『蜜蜂と遠雷』/恩田陸 ◎

先が知りたくてどんどん読みたい気持ちと、本の残りの厚みが減っていくことが惜しくてたまらない気持ちがせめぎ合う読書となりました。
恩田陸さん、本当に素晴らしかったです。
とあるピアノコンクールに出場した才能あふれる若者たちが、次々と彩り豊かな演奏を繰り広げ、彼らの真価をいかんなく輝かせる物語、『蜜蜂と遠雷』
音楽が〈聞こえる〉ではなく〈見える〉描写に、どんどん惹き込まれて行きました。

正直、どんな感想を書いても、陳腐なものになってしまいそうです。
亜夜のコンクールが進むにつれ鮮やかに開花していく様子、マサルの華やかで芯のしっかりと通った演奏、塵の奇想天外でいて自然を感じさせる演奏、3人の才能がぶつかり合い影響し合いお互いに昇華していく様子を見守る奏、社会人ピアニストとして様々な困難を乗り越えてコンクールに参加する明石、コンクールの審査員達・・・・。
もう本当に、500ページを超える分厚さと2段組みという圧倒的な文章量にも拘らず、無駄が全くないたくさんのエピソードが次々と描かれて行き、あっという間に読み終わってしまいました。

実は小学生の頃、エレクトーンを習っていたけれど結局音楽の才能は発芽せず、なんとなくのうちにやめてしまった経験があります。音楽の知識はろくになく、コンサートを聞きに行くほどではありませんが、いろんなジャンルの音楽を聞くのは好きです。
そんな私でも、コンテスタント(コンテスト出場者のこと)たちそれぞれの演奏から〈見えてくる情景〉の素晴らしさ、音楽を愛し音楽に愛されている彼らのスケールの大きさは、はっきりと読み取れ、一緒になって一喜一憂し、音楽に心を奪われてしまいました。

コンテスタントたちの演奏、それぞれの背負うものや心情、どれもがドラマティックだったし、コンクール運営のシステム的なことも全く知らなくて興味深かったし、審査員の苦労や感慨も複雑で、本当に読んでいて面白かったです。

メインのコンテスタント4人の中で、一番好きなのは明石かな。
社会人として家庭を持っている者として、働きながら家族や職場の支援を受けつつ、コンクール一筋の学生やセミプロたちと戦っていくのに、どれだけの苦労があったことか・・・。それでも、彼の演奏の描写は伸び伸びと暖かく深みのあるもので、若さで音楽を制しようとする若者たちとは一線を画した、奥行きがありました。
彼は本選までは残れず、途中から観客として演奏を聞きながらいろいろな述懐をするのだけれど、その中で「自分はやはり音楽家なのだ」「これからも音楽家として生きていこう」と心の中かからあふれてくる彼の気持ちを、応援したくなりました。

亜夜とマサルの関係はこれからどうなるのか、塵と亜夜が「音楽を外に連れ出す」「音楽に恩返しをする」ためにどんな音楽を奏でていくのか、マサルが「新しいクラシック音楽」を発表していくその歴史、奏のヴィオラ転向の行方、音楽に付随する彼らの日常の様々な出来事、これからが楽しみな彼らの人生を、もっと読んでみたい気持ちになりましたね。
いつか、彼らの演奏を実際に聞ける日が来たらいいのに…と思ってしまいます。
それが無理なのは致し方ありませんから、彼らがまた同じ舞台に立って共演するコンサートの物語を読んでみたいな…と思いました。

コンテスタント以外で気に入ったのは、審査員の三枝子。コンクールのオーディションから塵の演奏を聞き、衝撃を受け、最初は怒り狂っていた彼女が、コンクール本番に入ってだんだんに塵の演奏に魅了されていくという描かれ方がよかったです。
「審査員」なんていう「大人」というか「コンテスタントたちよりも上」という立場にあり、実際にピアニストとしてのキャリアも相当にあり、もちろん審査員に選ばれるのだから「才能あるものを選び取る能力」があるすごい人なのに、割と感情的に演奏を聞いたり、審査員同士のやり取りも闊達で生き生きしていて、とても魅力的な女性でした。
こういう芯のある大人の女性って、素敵だなぁ。

