『夜行』/森見登美彦 ◎

・・・いやいや、まさかモリミー作品で「しみじみとした切なさ」を感じる日が来るとは思わなんだわ~(^^;)。
まあ、どっちかというと〈ぞわっとする不穏な怖ろしさ〉の方が読み終わってだんだん強くなってくるんだけど。
森見登美彦さんの作家活動十周年の掉尾を飾る作品、『夜行』
「夜行列車」の「夜行」か、「百鬼夜行」の「夜行」か・・・。
ひと時だけの再会が切なくもあり、無限に広がっていく分岐を想起させて怖ろしくもあり。
本当に、夜は明けたのだろうか・・・?

10年前、鞍馬の火祭で姿を消した長谷川さん。彼女を忘れることのなかった英会話教室仲間は、私=大橋の呼びかけにより再び鞍馬に来て、「夜行」という連作銅版画にかかわる奇妙な旅について一人ずつ語り始める。火祭りに行くと、またメンバーはバラバラにはぐれてしまい・・・。
反転する世界、更に反転した世界は、本当に元の通り?
たったひと時の再会は、どちらも「今までの自分」があったようだけど、それは、本当?
それぞれが語った「夜行」の旅は、きちんと終わっている?
分岐する世界は、別々に無数に存在するのかもしれません。切なさと、不穏さが両立する読後感。
私の「今まで」だって、どれだけ分岐してきたか…と思うと、ぞっとしました。

「第一夜 尾道」
「変身」してしまった妻を追って、尾道を訪れた中井。宿泊したホテルのロビーにあった銅版画。妻のような違うような女を取り戻すために犯したこと。
「第二夜 奥飛騨」
友人とその彼女と彼女の妹の4人で、奥飛騨へ出かけた武田。駅舎の待合室にかかっていた銅版画。変化してしまったのは誰と誰?
「第三夜 津軽」
夫とその友人と、夜行列車で津軽へ行った藤村。勤務先の画廊で展示されていた銅版画。津軽のとある家で、姿を消した友人。
「第四夜 天竜峡」
伯母夫婦の家を訪ねた後、天竜峡を通過した田辺。列車の中で再会した知り合いが隠し持っていた銅版画。「世界はつねに夜なのよ」
「最終夜 鞍馬」
火祭りの終わった後にたどり着いた鞍馬で、大橋は仲間とはぐれる。柳画廊のショーウィンドウに展示されていた銅版画。

「夜行 ○○」と題される、それぞれの銅版画に描き込まれている、白い女。それぞれの夜行にまつわる旅に出てくる「女」。それは「長谷川さん」だったのではないか。
最終夜で反転した「曙光」の世界。その連作「曙光」にも白い女は描かれる。こちらは銅版画家・岸田道生の妻となって、一緒に作品作成の旅に出ていた長谷川さんだったことだろう。
どちらの長谷川さんが本当なのか?いや、どちらの長谷川さんも、「夜行」「曙光」それぞれの世界の長谷川さんなのではないか。

「曙光」の世界へ反転してハッピーエンド、と見せかけて、更にもう一度「夜行」の世界に戻る。そんな最終章の怖ろしさと、「本当に戻ったのか?さらにまた別の分岐世界なのでは?」というそこはかとない不安と焦燥。
この落ち着きのない不安定感、『きつねのはなし』『宵山万華鏡』に、似ている気がします。
そう思って、レビューを読み返したら〈宵山の一日を繰り返し続ける〉画廊主の柳さんという名前がありました。・・・え?ということはやっぱり、モリミー作品間の「異世界京都」はリンクしてる?
というより、この「異世界」だと思ってる京都は、私の知ってる京都の一つの分岐世界なのでは?
モリミーだけが知っている、分岐の先の世界を、私たちは読んでいるのではないか?

そんな風に感じて、ぞわぞわとしたまま、読み終わってしまいました。
どの世界も、実はきちんと終わってない・・・つまり、続いていく世界。
も、モリミー、あなた、ホントはすごく怖い人なの・・・?!

ちなみに。
表紙の絵は、どうせなら「夜行」シリーズの銅版画がよかったかなぁ・・・。それだと、物語の不穏さをあまりに端的に示しすぎてしまうかしら。この表紙はちょっと、さわやかすぎる気がするので・・・。

(2017.020.01 読了)

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この記事へのコメント

苗坊
2017年02月04日 02:18
こんばんは^^
結局どういうことなの!?どうなったの!?っていうラストでしたよねぇ。
最初そういうつもりで読んでいたわけではなかったのに、読んでいるこちら側もパラレルワールドに引き釣り込まれていったような感覚でした。
ぞっとしましたよね。
自分もいつの間にか分岐点にいて、似ているけど違う世界へ行ってしまったら。そう思うと怖かったです。
2017年02月04日 13:30
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
各人の「夜行の旅」の話が中途半端なまま、次の章に入ってしまうので、非常に落ち着かない気持ちになりましたよねぇ…すごく気になる~!
自分の世界が反転し、更に反転して、元の戻った気でいたら、違う世界だった…とかなりそうで、怖かったです(^^;)。

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