『30センチの冒険』/三崎亜記 ◎

三崎亜記さんのキーワードが多出する作品。
寝過ごしたバスの終点で下ろされた図書館司書のユーリは、〈大地の秩序が乱れた世界〉に紛れ込んでしまう。
渡来人としてその世界で〈救世主〉として期待された彼が持っていたのは、30センチのものさしであった。彼の『30センチの冒険』は、この世界を救うのか。ユーリは、元の世界に戻ることが出来るのか・・・。

元の世界と大地の秩序が乱れた世界、どちらが従来の三崎作品世界なのかな~?と思いつつ読み進めていきました。
なんだか、普段の三崎作品と雰囲気が違うんで、ちょっと最初は戸惑ってましたね。
三崎作品といえば〈現代日本と似ているのに世界の構成ルールが違う〉という世界設定で、〈失われるものへのひそやかな郷愁〉が切々と描かれているというイメージがあるのですが、本作は〈全く違う世界にスリップしてしまった〉ことから始まるので、ルールが違うのも当たり前でなんというか思いっきりファンタジー過ぎて、違和感がありました。

元の世界とこちらと、どちらが三崎作品の世界なんだろうという邪推も、どうも私の読書の足を引っ張っていたようです。
〈鼓笛隊〉が来るということは、こちらの世界は「三崎作品世界の遠い未来」なのかな?と思ったりもしたのですが、どうもそれも違うようで。
ユーリが勤めていたのが〈第五分館〉ということは、元の世界は『刻まれない明日』 の「第五分館だより」の世界だからこっち?でもユーリは鼓笛隊のことは知らなかった、ということは元の世界には襲来する鼓笛隊が存在しない?・・・あれ?
分からなくなったので、それに関しては考察を放棄することにしました(笑)。

統治者(神?)に見離され、地図を受け継ぐ女性の失踪、本の野生化、鼓笛隊の襲来・・・、厳しい環境の中で暮らす人々の中で、渡来人であるユーリに〈救世主〉を期待するもの、反発する者、色々な感情が渦巻いている。
次の鼓笛隊の襲来が街を直撃することが判明し、その危機から街を救うために街の施政官とユーリとユーリと最初に接触したことでだんだん若返ってきているエナさんは、砂漠を旅する技術を持った測量士たちと分断された土地にあるという〈貯刻地〉を目指す旅に出る。

裏切り、街で待ち受けていた陰謀、エゴが引き金で乱れた世界はより乱され、それぞれの使命が徐々に明らかになる展開は、まさに「冒険」であり「サスペンス」でもありました。
街での騒ぎが落ち着いて、ユーリが〈元の世界に戻るバス〉に乗り込み、そこで再会した書記官(混乱の根源であった男)との死闘を経て、エナさんが姿を消し、ユーリは元の世界に戻ってくる。

そこからユーリは、だんだんに〈何故バスを寝過ごしたか〉〈ずっと心に引っかかっていた約束〉を思い出し、動物園へ向かう。
そこで、彼が再会した人は・・・。

時空や世界を越えて壮大な冒険を経ての、大切に思い合う相手との再会。
いつもの三崎作品とは違った気がしますが、とても充足した気がします。

ところで、物語の途中ぐらいから、エナさんという名前から勝手に〈胞衣〉(えな:胎児を包む膜など)を想像したのですが、このラストだとあながち間違いでもないのかなという気がしますね。

それと本作は、〈鼓笛隊〉〈象の墓場〉〈動物園〉など、三崎作品のキーワードが沢山出てくるのですが、これまでの作品の集大成というよりは、それらを「繋ぐ」だけでなく「新たな断面を見せる」という発展的な傾向があったのかもしれないなぁと思いました。

(2020.11.21 読了)

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この記事へのコメント

2020年11月25日 15:39
拙ブログへの書き込み有りがとうございました。
こちらにお返事を。

ある意味よく似た感想ですよね。
今までの三崎さんの小説に登場する突飛なあれやこれやが一杯出て来て、どうも繋がりが見え無くてウロウロと。
でも面白い、と書いたのが水無月・R さんで、面白いんだけど・・と文句を言ったのが私。途中で考察を放棄して楽しんだ水無月・R と最後まで引っかかってしまった私の差かもしれません。
2020年11月25日 16:22
todo23さん、ありがとうございます(^^)。
いつもの三崎作品らしさが、ちょっと少なめでしたよね。
今までの三崎作品をあれだけ考察しているtodo23さんとしては、引っかってしまいますよね♪
私は割り切っちゃいましたけど(笑)。
ぐるりと往還し、再会するというラストに温かさを感じました。