『クジラアタマの王様』/伊坂幸太郎 ◎

『クジラアタマの王様』というタイトルが、実はなかなかに意味深ですよね。
〈クジラアタマの王様〉とはハシビロコウの英語名?学名?なんだそうですが、〈王様〉ねぇ・・・なるほどなぁ。
伊坂幸太郎さんが描く、夢の世界と現実世界のリンクストーリー。
主人公の岸がすごく普通の人なのが、好感が持てましたねぇ。

実は、ハシビロコウは結構好きな鳥類だったのですよ、この本読むまでは。
あの哲学的・虚無的な佇まい、ほぼ動くことはないと思って見てるといきなり大きな翼をバサバサと広げて動く、その静と動の落差の大きさ。
なかなか印象的で、カッコイイというか意味深な表情してるよなぁ・・・なんて、ね。
だけど、この物語を読んでしまうと、これからあの鳥を見る時に、あれこれ深読みしてしまいそうです(笑)。

製菓会社のサラリーマン・岸、新進気鋭の政治家・池野内、今を時めくアイドル・小沢。
それぞれ、全く関わり合わないようなこの3人が、とある事件から知り合いになり、池野内が「夢の中であなたたちと巨大生物と闘っている」「勝つと現実でトラブル回避でき、負けるとトラブルが悪化する」というが、岸は今ひとつピンと来ていない。ただし、夢の中で彼らに指示を出している巨大な鳥(ハシビロコウに似ている)には、なんとなく見覚えがある。
知り合ってから、特に交友が深まったわけでもないながら十数年がたち、池野内が製薬会社との癒着を取り沙汰される中、世の中に〈感染力が強い新型インフルエンザ〉が流行し始め、日本にもそれが入ってきたことでパニックが起こり始める。
パニックに巻き込まれた岸、インタビューでなにかを言おうとして襲撃された池野内、罹患して急性重篤状態になった小沢、それぞれどんどん追いつめられる中、夢の中の世界での戦いは〈ハシビロコウに指示される闘い〉から〈ハシビロコウとの戦い〉へと変容し、彼らのアバターは窮地に追い詰められる。
唯一、現実世界で動ける岸は、危機的状況に置いて「夢の中に行かねば、夢の中で勝たねば」と、夢に逃げそうになるが、目の前に倒れる製薬会社の社員を捨て置くことの矛盾に気付き、夢ではなく現実で敵を倒すことに力を振り絞ることが出来た。
すべてが終わったあと、3人は動物園のハシビロコウの前で「夢は終わったのか」「胡蝶の夢だったのか」と語り合う。
それを見ていたハシビロコウの嘴は、かすかに歪んでいたようである。

うわ~、長々書いたんですけどね、元・池野内夫人とか、栩木社長とか、製薬会社社員になった若者とか、私の好きなキャラについて言及できてないし、岸と栩木さん(この時はまだ社長じゃない)と小沢が巻き込まれたサーカスから逃げ出したトラと熊との闘いのこととか、それが起こった島のこととか、色々ホント書きたいエピソードはたくさんあるんですけど、全部書いてたらキリがないし、だけど全部いろんな伏線で…はぁ、ホントすごいですわ。この構成力。さすが伊坂さん。

それでも一つだけ、言及せずにはいられないことがあります。
語り手でありながらもずっと〈夢の世界〉について懐疑的だった岸が、製薬会社の地下倉庫でピンチになった時「夢に逃避」しそうになる。だが、そこから「目の前にある現実の危機」を乗り越えるべく行動をとった瞬間、夢の世界と現実世界が強くリンクして起死回生の一手を打つことが出来た・・・というエピソード。
私は、逃避しそうになる岸を、ずっと「夢世界よりも、目の前のことだよ!」と応援してました。
彼が、夢に逃げず、目の前の現実に立ち向かった瞬間、思わず「よし!行け!」と叫んでしまいましたね。
どちらが先か、どちらが大事かなんて、それに直面している人にとっては、直面してる事態の方が大事なんだと思います。
そういう、力強く生きていくことの大事さを、もう一度認識させてくれる、いいエピソードだったなぁ、と感じました。

それと、構成力もさることながら、『予言力』ともいうべき、まさかの〈パンデミックとのリンク〉ですよねぇ。
新型インフルエンザが出て来た時点で、アレ?この本そんなに最近だっけ?と慌てて奥付見たら、びっくりの2019年7月初版。
コロナのコの字も出て来ていない時期なんですよ。
我々の現実世界でも、池野内みたいな人が実はいて、ワクチン接種がもっとサクサク進んでくれないものですかねぇ。
私、まだ打ててません(2021/7現在)・・・。

物語の間に挟まれる、セリフのないコミックパートが夢の世界の出来事を描いてるんですが、とてもいいコラボですね。
物語の緊迫感を盛り上げたり、どっちが先の世界なんだろうかと考えさせられたり。
柔らかい画線なのに、戦いのシーンでは風が巻き起こる感じや叩きつけられる衝撃などが、ありありと伝わってきました。
セリフがないところが、夢の中の危うさに繋がってるような・・・。そんな感じがしました。

そういえば、「カタツムリの絵本」は『シーソーモンスター』とのリンクですね。
他にも何かあったかな・・・。私は気づかなかったけど、伊坂作品は結構ほかの作品世界と繋がってるものが多いので、「あの物語の後も(あるいは前も?)世界は続いてて、人々の日々は連綿と営まれていくんだなぁ」と感じられて、嬉しいですね。

(2021.07.19 読了)

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この記事へのコメント

苗坊
2021年07月21日 20:52
こんばんは。
ハシビロコウはこの小説を読むまでちゃんと知らなくて、読み終えた後に改めて検索して見てみたら怖いとしか思えなかったです^^;
最初は挿絵の意味があまりわからなかったのですが読んでいくうちに重なっていって、面白いコラボだなと思いました。
パンデミックのくだりは予知しているかのようですよね。
ご本人もびっくりしているのではないでしょうか。
リアルな世界も早く何とかなってほしいですね…
2021年07月21日 21:41
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
私も前情報なく読み始めたので、コミックパートには???だったんですが、物語の夢の世界の話なんだと分かると、何度も文章とコミックを行き来しながら、より深く読めるようになりました。

ハシビロコウは…確かにちょっと顔が怖いですよねぇ。
私も、これからは警戒心をもって彼らを眺めてしまいそうです(笑)。