『人ノ町』/詠坂雄二 〇

荒廃した世界に点在する町を、一人の旅人が巡る。
詠坂雄二さんの『人ノ町』では、彼女のそんな淡々とした旅路が描かれて行きます。

何故、彼女は旅を続けていくのか。どこへ至ろうとしているのか。
分からないながらも、それぞれの町で彼女が出会う人・出来事を共に経験していく、読者(私)。
世界は、かつて繁栄していたものの、何かの事情があり衰退したようである。
その衰退をどうにかして留めようとする町もあれば、受け入れようとする町もあり、新たな意味を付加しようとする町あり、衰退し廃墟となった町もある。
旅慣れた彼女は、慎重に旅を続けていく。

5章のうち3章めの「日ノ町」で、かつてあった高度な科学技術の施設が、別の意味で覆い隠されていることから、かつての世界の繁栄はかなりの過去のものであり、その技術は失われて久しいことが分かってくる。
そして、4章めの「石ノ町」で、彼女が〈何〉であるかが判明し、彼女の状況が明らかになる。
更に最終章「王ノ町」で、「町ではなく〈国〉を立てる」ことになるかもしれない流れに少し加担した彼女は、まだ旅を続け〈人の栄え〉を見たいと願う。

身体は死なないが、新しいものを見聞し体験し、常に刺激を受け続けなければ「心の老化」による「心の死」を迎えてしまうという、不死者。
不死者が「石ノ町」で石を積むのは、長い旅路を巡り「まだ生きている者がいる」という合図を仲間に残すため。
彼女が以前帰郷した時すでに石積みは見当たらず、その時彼女が積んだ石も今はなく、新たな石積みもない。
それでも彼女は、運命がその旅路を遮るまで、旅を続けていく。

荒廃した世界。町という小さな単位で営まれる人の集団、町と外を対比させ意識させる存在である旅人。
かつてあまりに多くの人が一つの共同体に属していたことが原因で、人々は繁栄を手放したのではないかと旅人は言う。

ううむ・・・つらつらと、あらすじのようなものを書き連ねてしまったけれど、感想が難しいのですよ。
ただ、かつて繁栄したが今は衰退した世界、もしかすると何百年も先に我々の「現実世界」が迎えるかもしれない未来になるかもしれない、と思うと何が正しいのだろう・・・という気になって来ますね。
ひたすら繁栄を続ける世界が正しいのか、繁栄を手放さなければ人類は生き残れないのか、その中道はあるのか・・・。
私如きが思い煩ったところで、世界の流れは変わらないだろうし、そうなったときそれを受け入れて生きていくしかないのでしょうけれど。

旅人である彼女は、孤独なのでしょうかね。
常に一人で世界を巡ることが、彼女が生きていくために必要なことで、それを孤独だと定義するのは、何か違うような気がします。
ただ、淡々と一人で世界を巡り、町で人や物事と出会いそして別れていく、もしかするとそれは酷く単純化した「人生そのもの」の一つの側面なのかもしれない、なんて思ってしまいました。

(2020.07.05 読了)


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