『無貌の神』/恒川光太郎 ◎

久し振りに、恒川光太郎さんの作品。
本作『無貌の神』は、恒川さんの真骨頂ではないでしょうか。
美しく、悲しく、孤独で、それでいて温かい。そんな世界を堪能しました。

恒川作品を読むとき、〈見知らぬ世界なのに、懐かしい〉という感覚がいつもあります。
その懐かしさを追いかけるうちに物語の中に入り込み、登場人物に同調して、描かれる世界の美しさや醜さに翻弄されてしまいます。
それに疲れてしまってなかなか読み進められない時と、世界と波長が合って一気に読めてしまう時とがありますが、その違いは体調なのか心境なのか…分かりません。
本作は本当に読みやすく、一日で読了してしまいました。

「無貌の神」
神を殺し、その肉を食べる。神を殺したものは、次の神になる。
「青天狗の乱」
流罪人の島で、起こった事件。あの男は、どうしたのだろうか。
「死神と旅する女」
神隠しに会った少女は、七十七人を殺した。大戦に参加しなかった並行世界で。
「十二月の悪魔」
何が真実なのか。罪人を生かす実験だったのか。
「廃墟団地の風人」
重さを持ってしまった私が、巡り合った少年のためにしたこと。
「カイムルとラートリー」
妖獣と皇女の生涯。まっすぐで、美しい絆。

「カイムルとラートリー」が、一番好きです。
言葉を理解し、語ることのできる妖獣が、歩けないが千里眼を持つ皇女と旅に出、居所を見つける。
お互いを大切に思い、誠実に生きてきた彼ら。長く生きた妖獣は、その生涯を終えるときに再び皇女にまみえ、ともに一陣の風となった。
誰にでも描けそうな展開の物語なのに、読了後に見えた美しい光の世界に、涙が出そうになりました。
恒川さんの筆力の素晴らしさを痛感しました。

「無貌の神」のラストが迎える、無力感。
それでも、歩き続けることを選んだ主人公は、やはり無貌となったのでしょうか。
思考を棄て、ただ無為に循環する村から脱出するために、神を生きたまま投げ落とした少年たち。赤い橋が復活し、それを渡っているうちに無貌に変わってしまった少年、そして我が身も同様に変わりつつあった主人公。
永遠に終わらない循環に組み込まれたのか、そこですべてが終わるのか、余韻を残して終わる物語に、本当にぞっとしました。どちらであっても、あまり救いはない感じ。

「死神と旅する女」の、淡々と人を殺めていくフジ。そして七十七人を斬り殺し終え、解放されて戻った時は3日しかたっていなかった。時影と名乗る男と旅をしていたその間は〈夢〉だったと思うことで、生き続けることが出来たフジは数年後、自分が最初に犯した人斬り事件を新聞で知る。あれは〈夢〉だったのだと自分に言い聞かせ、日常を送るフジ。大戦に参加しなかった日本。再会した時影は、別の可能性の世界をフジに見せる。
~~己の目的のために能動的に人斬りをしたことはない~~(本文より引用)というフジに、時影は一つの贈り物をした。
それは、贈り物だったかもしれないし、そうではないかもしれない。
人が生きるということは、醜くも美しい。私の人生もそうであったらいいなと思いました(人斬りをしたいとかそういう意味ではありません(笑))。

他の物語も、どれも印象的で懐かしい淋しさを湛え、時に静かに時に荒々しく風が吹くような、不思議な心地がしました。
風が私の中を吹き抜けるとき、物語に描かれるのは見知らぬ光景なのに郷愁を覚えるのでした。今はないものを偲ぶような懐かしさと、温かさ。
恒川作品の魅力いっぱいの、短編集でした。

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(2018.09.08 読了)

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この記事へのコメント

latifa
2018年09月10日 19:27
こんにちはー!水無月・Rさん
天災が多くて、日本どうなっちゃうんだ?って心配な今日この頃ですね・・・

これ、面白くて、大好きです!
恒川ワールドを堪能できたお話でした。

水無月・Rさんは最終話が一番お好きだったのですね。
https://blog.goo.ne.jp/latifa/e/386b82784a906a0128ced19b3ac46cef
2018年09月10日 19:56
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
地震、水害、台風・・・心配ですよねぇ。
備えるにしても、どこまでできるやら…。

恒川さんらしい、良い作品でしたねぇ!
懐かしさと淋しさが同時に存在する感じが、読んでいて心地よかったです。
「カイムルとラートリー」のカイムルがずっとひらがなでしゃべっているのが、その純粋さをよく表していると感じました。

Todo23
2018年09月11日 15:42
私もlatifaさんに教えて頂いて読んだばかりです。

皆さんいわれる通り、恒川さんらしいお話でした。
長編化出来そうなくらいの世界感なのに、あえて短編でサラリと終わらせているのも良いです。
2018年09月11日 18:18
Todo23さん、ありがとうございます(^^)。
ぎゅっと濃縮された恒川テイスト、堪能しましたねぇ!
心地よい心許なさとでもいうのでしょうか。
素晴らしかったです。

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