『クララとお日さま』/カズオ・イシグロ ◎

カズオ・イシグロさんって、読むのに気力と脳の活用エリアを必要とする作家さんなんですよね、私。
難解である、というのとはちょっと違って、なんだろう・・・彼の作品の醸し出す〈郷愁〉に共感を覚えながらも、何かちょっとしたボタンの掛け違いを意識してしまうような・・・。
そんなふうに色々と考えてしまって、ノーベル文学賞の受賞第1作である本作『クララとお日さま』もまた、なかなか読み進められませんでした。

設定の説明が全くないまま、かなり高度なAIを搭載すると思われるアンドロイドが子供たちの〈AF=人工親友〉として展示販売されているお店から、物語は始まります。
AFたちの動力源は光らしく、彼らの中でもクララというAFは特に日光に対して崇拝に近い念をもっていた。そのクララの前に現れ、彼女を自分のAFとして手に入れたのが、病弱な少女・ジョジ―。
沈みゆくお日さまにジョジ―の回復を願い、その為に大気汚染をする機械を破壊すると誓うクララ。
クララの願いの叶え方を知らなくても助力するジョジ―の親友・リック、ジョジ―の母親と離婚した父親、そしてもちろん日々共に暮らしているジョジ―の母親、すべての人が過ちを犯したり誤解したりしながらも、懸命にジョジ―の回復を願っている。
そして、お日さまの奇跡がジョジ―に訪れ、だんだんにクララの役目は減り、回復し成長したジョジ―は大学に進み、クララはジョジ―の家を出る。

どれぐらい未来の話なのか、AFの存在意義や彼らの能力、ジョジ―達の受けた〈向上処置〉とは何か、社会情勢がどういうことになっているのか、ほぼ、説明はありません。私の推測が間違っていることも、あったと思います。
「ジョジ―の肖像画を制作している」カパルディが登場したことで、母親が何をしようとしているのか気付いてしまい、そんなことにはならないで欲しいと本当に胸が痛くなり、カパルディの言うことは絶対に真理ではないと、祈るような気持ちになりました。
ジョジ―の回復の後、カパルディが訪れて提案したことを母親が拒否してくれたことは、本当によかったです。
カパルディの言うことも分かります。ですが、それはクララには絶対に起こって欲しくなかったし、ジョジ―にはその提案すら聞かれずに済んで、本当によかったと思いました。

クララの願いをお日さまが聞き届けてくれたのか、といえば、それは違うのでしょう。
ただ、クララというAFが、そしてジョジ―の周りの人々が、ジョジ―を思う気持ちの強さが、ジョジ―に回復をもたらしたのだと思います。
こんなにテクノロジーが進んだ世界に、そんなことがありうるかといえば、それはないのかもしれません。
それでも、そうであってほしい、テクノロジーでは解明されない〈人とはなにか〉〈心とはなにか〉を鮮明な印象として残す素晴らしい作品だったと思います。

クララの健気さを一番理解していたのは、クララを販売していたお店の店長さんだったかもしれません。
彼女がクララを訪れたラストシーンの静かな温かさで、この物語の素晴らしさを、より一層感じられました。

(2021.09.03 読了)

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