冒頭の塵を『ギフト』とするか『災厄』とするかは審査員たち次第だという、塵の師匠・ホフマンの推薦状のインパクトは、それを目にした審査員たちを打ちのめしただろうし、読んでいる私も「どういうことなのか…」と、気になって仕方なかったのですが、読んでいてすぐにわかりました。
塵の演奏は、純粋で印象深く、あまりにも人の心に響く。あまたのコンテスタントたちも彼から影響を受けたし、観客も一気に彼の演奏世界へ引き込まれる。
その中でも、亜夜に与えた影響、亜夜から引き出した才能と覚悟、それこそがこの物語を素晴らしいものにしていたと思いますね。
でも、塵や亜夜だけが素晴らしかったわけではなく、コンテスタントたちそれぞれ、彼らを支え見守る者たち、審査員、観客たちですら、この物語に欠くことのできない、大切な登場人物でした。
それを、余すことなく、そして不要な描写などなく描いてくれた恩田さん、本当に素晴らしい。
この物語を読めて良かったと、心から思いました。

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☆おすすめです!☆

(2018.0214 読了)

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この記事へのコメント

苗坊
2018年02月18日 20:13
こんばんは。
この作品、良かったですよねぇ…。
本当に何か言ってしまってもその言葉が陳腐に聞こえてしまうような気がして、多くは語るまい…と思ってしまう作品です^m^
私もキャラクターとしては明石が好きでした。
明石は他の3人とは違って天才ではなく努力の人。その明石の努力が報われた時、涙しました^^
私も、この物語を読むことが出来て心から良かったと思いました。
2018年02月19日 11:22
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
本当に、よい作品でした。
直木賞と本屋大賞のダブル受賞も頷けますね。
本の分厚さやクラシックがテーマということで敬遠してる人がいたら、ホントにもったいない、グイグイとお勧めしたいです(笑)。

まだ若き才能が頭角を現し、ここからあでやかに花開いていくそのスタートの物語にふさわしい、清々しく壮大で気持ちの良い物語でした!
latifa
2018年02月20日 11:05
水無月・Rさん、こんにちは!
凄く分厚い本なのに、あっという間に読める本でしたよね。
私も他の天才とは違って、普通に生活を送りながら、がんばっている明石さんには、特別肩入れしたくなりました。

いつか映像化されるのかな・・。
どんなキャスティングになるのかな・・・。
2018年02月20日 22:49
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
本当に、濃密な期間をすごい勢いで過ごしましたね~!
努力家の明石が報われる受賞があって、本当に涙が出そうになりました。
映像化…やっぱりされますかねぇ。
キャスティングもさることながら、やっぱり演奏シーンがどうなるかが気になりますね。
yori
2018年02月21日 19:47
御無沙汰しております。
コメントいただき、ありがとうございます。
いや、この小説は凄いと思いました。文章から一瞬、音楽が聴こえたかと思うと、それがすぐに文章へ舞い戻っている。言葉が音符を操るがごとくでした。
僕の拙いブログのリンクを張っていただけるとのこと。ありがたくも了解させていただきます。
ぜひ 笑 よろしくです!!
2018年02月21日 21:56
yoriさん、ありがとうございます(^^)。
音楽から見える情景も、文章から聞こえる音楽も、本当に素晴らしかったです。
伸びやかなコンテスタントたちの「音楽への真っ直ぐな思い」が美しく、清々しく、とても気持ちの良い読書となりました♪
ご許可頂き、ありがとうございます!(^^)!

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  • 蜜蜂と遠雷(恩田陸)

    Excerpt: 国際ピアノコンクールを舞台に、才能溢れるコンテスタント(演奏者)達の姿を描いた物語。 Weblog: Bookworm racked: 2018-05-17 05:36