『絶望ノート』/歌野晶午 ◎

ああ・・・まさにこれは、歌野晶午さんの作品だ。気をつけなくちゃ、と思ってたはずなのにまた、やられた・・・。想像(警戒?)の斜め上を行く、あの展開はすごい。
主人公・大刀川照音(たちかわしょおん)の絶望の日々を綴った『絶望ノート』。あまりに酷いいじめの描写に、心が冷える。彼が神に縋ったとしても、それを非難することは出来まい。だが、彼が願うと、いじめてくる級友は怪我をしたり死んだりする。偶然?故意?そして、それをやっているのは誰なのか・・・。

いやいやいや・・・。歌野さんだから、〈読者の誤認識を利用するトリック〉で、絶対に大どんでん返しがあるにちがいない!と思って読んでたのに。だまされた、というかあんまりにも酷い〈いじめ〉の描写に気をそらされて、つい「誤認識はどこだろう」ということを忘れてしまって。・・・う、これも歌野マジックなのか?!
しかし、今回の歌野マジックは・・・ちょっといや~な感じで炸裂してましたな。これほど、読了して「うわぁ、そっちかい・・・」と、暗澹たる気持ちになった本はない、と思う。でもその「誤認識トリック」が、すごいと思うので、評価は2重丸。

ビートルズかぶれで45歳になっても未だ、ジョン・レノンと同じ服を着てサングラスをかけ、定職に就くこともなくブラブラしている父・豊彦(ジョン・レノンの息子の名前がショーン)。仕事を掛け持ちして忙しい母・瑤子(ジョン・レノンの3度目の妻はオノ・ヨーコ)。照音は学校へ行けば巧妙ないじめにあい、絶望の日々をノートにつづっている。ある日、いじめてくる級友の一人が、怪我をする。それに関わった石を神と思いこみ、自室に祀る。その神「オイネプギプト」にいじめるやつらに制裁を、と願っていると、大怪我をする子、死んでしまう子、と次々に都合よく片付いてゆく。そのうち、願わなかったクラスの女の子の死、担任の死、と事態は進み、そしてとうとう照音は〈いじめの大元の原因となった父の死〉を願う。すると、父まで死亡する。そして・・・。

〈歌野マジック〉の事を途中で忘れてしまうほど、いじめの描写が酷い。名前の「たちかわしょおん」を省略して「立ちション」と呼ばれるのなんて、序の口。傍目にはじゃれ合っているかのようで、一方的に集中的にやられるだけの遊び。現金はカツアゲせず、奢らせる遣り口。グループ犯行と見せかけて実行犯をさせられ、写メを撮られて強迫される。好きな女の子が家に来て舞い上がってるところを盗撮されて、学校裏サイトでさらし者にされる。
私には2人、まだ小学生だが男児がいる。彼らが、こんなことになったら・・・・。いじめの手口は段々、酷いことになって行く。どんどん心が冷えてゆく。もし、私の子供達が・・・。上手く対処することができそうにない。
そういうことが、気になって、いじめの描写は嫌なのに、読み進めて行った。

そして、すっかり〈歌野マジック〉の事を忘れたころ、不自然なほど続く死の下手人をどこに求めるべきなのか、分からなくなる。いじめてくる級友・脅してくる女の子まではともかく、照音が願っていなかった担任の死は、誰の仕業なのか。やり過ぎな犯人の姿が見えてこない。意図も分からない。
そして、段々に明かされてゆく、「絶望ノート」の真実。現実とは違ってくる、その内容。

途中で、あれ?と思う部分はあった。豊彦の1度目の結婚にも、子供がいたこと。来宮先生の生い立ちと、名前の事でからかわれていた過去。来宮先生と豊彦の言い争いのおかしさ。
あまりにも巧妙で、酷いいじめのこと。
だけど、全然気が付かなかった・・・。ホント、〈歌野マジック〉にやられました。

照音の日記のほぼ全部が、創作であったこと。しかも、その創作の理由が「両親の愛情確認」と「自分を秘かに見下している友達との別れの計画」であったということが、ショッキングだった。
しかも、照音に対して負い目を感じている人々が、照音の画策通りに動いていく。
「口で言うより、文字にした方が信憑性がある」と、創作で人を動かすことを覚えた照音、そして次々と人を動かしてゆき、そのことに達成感すら感じている照音の恐ろしさ。それだけ、能力があるのだから、それを他のことに活かせばいいのに。
そして、その照音にすら、突きつけられるナイフ。

物語の苦々しい展開、そしてまんまと騙された自分、読後感はかなりひどい。だが・・・この作品のすごさは、本物だと思う。
そして、文章というものの恐ろしさを、ひしひしと感じさせる。

(2010.01.15 読了)

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この記事へのコメント

2010年01月16日 23:43
あけましておめでとうございます(遅っ!!)
確かにひどい読後感でしたねえ(汗)
言葉って、ほんとに怖いですね。言葉には魔力があると昔の人は言いましたが、ほんとにその通りだと思います。それを逆手にとった、歌野さんの勝ちでした。途中でからくりに気が付いてしまった私は、ちょっと残念でしたが(ノ><)ノ
遅ればせながら、今年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
2010年01月16日 23:49
ERIさん、ありがとうございます。
まさか照音の「絶望ノート」が、創作だなんて・・・!
私は、全然気がつきませんでした~(T_T)。
こちらこそ、今年も是非によろしくお願いします。

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    Excerpt: ほんとは、昨日アップしたかったんですが、 夜中、ずっとログインできない状態が続いて いたんですよね。がっくり_| ̄|○ Weblog: おいしい本箱Diary racked: 2010-01-16 23:45