『暗幕のゲルニカ』/浜田マハ ◎

1年ほど前『楽園のカンヴァス』を読んだ時、とても強烈な印象を受けました。その際、原田マハさんのアート・サスペンスとしてお勧め頂いたのが、本作『暗幕のゲルニカ』です。
こちらもまた衝撃的というか、、ピカソの〈ゲルニカ〉に込められた反戦の思いと、〈ゲルニカ〉を守り庇護していった人々の信念が強く描かれた、素晴らしい作品でした!

〈ゲルニカ〉制作当時のピカソの愛人・ドラの物語と、9.11で夫を喪ったのちMoMAで「ピカソ展」を企画するキュレーター・八神瑤子の物語が並行して進み、「〈ゲルニカ〉とは何か」「〈ゲルニカ〉は誰のものか」が突き詰められていきます。
ピカソの血を吐くような思いの結晶となった絵画〈ゲルニカ〉。 物語のどこまでがフィクションなのか分からないながら、すべてが真実ではないかと感じさせるリアリティがありました。

MoMAのチーフ・キュレーターが「ティム・ブラウン」でしたねぇ!『楽園のカンヴァス』の17年前パートではまだ一介のキュレーターでしかなかった彼が大出世して、芸術を愛す心はそのままに、度量のある魅力的な上司として主人公・瑤子をそっと支える役目を担っていたのが、とてもうれしかったです!

――イラク攻撃を発表するアメリカ国務長官の後ろにかかっているはずの「〈ゲルニカ〉のタペストリー」には、暗幕が掛けられてていた・・・――
そこから端を発する、ピカソの〈ゲルニカ〉を巡る攻防の物語は、幾重にも謎とサスペンスを繰り広げながら、現代と過去を行き来する。

いやもう、ホントに素晴らしい迫力というか力量。
ドラの語る、ピカソの芸術への矜持やドラの自身やピカソとの関係における自尊心、そしてナチスに侵攻されたパリでの生活の息苦しさ。ピカソの若き支援者・パルド・イグナシオの成長。
史実と作者の創作が見事に融合していて、何の違和感もなくすべてを受け入れて読み終えてから、一番最後の注に
~~二十世紀パートの登場人物は、パルド・イグナシオとルース・ロックフェラーを除き、実在の人物です。
二十一世紀パートの登場人物は、全員が架空の人物です。~~(注より引用)

とあって、度肝を抜かれました。
え~~!!パルドがフィクションだったのか・・・!
すごい・・・。ピカソと〈ゲルニカ〉を庇護した、物語の根幹を支える重要な人物が創作・・・。
読んでいる間ずっと、「そっか~、ピカソにはこんな支援者がいたんだねぇ、ヨーロッパの芸術支援って、やっぱり懐が深いなぁ・・・」って思ってたんですよ、それが、まあ!
でも、こういう影の支援者はいたんじゃないかしら。

現代パートの瑤子の「9.11を経たからこそ、MoMAのピカソ展に〈ゲルニカ〉を」というキュレーターとしての情熱も素晴らしかったです。
国連の〈ゲルニカ〉のタペストリーに暗幕がかかったのは、確か現実のニュースでもやってましたね。「あまりにあからさま、米国務長官って、アメリカの認識って、こんなに甘いの(バカなの)?」と思った記憶があります。

・・・それはさておき。
瑤子は〈ゲルニカ〉をMoMAに呼ぶために、世界有数の財閥ロックフェラー家の力も借り、マドリッドとニューヨークを行き来し、それでも真の「〈ゲルニカ〉を移動できない理由」のために、挫折する。
だが、ルース・ロックフェラーの再度の申し出「〈ゲルニカ〉を狙うテロリストに屈しなかった証になる」「〈ゲルニカ〉は「戦争」と戦う意思の象徴」に、パルドはついに承諾する。
しかし、秘密裏に進められたはずの〈ゲルニカ〉移動は、テロリストたちに知られ、瑤子誘拐という最悪の事態を発生させてしまう。
「人命か、絵画か」「テロに屈するのか、しないのか」・・・取られる選択肢の予想がつく中、命を擲って瑤子は「〈ゲルニカ〉は、テロリストたちのものでもなく、スペインのものでもなく、誰のものでもなく〈私たちのもの〉」である、と説得を試みる。
…自分の命よりも、芸術が発信する〈反戦〉(戦争批判)を、全世界にあまねく知れ渡らせることを優先した、その意志の強さと素晴らしさに、胸が熱くなりました。

そして、物語の最後を飾ったのは、「ピカソの戦争」展のオープニング・レセプションで明らかにされた、〈ゲルニカ〉の展示場所。
予想外の場所でしたが、一番ふさわしい場所で、そして最も全世界に〈反戦〉〈平和〉を訴えかける場所でしたね。
暗幕のクローズアップから、画面がズームアウトされ、暗幕が落とされた瞬間。
レセプションの会場の人々と一緒に、私も息をのみ、そして大きく息をつきました。

この簡潔にして雄弁なラストが、物語を引き締め、そして余韻を残してくれました。
・・・浜田マハさん。素晴らしかった。

願わくば、瑤子救出の後、どうやって〈ゲルニカ〉を移動させたか、あの場所に設置するための交渉がどのようなものであったか、も知りたかったな。
とはいえ、その辺まで書くと、話が長くなってしまって、中だるみしちゃうかもしれませんが・・・。

※最近、トラックバックが出来ないブログサイトが増えてきました(T_T)。
ブロガーさんにご許可頂いたレビューをご紹介します♪
☆おすすめです!☆
【活字の砂漠で溺れたい】 yoriさん戦時下のパリとテロ後のニューヨーク

(2018.11.07 読了)

暗幕のゲルニカ (新潮文庫) [ 原田 マハ ]
楽天ブックス
新潮文庫 原田 マハ 新潮社アンマクノゲルニカ ハラダ マハ 発行年月:2018年06月28日 予約


楽天市場



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

yori
2018年11月17日 09:13
原田さんは大好きな作家です。作品によって色々な顔を見せてくれますが、美術小説もまた、原田さんお得意の分野ですね。この作品も大好きです!!
2018年11月17日 13:22
yoriさん、ありがとうございます(^^)。
原田さんは、なかなか読みすすめられない作家さんですが、その分心して読んでいる作家さんです。
芸術のことは正直、よく分かってませんが、物語でその世界を知る喜びを知るようになったのは、浜田さんのおかげと言えると思います。
今後も読んでいきたいですね!

この記事へのトラックバック