美しい世界というよりは、何かがズレているような、不協和音。妖しい現象。自分が狂っているのか、それとも正常なままに並行した異界へ迷い込んでしまったのか。
連作短編である1章ずつは、そんなに怖くない。なのに重ねられてゆく、不安感がたまらない。ひたひたと、忍び寄る闇。水底の光景ように、揺らいで消えてしまいそうな、現実感。
うわぁ~怖いですよぅ・・・。いつしか主人公は、その自分の存在すら信じられなくなり、自己を見失ってしまうのではないか・・・。今、正気と狂気の危うい均衡にある彼が、この後どうなってしまうかと思うだけで、怖ろしくなってくる。

「あとがき」にこういう話をシリーズ化したいという綾辻さんの意向があったので、今後に期待したいですねえ~。是非々々、読みたいです。

それと、すごく装丁がいいです。図書館で借りたので、カバーが外せないのがすごく残念だ。『ダ・ヴィンチ』の記事、すごく良かったもんなぁ・・・買っちゃおうかなぁ・・・(←水無月・Rは財政的理由によりめったに本や雑誌を買わないのだけど)。
茫洋と描かれる、鹿や栗鼠や蛙などの生物。裏返しのようで、実は全然違う見返し。だんだん曖昧になってゆく「咲谷看護師」の後ろ姿。あちこちに挟まれる、ページの端の意味深なイラスト。カバーを取った表紙が見たい!!買おうかなぁ、どうしようかなぁ。

(2008.11.17 読了)
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幽ブックス 著者:綾辻行人出版社:メディアファクトリーサイズ:単行本ページ数:317p発行年月:20


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この記事へのコメント

エビノート
2009年02月02日 20:51
こんばんは。
うわっ!怪しげに登場する看護婦の咲谷って、『眼球綺譚』にも登場してるんですか~。これはそちらも読んでみなくてはっ!
夢か現か、曖昧なままで翻弄される主人公の姿にこちらもぞわぞわとなっちゃいましたね。この世界をまだまだ味わいたいです~。続編あるといいですね♪
2009年02月02日 21:23
エビノートさん、ありがとうございす(^^)。
ぞわぞわ来る感覚、スゴかったですよね~!
ぜひ続編でまた、このぞわぞわ感を味わってみたいです。
『眼球綺譚』は、・・・ちょっとグロイですよ(笑)。

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