『グラン・ヴァカンス ~廃園の天使Ⅰ~』/飛浩隆 ◎

飛浩隆さんの『グラン・ヴァカンス ~廃園の天使Ⅰ~』 。
私の〈読みたい本リスト〉のメモに、「AI達が封じられた、VR世界の崩落の一日」と書いてあって(このメモ書いたのがいつかも思い出せない・・・)、たぶん私は〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動く物語的なものを期待していたと思うのですが、揺れ動くどころか、本書のAI達は確固とした個性や感情や矜持まで持っていて、彼らと人の間に何の違いがあるのか、と思わずにはいられなかったです。

ひと時の休暇を過ごす、リアルで緻密なVR世界(仮想リゾート)としてプログラムされた〈夏の区界〉。ある日突然ゲスト(人間)が来なくなり、ホストであり住人でもあるAI達は、一千年にわたるゲスト不在の夏を繰り返していた。
ところがその平穏な日々は、〈蜘蛛〉の大群の襲来により脆くも崩れ去る。
対抗する手段として〈硝視体〉を駆使する彼らだが、〈蜘蛛〉を操り〈夏の区界〉のプログラム習性にすら介入する男(少年?巨人?)・ランゴーニの策略に追い詰められていく。

・・・ひたすらかなわない彼らの抵抗に絶望しながら、読む。
千年も放置されてきたAI達の健気さや、彼らの感情や自尊はプログラムを越えてると感じて切なくなって、読んでるのが辛いのに、すごく読まされました。
どんなに知力を尽くしても、更にその上を行く圧倒的な侵攻力を前に、凡人たる私は、ただひたすら絶望していました。
何処かにこの状況を変える要素はないのか、ランゴーニよりも上位の救いの手は差し伸べられないのか、いやそんなものではなくやはり、彼ら自身の力で小さな穴でもいい、穿つことはできないのか・・・、やはり、無理なのか・・・と。

抵抗の物語の中に時折挟まれる、〈ゲストが来ていた頃のAI達の記憶〉エピソードを読み、〈夏の区界〉に対するゲストたちの目的「区界の住人に対する虐待・性的蹂躙」を知り、吐き気を覚えました。
忘却のないAI達は、ゲスト不在の日々をどれだけ安心して暮らしたとしても、ずっと傷ついて苦しんできた。たとえ一千年の時を経たとしても。
彼らに対する切なさ、申し訳なさ(もちろん私はそんなことはしていないのだけど)は、ずっとずっと私の胸を抉っていたように思います。

役割のあるAIの中でも、重要なものだけが残った〈鉱泉ホテルの攻防戦〉。
それぞれ、表の役割以外にも役割を持っていたり、公式のストーリーを塗り替えたものっを持っていたり・・・、複雑すぎて実を言うと、ちょっとついていけてなかったです(^^;)。
ホテル全体を覆う〈罠のネット〉を考案した少年・ジュール。硝視体の使い手・イヴ・ジュリー・アナ・ドナ・ルナ。戦闘の最前線を守った漁師のアンヌとジョゼ。ホテルの支配人、町役場の助役、ホテルの従業員。
彼らは実は、ランゴーニの追い落としの中で選別を受けて集められた者たちで・・・。

ランゴーニは別の区界のAIで、その世界が〈天使〉という存在に襲われて壊滅状態になり、その〈天使〉に対抗する手段として、〈夏の区界〉をまるまる全部使った罠を作るために、この攻防戦があったということが判明。

〈天使〉の目的は?ランゴーニの対〈天使〉の戦いとは、どんなものなのか?
〈蜘蛛〉の飢えに刈り取られたAI達はどこへ行ったのか?
そもそも何故、一千年にも及ぶ〈大途絶(グランド・ダウン)〉は起こったのか?
そののちも何故、区界は存続できたのか?
今後の展開が非常に気になりますが、続作『ラギットガール』は、前日譚を含む短編集らしいですね。
それでも、この世界のことをもっと、知りたいです。

(2020.08.11 読了)

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