『白昼夢の森の少女』/恒川光太郎 ◎

恒川光太郎さんさんがデビュー以来、あちこちで発表してきた短編作品を1冊にまとめた本書、『白昼夢の森の少女』
幻想的なもの、SF的なもの、ホラー・怪談物・・・、それぞれジャンルが違いながら、恒川さんらしさが奥底にたゆたうような、美しい物語たちでした。

「古入道きたりて」
戦地で聞いた、山中の不思議な現象の話。
「焼け野原コンティニュー」
生物だけが傷もなく倒れている世界で、記憶を失っては何度も蘇生する男。
「白昼夢の森の少女」
植物に侵食され、ひとつの森としてつながった人々。
「銀の船」
巨大な街を搭載した船で、老いずに永遠に生きられるとしたら。
「海辺の別荘で」
自分は椰子の実だと主張する女が、その半生を告白した。
「オレンジボール」
毬になってしまったぼくは、とある少女の部屋に5年間飾られた。
「傀儡の路地」
都市伝説が本当だったら。最後に主人公にだけかけられた呪い。
「平成最後のおとしあな」
こんなおとしあなは、嫌だ。
「布団窟」
子供の夢想かと思いきや、実録。
「夕闇地蔵」
命の光が見える者、大きな力に飲まれる。
「あとがき」
それぞれ、初出媒体も作風も違うので、著者コメントで解説。

どの物語も、寂しく、暖かく、別世界のようなのに、私達の世界のすぐ後ろにありそうな現実感。
それぞれ違った世界であり、独立した物語であるけれど、静かな重低音がそっと奥底を流れているような印象を受けました。

一番好きなのは、「白昼夢の森の少女」。多感な中学生の時、突然植物に侵食され、森と一体化した彼女は、長い長い生を過ごす中で、様々な出来事に出会う。
何故、その街だったのか。どうして生物に繁殖し、一体化し、そしてある程度育ち広がるとそれ以上勢力拡大しなくなるのか。
一切わからないまま、友人たちと別れ、母とも死に別れ、友人の子供と出会い、そして森を焼かれ、意識を喪失し、ずっと森とともに生きてきた。
語りかけてきた何者かとの会話が終わった時、彼女は「いくわ」と言う。何者かは「一緒に」と言ったらしい。
彼女たちは、どこへ行くのでしょうか。彼女たちが「いって」しまったら、森はどうなるのでしょうか。
想像すると、寂しくなってしまいました。

「平成最後のおとしあな」で、どうして語り手はこんな怪しいアンケートに一生懸命答えてるんだろう?彼女の行動とこの会話はどうつながるんだろう?とずっと不審に思ってたんですよね。それが、〈脱出のため〉だった・・とはねぇ。しかも、相手は〈平成のスピリット〉だから、彼女の願いは叶わず。
さて、彼女は助かるんでしょうかね。「おとしあな」なだけに、難しいかもしれません。

「海辺の別荘で」、短いながらも想像を掻き立てる展開でしたね。
女は、本当に椰子の実なのか。そして、女の話を聞いていたこの男は、何者なのか。何一つ、明らかにならないのだけど、妙に魅力的な物語でした。

「銀の船」は、物語としてというより、「私だったらどうか」ということを気にかけて読んでいたように思います。
まずは、私は「船に選ばれない」でしょうね、なんとなくなんですが。そして、たとえ選ばれたとしても、乗るかどうかの決断は、難しいでしょうねぇ・・・。20歳より前でしょう?その頃のすべてを捨てても、船に乗りたいかどうか・・・。
そして、たとえ乗ったとして、そこの生活に満足できたかどうか。あるいは、満足できずにいつか船を降りるのか。
案外、ズルズルといつまでも船で永遠を生きて、船の創造主?に嫌がられたかもしれません(笑)。

恒川作品らしい、美しい物語を読みながら、いろいろな世界に心を遊ばせることができました。
ガッツリ長編も良いけれど、こういったバリエーション豊かな短編も、いいですね。

(2021.10.19 読了)

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この記事へのコメント

2021年10月27日 12:39
水無月・Rさん、こんにちは!
こちらでこの本の存在に気がついて、借りて来ました♪

水無月・Rさんは、タイトル作が一番好きなのですね?
私もタイトル作と、おとしあな、が特に面白かったです。

不死で働かなくても、まったり生きていられる・・って環境(船のやつも)、実際は途中で嫌になったりする人も結構いるのかも・・・。
老いずに、そのままキープ出来てるって処もミソですね。

乗る年代が若い頃ってのもねー。これが、もうちょっと中年だったら、また違うかも。
2021年10月27日 19:37
latifaさん、ありがとうございます(^^)。
恒川さんの味がうまく出た、郷愁を誘うような物語たちが、とても美しかったですね。
「布団窟」も面白かったですね。淡々と、少年の不思議な経験を描いてると思ったら、恒川さんの実体験っていうのが、すごかったです。
恒川さんがあちらの世界に行ったままじゃなくてよかった・・・!