『望郷』/湊かなえ ○

故郷は遠きにありて思うもの・・・・。
室生犀星の「小景異情」の一節です。
この物語は、詩の正しい解釈とは違うと思うんですが、故郷というものは本当に複雑な心境を呼び起こしますよね。
遠くにあって懐かしむこと、戻ってきて現実と向き合わされること、ずっと故郷にいて戻ってきた人を迎えること、子供の頃の自分と今の自分。故郷の人と、離れた自分。
瀬戸内海に浮かぶ白綱島を故郷として湊かなえさんが描く、『望郷』の想いとは。

白綱島を故郷とする6人の、それぞれの思いが濃密でしっとりと絡みつくようで、息苦しかったです。
自然は美しいけれど世界が狭くて、閉塞的で・・・。
その中で生活する人々の、善意も悪意も丸ごと煮詰まっていくような感じがしました。
故郷に帰ってくる人々が、多少の新鮮味をもたらしたとしても、すぐに煮詰まってしまう。
でも、島の人々は、その中でずっと生活しているのだ。これは異常事態などではなく、当たり前のことと受け入れて。
リアルで、リアルで…それが一番、息苦しかった気がします。

「みかんの花」が、秀逸。
二十五年前、都会から来た男と駆け落ちした姉が、市町村合併による白綱市閉幕式に出席するため、帰ってきた。
ずっと島に残っていた妹は、作家になって成功した姉に対して、複雑な思いを抱いている。妹の心に澱みはじめた、姉が出奔した本当の理由。
姉はその通りだと言い放ち、島を去って行った。
認知症の母が、物語の最後につぶやく。
「お姉ちゃんは私の罪を背負って出て行った」と。
怖ろしい疑惑、覆される真相、そして、姉妹それぞれの役割。
でも、嫌な後味は一切なかったです。秘密を背負って生きていく家族が、とても力強く感じられました。

他にも、「海の星」の予想外の展開も、そんな事ってあるのかしらと驚きました。
「夢の国」の主人公が何度もそのチャンスを逃し、それでもやっとドリームランドに家族で来ることが出来たその経緯と、ドリームランドでの違和感と感慨、そして過去の回顧と最後の涙。

どの物語も、狭い世界での濃密過ぎる人間関係に苦しむ人々、それでも何とかして生きていく人々が描かれていました。
大変だけど辛いけれど、それでも生きていく。人の弱さや強さ、卑劣さや優しさ、全てが切ないけど愛おしい、そう感じました。

(2014.03.17 読了)

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湊かなえ 文藝春秋発行年月:2013年01月 予約締切日:2013年01月28日 ページ数:260p


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この記事へのコメント

2014年03月20日 12:52
閉鎖的な島での暮らしが息苦しく、まさに”思いが絡みつく”ような短編集でしたね。
「みかんの花」「海の星」が印象的でした。
みかん~は、最後のまさか!?の展開に驚かされました。海の星は「そんなこともあるのか!」と、また別な意味で驚かされて印象に残っています。
2014年03月20日 22:41
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
かつて瀬戸内海沿岸に住んでいましたので、その頃のことを思い出しながら読んでいました。
田舎感は、この島ほどではなかったですが、それでも似通うものがあるような気がします。
人間関係の濃密さが、読んでいて本当に息苦しかったです。

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