『悪徳の輪舞曲』/中山七里 ◎

『贖罪の奏鳴曲』から始まる、敏腕でありながら悪辣な弁護士・御子柴シリーズ第4作目、『悪徳の輪舞曲』
かつて日本中を震撼させた少年犯罪者〈死体配達人〉は、医療少年院での更生の後、弁護士となる。
その前歴は法廷内で暴露され、かつての医療少年院の恩師の弁護では納得のいかない結果となったという物語を経て彼が本作で挑むのは、実母が再婚相手を自殺偽装で殺したのではないかという裁判。
1作目・2作目を読んだ時は、ここまで掘り下げられるシリーズになるとは思ってませんでした、中山七里さん。

妹の突然の来訪により知らされた、母の「再婚相手の自殺偽装殺人容疑」。決定的な証拠はないものの、状況があまりにもクロに近く、そして法曹界では御子柴の素性が知れ渡ってしまっているため、その実母であることから弁護の引き受け手がなく、妹は仕方なく依頼に来たのである。
母子の情ではなく報酬が得られる相手だから、母・郁美が応諾すれば引き受けると言い放つ御子柴。

母との接見、裁判で相対する検事・槙野との前哨戦、裁判が始まっての攻防、途中で明らかになった実父の自殺が今回の事件に酷く似ていること、自分の起こした事件から家族の足取りを追ううちにかつて自分が暮らした街を訪れ・・・。
「依頼人に肉親もイワシの頭もありません」という御子柴だが、被害者家族・加害者家族の苦しみやそこに投げかけられる偏見、殺人者の性質は遺伝するという言い習わし、少年犯罪や心神喪失者の犯罪に対する世間の目、様々な問題に直面し、心が揺れ動く。自分は冷徹だと任じながらもそうやって動揺してしまったことに対する、さらなる動揺が、彼に人間味と裁判勝利への熱量を与える。

母の自殺偽装の真実は、思ってもみない展開で、そして余りの執念に背中が寒くなりました。
冒頭の郁美の犯行描写は、実父の自殺詳細が分かった時に、もしかしたら二重なのかと思ったのですが、よっぽどこちらの方が怖いですね。
冒頭にこれを入れることでミスリードを誘ってるにしては、あまりにあからさまだなと感じてはいたのですが、こういう仕掛けがあったとは…。

大がかりな仕掛けを法廷に持ち込み、「偽装」の偽装を暴く派手さと、被害者の本当の心情を明らかにする細やかさと大胆さ、鮮やかな勝利。
しかし、そうして勝ち取ったも同然の母の無実開放であったが、その後の母の告白は御子柴を混乱の極みに陥れ、御子柴は弁護人を降りるとの宣言だけをして、その場を逃げるように去る。
・・・正直、郁美はこの瞬間を待ってたんじゃないかという気になりました。
たぶん、様々な気持ちがないまぜになって。父の死の真実を教えたい。今まで自分たちがどれだけ「加害者家族」として虐げられてきたか、思い知らせたい。でも、それでも我が子が医療少年院で生まれ変わることを頼みとしていたのだ。こんなことになって、名前を変えた我が子と直面して弁護されて、どれだけ成長したかを知って、複雑な気持ちになりながらも、安心したか。そして、忘れたくとも忘れられない存在であり続けると。
この瞬間は郁美が作り出したものではないけれど、郁美のためにあったのではないかと、私は思ってしまいました。

そんな郁美の告白に動揺し、人目を避けて弁護士会館へ向かう道中で再会した少女・津田倫子。
2作目『追憶の夜想曲』での事件関係者であり、御子柴への協力を申し込んだ当時6歳だった少女は、2年ぶりにあった御子柴に「事務所引っ越し祝い」の花を持ってきたという。
ふと彼女に、「お母さん、好きか」と訊ね、「当り前じゃない」という返答を受けた御子柴は、
~~生まれて初めて、他人が羨ましいと思った~~(本文より引用)
と返す。
前作『恩讐の鎮魂曲』でも、自分の無力さに苛まれていた御子柴に手紙を出していた倫子、本作でも、最後の最後に御子柴に救いの光を投げかける存在ですね。
前作の感想でも書いたのですが、いつか倫子と御子柴が裁判に挑む物語を読んでみたいですね。
御子柴がかつて犯した罪の贖罪に生涯をかけること、冷徹無比な悪辣弁護士がだんだん人間味を増し、それに自身が動揺し、乗り越えていく姿を追い続けたい。
彼の犯した罪、その当時の心情や家族に対する気持ち、〈悪辣〉である弁護の手法・方針、それらに全く共感しないのですが、それでも、そう思いました。

(20108.09.16 読了)

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