『無垢の領域』/桜木紫乃 〇

釧路図書館館長の林原、書道家の秋津、秋津の妻で高校養護教諭の伶子、そして林原の妹で飾ることを知らず子供のような精神の持ち主・純香。
純香の無垢な言動に揺れ、苛立ち、惑い、道を選び取る3人を描く『無垢の領域』
やっぱり、桜木紫乃さんの作品は、ずっしりと重いです。
まるで、彼らが暮らす道東の湿った空気と曇りがちな空のような、そんな重さを実感しながら、物語に絡め取られるような心地でした。

書道家の秋津の、図書館で開催した個展初日に、純香はやってきた。純香の書いた芳名帳の文字を見、そして彼女の書への感想を聞いた秋津は、自分の書道教室に純香を招待したいと林原に言う。
林原は純香と暮らすうちに彼女を扱いかね、養護教諭である伶子に相談をする。以前、秋津が書道教室に来て欲しいと言ったこともあり、週に数日書道教室の助手として秋津家に通うことになった、純香。
純香の相談や日々の憂いや、様々に降り積もる感情から、お互いを探り合うように近づいていく伶子と林原。
左半身麻痺を患い、認知症も進行しつつある、秋津の母。大雨の日、純香が拾ってきた白猫・パンダ。伶子の学校の優秀な生徒・沙奈の、家庭事情と本人の意思。
林原の恋人で未だ不確かな関係が続いている、里奈。書道教室の子供たち。
純香の無垢さ故に炙り出されてゆく、様々な人々のやるせなく鬱屈した思いが渦を巻き、静かに静かに、煮詰められていく。

静かに語られる、出来事。完全に解決されることなく、続いていく日常。
それぞれが、互いを疑いながら、濃い霧の中を手探りで歩くように、おどおどと惑い進んでいき、とある事件が起こる。
秋津は、書の公募展に作品を出し、大賞を受賞する。その受賞作を新聞で見た林原は、授賞式に出席し、秋津にとあるものを渡し、何が入っているかを話す。凍り付く秋津。退場する林原。

なにより、秋津の母の妄執が、怖ろしい。
母の半身麻痺と認知症は詐病なのか、と秋津が疑うシーンがあります。私は、どちらかというと、妄執故に、一瞬一瞬だけの回復だったのではないか、と思いました。その気迫を、秋津の母から感じました。
詐病だとしても、詐病ではなくその一瞬一瞬だけの回復だとしても、息子である秋津のために、そこまでできるものだろうかと、怖ろしくなります。まさに、尋常ではない、と。
~~母親の手はいつも息子を思う方へと導き、破滅させる。母の愛情に名を借りた傲慢な思いは栄養であって毒。毒であってやはり愛情なのだろう。~~(本文より引用)
母親の愛情。その苛烈なまでの妄執に、目が眩みそうになりました。
ここまでではなくとも、もしかしたら自分も息子たちにそんな愛情のつもりの毒を注いでいないだろうか・・・と、背中が冷たくなりました。

書道家の秋津に備わった、選び取る力。純香の持つ異形の才、贋作。どちらが欠けても、この結末にはならなかったことでしょう。
それだけではなく、この物語の人々を取り巻く様々な境遇や思いが混ざり合い、後戻りできない所まで来てしまったからこそ、こんな終章を迎えることになってしまった。
純香を好もしく思い、受け入れていた人々だったけれど、反面、純香の無垢さを疎ましく思うこともあった、そんなありがちな背反する思いが、重苦しい作品でした。

しかし、一つ疑問が。
ざっくりとハサミで切り落とした髪の毛って、筆として使えるものなんでしょうかね?
もちろんそれをすることで、その書に対する思いの激しさがよく伝わったのですが。

秋津の母にそそのかされて書いたその書。
秋津の母が妄執故に仕上げた落款。
秋津がもう後戻りはできない、と選んだ作品。
無垢と妄執、相反するものようでいて、実は同じ一つのものになる。
それは、とても怖ろしい物語でした。

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(2018.03.22 読了)

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この記事へのコメント

latifa
2018年03月31日 14:34
水無月・Rさん、こんにちは!
こちらは桜が満開です、そちらは、いかがでしょうか^-^

私もこれ、読んだことがあります。
桜木さんの小説は、暗いんだけど、なぜか惹かれるところがあります。

>妄執故に、一瞬一瞬だけの回復だったのではないか、と思いました。

おお、そういうのも有りですね。
そう願いたいです・・。

https://blog.goo.ne.jp/latifa/e/5e155d4c023c41ba99bd7c01f064df5d
2018年03月31日 21:49
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
我が家のあたりは、満開を通り過ぎて散り始めました(笑)。入学式に間に合いませんでしたねぇ(^^;)。

なんとも怖ろしい作品でしたねぇ・・・。
でも、心惹かれるところが、桜木さんのすごいところ。ただし、気力体力に余裕がある時しか読めないですね(^^;)。ゆっくりと読んでいきたいと思います。

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