『最悪の将軍』/朝井まかて ◎

徳川15代の中でも、悪政だったと言われる「五代将軍・犬公方・綱吉」。
しかし、この物語で鮮やかに描かれるのは、「生きとし生ける命を大切にしたいと願った」為政者の姿でした。
綱吉は、本当に『最悪の将軍』だったのか?朝井まかてさんによって光をあてられた真実を、噛みしめながら読みました。

将軍の真意が市井にきちんと伝わるのが、こんなに難しいなんて、切なくなりますよねぇ。
綱吉はただひたすら「人であれ動物であれ生き物を愛おしみ、むやみに殺したり害したりすることなく、皆で温かく育てていく世界」を求めていただけなのに。
江戸幕府の政治の方向性を、天下布武ではなく文治政治に切り替ようとする功績は評価されず、大火事や天災や飢饉に見舞われ、赤穂浪士の討ち入りなどの争乱も追い打ちをかける。
ただただ、「天下を安らかなものとし、民草が幸せに生きること」を目指す政治は、理想的と言ってもいいのに、うまくかみ合わない故に、裏目裏目に出てしまう。
綱吉を支える側近に、彼の意をうまく下々に伝えられる人材が少なかったこと、未だ「武から文へ」を理解せず乱暴狼藉を是とする武士階級の頑迷さ、タイミング悪く押し寄せる災害や騒動。
中継ぎ将軍であることを自覚し、つつましくも真面目に心優しく、何とか世の中を平安に治めようと努力しては報われないその姿に、とても切なくなりました。

確かにね、ある日突然上司が変わって、今まで自分たちがやり良いようにやってたことを、正論とはいえ前例なき方策を打ち出し、お金も違う方向に使う、・・・ってなったら、なんじゃそりゃ今までの私たちの努力は無駄かよ、と思う気持ちにもなるかもしれないとは思う。だけど、もうちょっと綱吉の意を汲んで、良き世の中を作っていこうという部下が少なすぎましたね。

正室・信子夫人が男だったらなぁ、と思いました。京の公家の姫で、教養もあり心温かく、しっかりとした芯を持った彼女が表舞台で綱吉を支えられたら、せめて女性にももうちょっと政治に関与する余地があれば…と。もう少し、綱吉は救われたかもしれません。
とはいえ、大奥で信子が控えていたからこそ、まだ綱吉は自身の理想のために尽力する気力が続いたのかもしれないなぁとも思いました。
2人の間に子供はなかったけれど、お互いを理解して支え合える、素晴らしい夫婦でした。

誠実な綱吉の人柄が世には伝わらず、苦悩と弱さを表に出すことも出来ず、ひたすら世の民の安寧を祈り努力し続けた綱吉の最期の言葉が「我に、邪無し」。
政には、思いだけではなく、行いも含めて「邪無き」ことを我が身に戒め、覚悟を持って政治を行ってきたその言葉を知った信子(浄光院)が目にした、市中の子供たちの「生き物を愛おしみ、責任をもって飼おうとする姿」。
光さすその終章に、少しは綱吉も報われたのかもしれないと思いました。

(2018.05.21 読了)

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この記事へのコメント

Todo23
2018年05月23日 08:01
面白そうですね。
今、図書館からの借り出しをセーブして、手持ち本の再読(しかも20年以上ぶりの)期間中なので、それが一段落したら借りて読もうと思います。
2018年05月23日 16:21
Todo23さん、ありがとうございます(^^)。
綱吉の印象が、ガラリと変わりました。
こんなに真摯に平和で温かい世の中を願った将軍の、あまりの報われなさに、心が苦しくなりました。
信子の存在が、どれだけ綱吉の支えになったことか。聡明な彼女の存在が、読んでいる私にも救いでした。

お時間が出来たら、是非読んでみてください。
とても良い物語でした。
Todo23]
2018年05月24日 07:30
英邁な君主という話題で、童門冬二さんの「小説・上杉鷹山」を思い出しました。
童門さんはサラリーマン向け教訓書としての歴史小説が多く、説教臭くて苦手なのですがこれだけは別です。
故ケネディ大統領が最も尊敬する日本人として挙げたウエスギ・ヨウザンの一代記。読んだのは20年以上前ですが、いまでも思い起こすシーンがあり、とても感動的な話だった記憶があります。

追伸;
済みませんが私のHPへのリンクが間違ってるみたいです
・・・・index.html/ →最後の"/"は不要です。
2018年06月03日 10:14
Todo21さん、リンクの修正、遅くなってしまってすみません

難しい歴史小説は苦手ですが、おススメの『小説・上杉鷹山』は読んでみようと思います!
(なかなか読みたい本リストの順番が回ってこないかもしれませんが…;;)
20年経っても思い起こせるぐらい、印象的な物語のご紹介、ありがとうございます♪
Todo23
2018年07月02日 08:18
6/30に読了しました。

私が持った感触は水無月・R さんと少し違います。

綱吉は修身の先生の様な人だなと。
目指す姿は素晴らしいけど、政治家としての実務能力はさほどない。
将軍ですから実務に優れた人を使えばいいのだが、意外に狭量。
治世の前半は自分の眼鏡にかない実務にも優れた堀田と言う大老を得て善政を敷けたが、堀田の死後は上手く行かなくなった。
そんな風に読んでいました。

小説(フィクション)なのだから、もっと偉人化する書き方もあったような気もしますが。。
2018年07月04日 15:14
Todo23さん、ありがとうございます(^^)。

綱吉・修身の先生説・・・!
なるほどです。確かに頑なすぎる面が、多々ありましたもんね。
そう、理想はとても素晴らしかったけど、人の使い方は下手だった。そして、人材に恵まれなかった。
そこの切なさを、朝井さんは書きたかったのかもしれません。なんて思いました。

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