『草々不一』/朝井まかて 〇

これは、江戸町人の日常を描いた『福袋』と対を成す作品ですねぇ。
本作『草々不一』は、時代は同じく江戸期、描かれるのは武家社会。
と言っても、華やかな職に就く有名な人々ではなく、牢人者だったり出世に悩む者だったり、「武士たるもの、こうあらねば」という面目を保つために、迷ったり苦心したりする、なんとも人間味の深いものたちの物語です。
やっぱり朝井まかてさんは面白いですなぁ。

実を言うと、最近身の回りがバタバタしていて、読書に時間を割けない日々が続いておりました。
数ページ読んでは次は翌日、まとめて2章読めたかと思えば翌日はまるきり読めなかったり。
それでも、読み始めればすぐにその世界に入っていけて、登場人物たちと一喜一憂することが出来るという、朝井さんの筆力の素晴らしさですよ。登場人物が皆、魅力的。意地っ張りなお武家様。数少ない奉職を争う御家人たち。内助の功の妻を見守り続けた忠犬。剣術道場の娘・・・。
それぞれが、自分の「場」で、己を通して生きている様をつぶさに見るにつけ、心が温まりました。

やはり、表題の「草々不一」が秀逸。
武芸を持って仕えていることに誇りを持つ徒衆だった忠右衛門が、妻の死後に気が抜けたようになっていた時、息子からもたらされた妻の遺言。
妻の詫びたいこととは何なのか。漢字が読めぬ忠右衛門は、手習い塾に通いながら漢字の読み書きを習得し、その遺言をやっと最後まで読むことが出来た。
妻の配慮。妻に褒められた喜び。孫が生まれる喜び。
妻が忠右衛門に伝えたかった〈読み書きの向こうにある世界〉、それは物語読みである私に常にもたらされる、新鮮な世界。
温かい気持ちでいっぱいになって本を閉じた私こそが、喜びに満ちていたかもしれません。

忠臣蔵の大石内蔵助の家族に付き従った忠犬・唐之介の語る「妻の一分」は、忠臣蔵の華々しい討ち入りではなくそれに至るまでの赤穂藩士たちの苦渋の日々。討ち入りが遂げられた後の、赤穂浪士たちの家族の処遇。
大石家再興のために旅立つ一家と共に歩いて行く唐之介の、力強い優しさがとても素晴らしかったと思います。
大石内蔵助の奥さんがそんなに大柄な人だったなんて、なんだか面白いですね。体が大きく、気持ちも鷹揚で、才気極まるというよりはほわほわとした雰囲気で様々なことを乗り越えてきた、〈人間の器〉の大きい人だったんでしょうね。

「一汁五菜」の武士であるけれども料理人という伊織の、長い年月にわたる復讐劇。
料理人の役得でもある、捨て材の転売や持ち帰り、そして勤務時間外の料理屋勤めという、抜け道稼業の存在も面白かったけれど、それを追及されたときは、私もドキドキしました。ただ、実はそれを指摘して脅してきたものたちの目的と伊織の目的が同一であったことは、ホッとしましたね。
そして、遂げられた復讐。伊織は、その罪を抱えて生きていくのでしょうか。それとも「因果応報よ」と罪と思わないのか。どちらなのかなぁ、なんてことがちょっと気になりました。

「春天」の幕末の荒波を越えて再会した二人が、「手合わせを」と言い合うときの澄んだ空の美しさが、素晴らしかったです。
再会できてよかった。お互いを一番よく知り伝えあえる「手合わせ」を望む真っ直ぐさが美しい。
すうっと、背筋が伸びるようなラストでした。

どの物語も、それぞれに〈武士の体面〉などを描きながらも、人として真摯に生きること、その凛々しい美しさを描いていたように思います。
朝井さんて、やっぱりすごいなぁ。ゆっくりでも、読み続けていきたい作家さんです。

(2021.04.06 読了)

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