『金色の獣、彼方へ向かう』/恒川光太郎 ○

鼬(イタチ)に似た金色の獣に関する、4つの物語。恒川光太郎さんは、様々な時代にひそやかに現れ、姿を消してゆくその獣と、それに関わった〈人間〉を描く。それらは、聖なるものか、邪なるものか、正邪を超えてただ〈在る〉妖かしなのか。
『金色の獣、彼方へ向かう』、向かった彼方で、その獣は何を見たのだろうか。

「異神千夜」
人里離れた山の中で暮らす遼慶のもとを訪れた男。男は元寇のとき、モンゴルに協力していたという。その時の仲間に、不思議な獣を扱い、人心を乗っ取るような女がいたという。歳月を経て、やっとその女を弓で射殺したというのだが…。
「風天孔参り」
樹海の中に、風天孔という、不思議な竜巻のようなものが現れるらしい。〈あちら側〉へ旅立ちたいと、それに行きあうために彷徨している集団がある。その案内人が風天孔に入って行った後、残された「私」は・・・。
「森の神、夢に還る」
美しい絵をかく女。その女の中に、故郷の森からついてきた『別の存在』がいる。
「金色の獣、彼方へ向かう」
幼い日に、不思議な金色の獣・ルークを飼っていた、大輝。近所の野原には「猫の墓堀人」と呼ばれる男がいて、何でも埋めてくれるという。ルークを手に入れた時一緒にいた少女・千絵は墓堀人に「死体を埋めてくれ」と頼む。そして、ルークとともに逃走する。ルークと同調することが出来た大輝は時折、千絵に連れ出された後のルークの見る風景を受け取ることがある。

どれも、幻想的で、物寂しい感じのする物語でした。
「異神千夜」で大陸から渡ってきた奇妙な生き物は、山の中に潜み、時に人の思いと共に在り、時に静寂を好んで山のものと過ごし、不思議な現象のそばに存在する。

恒川さんの描く、和製ホラー。美しく、淋しく、郷愁の漂う、孤独な物語。鼬に似た金色の獣は、出会った人の心を齧り取り、いつまでも忘れさせない。そんな風に感じました。

「風天孔参り」が一番、恒川さんらしいかな。案内人と樹海を彷徨うと、ある日突然不思議な渦巻く風と出会い、そこに入ったものは、二度と戻ってこない。それは死なのか、異界への旅立ちなのか。日常に、突然現れる彼岸と此岸の隙間。
多分、私は風天孔には入らない人だな~と思う。案内人といても、出会えない人なんだろうと思う。

「異神千夜」が一番好きかな。あのラストシーンは、怖いですね。不思議な獣・リリウを連れていた女・鈴華は殺されたけれど、遼慶の見た少女は・・・?ってね。ここから連綿と続く、鼬に似た不思議な獣の物語。人に理解されることなく、飼い慣らされることなく、人を惑わせる、金色の獣。
もしかしたら、今でもどこかの山の中にひっそりと、それはいるのかもしれない。

「金色の獣、彼方へ向かう」の、年を経てもなお大輝に夢という映像を送り続ける、金色のルークの存在が、美しいなと思う。ルークに齧り取られた心を埋めるかのように、送られ続ける、ルークの見ている風景。だが、きっと大輝の心は埋まることはないのだろうと感じる。

表紙の、金色の毛並みの中で力強く光る緑色の目が、とても印象的。
物語の中の獣は、こんなに毛むくじゃらなのかしら。

(2012.06.19 読了)

金色の獣、彼方に向かう
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恒川光太郎 双葉社発行年月:2011年11月 予約締切日:2011年11月15日 ページ数:269p


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この記事へのコメント

2012年06月22日 12:47
恒川作品らしい和製ホラーでしたね。
ラストでぞぞぞーっとなった「異神千夜」も好きでしたが、「風天孔参り」が一番好きでした。私も水無月・Rさん同様、出会いえない人なんだろうと思うんですが、だからこそなのか、出会ってみたいという思いも湧いてきて、とても惹かれました。
2012年06月22日 22:20
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
「異神千夜」のラストは、ホントに怖いですよね~。あの獣憑きは、この後、連綿と続いてしまうんでしょうねぇ…。
恒川さんの物寂しくも怖ろしい、美しい物語たち、堪能しました~!

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