『滅びの園』/恒川光太郎 ◎

ある日突然、地球上空に現れた<未知なるもの>。その中に存在が確認された男・鈴上誠一。
恒川光太郎さんの描く、ささやかな理想郷と地上の悪夢、その中を生き続ける人々それぞれの戦いと信念、そして孤独。
突然現代に異次元が滑り込んできたという設定で始まる『滅びの園』、展開が気になって、すごい勢いで読みふけりました!

何故、それは突然地球上空に現れたのか。何故、鈴上誠一だったのか。地上を蹂躙する生物、プーニーとは何か。それらは一切、わからない。
だが、現実世界にも〈何故〉など分からない状況はいくらでもあり、人はただそれを受け入れ、抗い、切り拓こうとする。
そして、一方には正しくても、他方には正しくなく、希望と絶望はコインの表裏。
それを、思い知らされました。切なかったです。

切なかったけれど、それは私が「読者」だったからです。
地上にいる当事者なら誠一には辛い目にあってもらって、大多数の平和である〈未知なるもの破壊→プーニー消滅〉であることを願ったでしょうから。適性や能力があれば、プーニー対策部隊に入っただろうし、突入者に志願もしたかもしれない。
でも、誠一の理想郷の穏やかな暮らしにかかわっていれば、そちらに肩入れしていたでしょう。
どちらも分かるから、切なかったです。

〈未知なるもの〉に取り込まれた男・誠一、プーニー抵抗値の高い中学生・相川聖子、更に抵抗値の高い少年・大鹿理剣。彼らの視点で、物語は進んでいく。
誠一の視点では、彼の想念である理想郷・おおまつり郡での彼の生活、聖子の視点では、プーニー災害時の活動と彼女の成長を、理剣の視点では、彼の〈突入者〉になる過程と突入者としての最期を。
聖子の視点だけが一人称だったことに、物語が大分進んでから気づきました。
そのせいでしょうか、誠一よりも聖子の方に気持ちが沿っていたように思います。
聖子の物語の方が、よりアクティブで大多数を救う立場だったとか、彼女が平凡な中学生から成長していく女性であるとか、そういう憧れや共感が持てるせいもあるとは思いますが。
聖子が、プーニー対策活動以外では普通の女の子であるのも、好感が持てましたね。まっすぐで優しくて、迷いながらもプーニーから人を守るために、毅然とした行動がとれる彼女は、かっこよかったです。

〈未知なるもの〉が崩壊し、誠一が視力を失って地球に帰還し、保護という名の囚われの身になったという最終章、そして彼が最後に選んだ道。
彼にとっては、地球でのこの生活ではなく、あちらの生活が〈ほんもの〉だったのでしょう。

SFのような、ファンタジーのような、おどろおどろしい怖さはないものの、〈見たことがないのに、郷愁を覚える〉世界観、やっぱり恒川さんだなぁ、と思いました。
本作で描かれたのは「彼岸と此岸が交じり合う世界観」ではなかったけれど、現実世界に異世界が侵攻し、そして切り離されることへの切なさが、美しく描かれていました。

(20220.06.13 読了)

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この記事へのコメント

2020年06月30日 18:03
こんにちは、水無月Rさん
ちょっとコメントは久しぶりかな・・・
読書されている本、私のとかぶるのが、ここのところなかったので。

これ、色々忘れちゃってることに驚愕・・・
最近記憶力がほんとにマズイ状態です。

本作も、ファンタジーというか、不可思議な恒川さんワールドでしたね。
2020年07月01日 20:15
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
〈失われるものへの郷愁〉を描く、恒川作品らしい物語でしたね。
何故彼だったのか、なぜ彼女だったのか、わからないけれども一生懸命生きて来た彼らのやるせなさに、何とも言えな気持ちになりました。
2020年07月09日 15:37
紹介を見て気になって読みました。
SFの様なファンタジーの様な、アクション物の様な切なさに溢れるものの様な、ユートピアvsディストピアのような。。。
色んなものが上手くまじりあって、なかなか面白く。
「いろんな価値観の人がいて、それぞれの立場で正義だと感じられることに命を懸けています。」というインタビューでの恒川さんの言葉が納得できます。
2020年07月10日 17:49
todo23さん、ありがとうございます(^^)。
どの立場にあっても、それぞれに苦い思いがあり、後悔を抱えていたように感じました。
それでも生き続ける〈ひと〉の強さは、ある意味美しかったと思います。
恒川さんのインタビューの言葉は、まさにこの物語を感じ取るうえで一番大事なことですね!