『ヨハネスブルグの天使たち』/宮内悠介 〇

国を守るために溌溂と活躍するイスラム女性たちを描いた『あとは野となれ大和撫子』がとても面白かった宮内悠介さんの。その宮内さんのロボットを描く連作短編、とあれば読むしかないよね!ということで、本書『ヨハネスブルグの天使たち』を手に取りました。

南アフリカ・ヨハネスブルグ、アメリカ・ニューヨーク、アフガニスタン・ジャララバード、イエメン・ハドラマウト、日本・東京。
荒廃したこれらの都市で、日本製の少女型歌唱ロボット・DX9が大量に落下する。
終わらない落下衝撃テストのため、9.11を再現するため、人ならぬ兵士として、催眠刺激依存のために・・・・。

それぞれに共通するのはDX9の落下だけかと思いきや、いくつかの物語に共通の人物が登場したり、それぞれの根底に諦めとそれでも前を向きたい感情のせめぎ合いが漂っていたりして、乾いた切なさを覚えました。
落下する何百もの機体の中で唯一、感情や痛覚が起動してしまった一体が発信する「助けて」。
ホビーロボットでありながら、高性能であるがゆえに、後付けの役割をインストールされ、殺戮兵器として酷使される。
リアルに倦んだ大人がプログラムした刺激体感の本体として、団地の屋上から毎夜落下する。
ーーその姿は、少女。

少女型歌唱ロボットというと、初音ミクなどのボーカロイドを思い起こしてしまいますが、物語中ではその容姿は特に描かれていなかったので、表紙に描かれた少女の方で私は読んでいました。
そんな<普通の日本人少女>のように見える姿で、過酷な世界に在り続けるDX9。想像すると、胸が痛くなりますね。

近未来の荒廃の中で、現状に諦めを抱きながらもわずかな抵抗を試みる人間たちを尻目に、DX9は落下し続ける。
それでもひとは、針の穴のような小さな希望から世界を切り開こうともがく。
大きな変化は望めなくとも。自分たちと、DX9も救えるかもしれない、そのきっかけを探して。

正直、難しかったです。SFの「サイエンス」な部分は相変わらず、水無月・Rの理解力を越えていきましたし(笑)。
一つ一つの物語は「めでたしめでたし」では終わらず、世界はまだ争いと混乱のさなかにあり、人々もDX9もその中から抜け出せないでいる。
解決はなく、明確な救いも見当たらない、ディストピアが広がっていました。
それでも、理由は全く分からないのですが、かすかな光が見えていたような気もします。
世界をがらりと変えるような救いは訪れないだろうけど、DX9は相変わらず落下し続けるだろうけれど。
荒涼としたこの世界を、人は何とかして生きていける。そんな「人のしぶとさ」を信じられるような気がしました。

内戦や宗教紛争を舞台にする章もあったことと近未来ディストピアということからか、伊藤計劃さんの『ハーモニー』『虐殺器官』を思いだしました。これらに比べると、諦めて受け入れることではなく、何とかして生き抜く人間の強さを感じられたような気がしますね。

(2020.02.26 読了)

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