『夕凪の街 桜の国』/こうの史代 ○ (コミックス)

前から、読みたいな、と思っていた作品。漫画は図書館ではリクエスト購入してくれないので、ずっと読みたい本リストの中にあったのだが、広島県を出ることが決まり、記念に購入を決定。昨日UPした三浦しをんさんの『月魚』と同様、コチラも帰省中に読みました。
日本に、広島に、原爆が落とされたのは、過去のことと思いたい私。広島に住んではいても、日ごろ意識することのないその事実を、あらためて読むのは、実を言うと怖かった。

こうの史代さんは私より少し年上の、広島生まれの漫画家さんである。もちろん、直接的な原爆体験があるわけではないが、丹念に調べて描かれたこの『夕凪の街 桜の国』は、恐怖や怒りや恨みを前面に押し出すことなく、静かに沁みていく気がする。

あの日から10年。広島の街では、さまざまなものを背負いながら、人々は生きていた。
~~ぜんたい この街の人は 不自然だ
誰もあの事を言わない
いまだにわけがわからないのだ 
~~ (本文より引用)
なぜ落とされたのか、なぜここだったのか。誰にもわからないまま、口にすることもできず。
そして、自分はなぜ生き残ってしまったのかと、悩みながら。生き抜けなかった人たちに対して、罪悪感を覚えながら。
「夕凪の街」の主人公、皆実もそんな女性の一人であり、そしてやはり原爆の後遺症で、いのちの灯を消してゆく。
先程の引用の後の文章が、悲しい。続けて引用したかったのだが、私にはその勇気がない。

対して「桜の国(一)」では、病弱な弟と忙しい父と祖母共に暮らす、少女・七波の何げないひと時が描かれる。
どういうことかわからないまま、「桜の国(二)」に入り、(一)の主人公・七波が大人になって再登場する。ここで、七波の父・旭が「夕凪の街」の皆実の被爆しなかった弟であることが分かる。その父の後を追って、七波は再会した親友・東子とともに広島を訪れる。その間にふとしたことで、東子が両親に、七波の弟・凪生との交際を禁じられたことを知る。私なぞ存在すら知らなかった、被爆者差別。物語の間に挟まれる、七波の父と母の出会いと母の死。
物語の最後に、父は「広島で何をしてきたか」を語る。
七波に似ている、姉・皆実の50回忌だから、知り合いに話を聞きに行っていたのだという。

あっさりというか、おどろおどろしいものはなく、原爆体験やその後の被爆者差別などが語られる。戦争の悲惨さを前面に押し出し、声高に叫ぶものでなく、いつの間にか読者の中にしみて、降り積もる。それがよいのだと思います。

そして、広島を離れた今(といっても住んでいたのは広島市ではなくM市だけど)、私は思う。あの街も、本当に夕凪の街だった。夕方になると、昼間にどんなに風が強くても、ぴたりと風が止まる。その瞬間を思い出すと、この物語のことを思い出す。
こうのさんが作品を書く前に感じていたように、体験していないものが語るのはおこがましい、今でも私はそう感じてしまうけれど、風の止まるあの瞬間と結び付けて覚えているだけでも、よいのかもしれない。そう思うようになりました。

(2009.08.17 読了)

夕凪の街桜の国
楽天ブックス
双葉文庫 著者:こうの史代出版社:双葉社サイズ:文庫ページ数:98p発行年月:2008年04月この著


楽天市場 by ウェブリブログ




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

苗坊
2009年10月29日 13:08
こんにちは。TBさせていただきました。
映画化されることを知り、気になって読みました。
私の行きつけの^^;図書館には置いていました。
私、今年広島に初めて旅行に行ったんです。
平和公園にも行ってきました。記念館にも入りました。
最初はちゃんと読んでいたんですけど、だんだん辛くなってしまって。
最後は目を背けてしまいました。
忘れてはいけないことだと分かってはいるのですが。
被爆者差別は、私も知りませんでした。
こんな後世になっても、続いていることなんだと思いました。
漫画は、読んでいて目を背けたくなるところはなかったですが、心にはずしんときて、読んだ後もいろいろ考えてしまいました。
映画は結局見に行かなかったのですが^^;でも、観てみたいと思います。
2009年10月29日 22:40
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
広島、長崎、そして原爆。
それについて語ることがなかなか出来ない、難しい問題だと思います。
当事者でなくては、語れない悲惨な現実。今更のような差別。
ウチの子供たちは小学生なんですが、もう少し物事が分かるようになったら、読んでほしいと思っています。

この記事へのトラックバック

  • 夕凪の街 桜の国 こうの史代 双葉社

    Excerpt: 桜も、もう散りかけですね。今年は寒いせいか、 うちの近くのソメイヨシノはまだ花を残しています。 この、こうのさんの作品を息子が読みたい、というので ひっぱり出してきて、また読み返してしまいました.. Weblog: おいしい本箱Diary racked: 2009-09-15 00:04
  • 夕凪の街 桜の国 こうの史代

    Excerpt: 夕凪の街桜の国 オススメ! 昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。 ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。 最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか…、原爆とは何.. Weblog: 苗坊の徒然日記 racked: 2009-10-29 13:02