『モルフェウスの領域』/海堂尊 ○

あの【バチスタ・スキャンダル】から約6年・・・。
桜宮市の「未来医療探究センター」では、コールド・スリープ技術により、一人の少年が人工凍眠していた。
彼をケアする日比野涼子は、世界的なゲーム理論学者・曾根崎伸一郎の提唱した「凍眠八則(モルフェウス・プリンシプル)」に、欠落点があることに気づく。
そこから、彼女の孤独な戦いが始まる。

海堂尊さんの「バチスタ」シリーズ(〈桜宮サーガ〉と言った方がいいのかしらん?)に、また一つの物語が加わりました。
人工凍眠者である佐々木アツシは9歳になった時 『ナイチンゲールの沈黙』での網膜芽腫が再発し、眼球摘出を避けるため、自らの意思で5年間のコールドスリープについた。
人工凍眠を眠りの神になぞらえて、涼子は彼をモルフェウスと呼ぶ。『モルフェウスの領域』に眠る彼、目覚めた後の彼を守るために様々な準備をし、「凍眠八則」の提唱者である曾根崎教授とのメールのやり取りの末、彼から重大なアドバイスを受ける。「スリーパーをひとりぼっちにしてはならない」
その真意を読みとり、彼女のとった行動とは。

最初は、淡々と涼子の事が描かれて行き、中学生ぐらいの頃ノルガ共和国で出会った医務官が多分、 『ブラック・ペアン』のあの人だな、っていうあたりでちょっと興奮しつつも、割と冷静に読めていたのですが・・・(登場人物も極端に少なかったし)。やっぱりアツシが目覚める前後から、事態が急展開していくので、気持も盛り上がっていってしまって、大変でした(^_^;)。
東城大学医学部付属病院では、相変わらず田口センセが愚痴外来をやってるし、高階院長は得意の「丸投げ」で病院中に畏怖されているし、外科のダジャレの佐藤ちゃんは華麗にアツシを目覚めさせ、小児科病棟では如月翔子が看護師長としてオレンジ新棟を統率、廊下トンビの兵藤はやっぱりあちこちで情報を垂れ流している。
そんな中へ、体は14歳になったけれど、精神的にはまだ9歳、但し頭脳は凍眠中の睡眠学習により大学生以上といった、アンバランスな状態の佐々木アツシが入って行くのだから、物語が大揺れするのも当たり前。
しかもアツシの両親は、アツシが凍眠中に、治療費支払い拒否しアツシの親権を放棄、音信不通になっている。
アツシを例外として今後の人工凍眠をつぶそうとする厚生労働省、それに対抗する手段として涼子が取った行動。彼女の代理人として、人工凍眠を管理する『モルフェウス・システム』開発者・西野は自分が管理しているスリーパーの管理維持をアツシに依頼する。

さて、5年後、新しいスリーパーが目覚める時、どうなるんでしょう。人工冬眠は特殊な療法ながら、例外ではなく継続されるのか。その時、アツシはどうするのか。西野は。そしてもちろん、涼子は。
この先の物語も読んでみたいものです。きっと、やっぱり東城大学医学部付属病院が関わって来るでしょうから、また田口センセたちに会えるでしょう。だけど、ここに白鳥が絡んできちゃったりしたら、もう収拾つかなくなっちゃいそうですね(笑)。

しかし、よく考えると、アツシがコールドスリープに入ったのが2010年。今年は2011年ですから、リアルタイムなんですねぇ。・・・さすがに我々の暮らす世界では、人工的な凍眠はまだ実現していないと思うんですが、海堂さんの世界では実用段階に至ってる、と。この違いがどういった分岐点になるのか、まだ見えてきませんが、出来れば現実世界に軸足を置いて欲しいなぁ。まあ、海堂さんがSFに走るとも思えませんが(笑)。

この物語に一つ不満があるとしたら、アツシが目覚めた後、世間がどのようにこの一件を取り沙汰したのか、そしてアツシを守るための戦い(涼子だけではなく東城大医学部病院メンバーたちのも)がどうなったのか、アツシはどう対処したのか、そういったことがあまり描かれてないことですね~。
5年後のスリーパーとの絡みも含めて、その辺の物語も読みたいですね。

(2011.05.14 読了)

モルフェウスの領域
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海堂尊 角川書店 角川グル-プパブリッ発行年月:2010年12月 ページ数:261p サイズ:単行本


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この記事へのコメント

じゅずじ
2011年05月19日 11:07
こんにちは!
医学の進歩はいろんな波紋を呼ぶことも事実ですね。
はたしてその技術が本当に「ヒト」のためになるのか?
ちょっと疑問もでてくる気がしてます。
これだけ進化すると、厚労省が後手後手に回るのもしかたないかも(^^ゞ
2011年05月19日 12:48
アツシが目覚めてからの記述が少なかったのは残念でしたよね。私もその辺りをもう少し深く読みたかったなぁと思いました。
涼子が目覚める5年後、涼子とアツシがどうなるのかすっごく興味がありますよね~!是非、早目に(笑)書いていただきたいですね。
2011年05月19日 22:26
じゅずじさん、ありがとうございます(^^)。
医学の進歩と人の関わりは、難しい問題ですよねぇ。
もし人工凍眠が実用化したら・・・〈モルフェウス・プリンシプル〉のような原則は必要だけど、個々の事情は考慮されないのか?って思ったりもしました。
後手後手になるのは仕方ないのかもしれないけど、でも国民のために動いてほしいですよね(^_^;)。官僚亡国だけは、勘弁して欲しいものです。
2011年05月19日 22:30
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
海堂さんのことだから、書いて下さるんでしょうけど・・・。ただ、いろいろ書くべき出来事がたくさんあるので、なかなか順番が回ってこないかも(笑)。
気になるネタはたくさんありますもんねぇ(^_^;)。
タッキ
2011年06月08日 01:40
モルフェウス読みました!面白かったです。

あの医務官はきっと渡海先生です。よね?
「俺がどうして日本を離れ、大海原を渡り、こんな辺鄙な大地にやってきたのか。その理由は、俺の名だけが知っている。」
あの下りは全部、ヒントになっているんですね。

あ、あと出て来る黒人の少年はあの子ですよね??
2011年06月08日 14:31
タッキさん、ありがとうございます。
ええ、多分あの人でしょうね。
これからきっと、あの人のあの後を海堂さんが書いてくれるだろう、と期待しています。
黒人の少年は、私は全然気がつかなかったんですが、そうおっしゃる方が多いですね。
彼にも物語がありそうなので、是非海堂さんに頑張って頂きたいものです。
読者として、これからずっと楽しみが続きそうですね♪

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