『深泥丘奇談・続々』/綾辻行人 ◎

綾辻行人さんの描く、もう一つの京都に存在する深泥丘。そこに暮らしている作家の「私」の曖昧になる記憶、言いようのない違和感。
〈なにか、怖ろしくおぞましい経験をした――ような気がする。〉
『深泥丘奇談・続々』でもまた、「私」は霞がかる記憶に頓着せず、致し方ないと放置。
・・・、いや、それ一番やっちゃダメな気がするんですけど・・・。
さあ目の前に、彼岸と此岸の合間を漂う異界の入り口が、開かれていますよ・・・。

前々作『深泥丘奇談』、前作『深泥丘奇談・続』に引き続き、本作でも作家の「私」は様々な怪異に見舞われ、眩暈を起こし、記憶が曖昧になる。
深泥丘病院には、眼帯の左右かメガネでしか区別のつかない3人の石倉医師(担当診療科は違う)がおり、咲谷由伊看護師はどこの診療科にも現れる。それどころか、咲谷看護師は巫女になって神社に現れたり、夢や録画に登場し、主人公を惑わせる。
更にまた同じ顔の石倉氏(ホテルマン)までもが登場し、主人公をQ**ホテルの秘密の完全会員制プールにいざなう。

ひと以外にも、怪鳥、水妖、猫、怪魚、怪しげな人外のものが現れては茫洋と消え、ますます主人公の現実認識を危うくし、虚実は入り交じり、ひたすらに正気と狂気の狭間を彷徨わせる。
ズレている。幼い頃より暮らしてきたはずなのに、記憶にない慣習。
行方が知れなくなった大叔父の記憶。大叔父と行ったQ**ホテルは増改築を繰り返して、複雑に増殖している。

「タマミフル」
Q製薬のインフルエンザ薬、タマミフル。けけ、けけけ。副作用は。
「忘却と追憶」
神社の奇面祭。現れる咲谷看護師。私の引いた〈奇〉のお神籤。
「減らない謎」
健康的に節制しているのに、減らなくなった私の体重。
「死後の夢」
こんな夢を見た。―――ような気がする。死語の渦巻く深泥丘病院の屋上のペントハウスに隠されている禁断の〈死語〉を知ってしまった私。
「カンヅメ奇談」
東京のホテルでカンヅメになっていた私は、あらぬ気配を感じて…。
「海鳴り」
崖の上で、海を指さす赤いコートの女。ごごぅ・・・ごごごごぅぅ・・・海鳴りが、聞こえてくる。
「夜泳ぐ」
Q**ホテルの完全会員制プールで泳ぐ私。
「猫密室」
こんな夢を見た。―――ような気がする。死体の周りには、踏まれ形跡のない猫たちがひしめいていて。
「猫しずめ」
猫しずめの日に出現した猫柱を、私は見てしまった。

前作にも登場した「こんな夢を見た。―――ような気がする」というエピソードの数々。
夢も現も混沌として、ますます「私」は深泥丘の並行世界なのか異界なのか分からない深みにはまっていく。
とりあえず、「死語」の渦巻く深泥丘病院の屋上で咲谷看護師が持ってたのが「私」の作品だったってのは、作者的には微妙な気持ちになるでしょうねぇ(笑)。まあ、そのあとに見てしまった〈禁断の死語〉のインパクトには負けるでしょうけど。ていうか、その〈禁断の死語〉って、どんなものだったんでしょうねぇ。・・・我々読者がそれを知ってしまったら、世界滅びちゃいますかね?

「猫密室」での「踏まれた形跡のない猫」ってのは、どういうことなんでしょうねぇ。どんなにギュウギュウ詰めでも、踏まれそうになったら、猫って、避けますよね?逆に「踏まれた形跡」があったら、生物としてどうかと思う・・・。「猫密室」そのものには、単純に興味があるというか、入ってみたいです。あ、でも死体はナシでお願いします。

「猫しずめ」の最初の妻の夢エピソードは、可愛かったんですけどねぇ。川の中を、立ち泳ぎのような状態でくるくる回りながら楽しそうに流れていく猫。見てみたい。まあ本物(この作品中でのね)の「猫柱」は、ご遠慮申し上げますが。ボケーっと眺めてたら、巻き込まれてしまいそうな気がするので…。

前作のレビューで「奥さんが妙に明るくて可愛らしい。が、噛み合ってない感じがちょっと怖い」と書いたのですが、本作では、主人公が減らないどころか増える体重に対して奥さんを疑ってたり、主人公の知らないうちに秘密部屋が出来ていたり、微妙な不審さが醸し出されてきました。体重の件は、奥さんじゃなくてけけけ…の方が犯人だったようですが。
そして、最後に咲谷看護師と奥さんの共通点が明かされました。
・・・ですが、わかりません!!つまりどういうことですか~~~???
ドッペルゲンガーなの?若い看護師と、自分と同年代(50代)の妻・・・あれか、並行世界だから、同時存在がアリとかそういうことなの?

あとがきにて、いったん連載終了とのことでしたが、この深泥丘を舞台にした小説を書かないというわけでもないような…曖昧にしておく、ともありますので、いつかまたこの世界に「私」と一緒に深泥丘に彷徨いこめるかもしれないですね。期待しています。

(2018.06.09 読了)

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